初めての猫との二人暮らしは、束縛してくるヒモ彼氏と暮らしているのと同じだ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:穂月 心 (ライティング・ゼミ特講)
「ごめんね、ちょっと待ってね。」
猫との二人暮らし。私は何度も何度もこの言葉を猫に話しかけている。
人間一人と猫一匹。
当然人間は一人なのだから、言葉数は少なくなると思われるのだが、猫と暮らし始めてから、黙っていることが少なくなった。終始猫に話しかけている。
そうでないと、猫がこちらに向かって、鳴いてきたり、腕にかみついたりしてくるからである。
よく、猫や犬に向かって赤ちゃん言葉で話しかけている人を見るが、私の場合、全くそうはならなかった。
何故か。
暴君。猫が暴君だから、である。
こうしてパソコンに向かっている間も、キーボードに乗ってきたり、手首にかみついたりしている。先程与えた御飯が足りなかったらしい。本当は二回に分けて与えられるはずのものが今日は1回目しかまだ与えておらず、私がキーボードを打ち始めたことに不満を抱いているのだ。
「ん? 何かに似ている……」
私の記憶に引っかかる。それは過去に御付き合いした半同棲の彼氏を思い出した。
その彼氏は、すべての生活費をこちらで払っていて、ヒモのような生活をしているにも関わらず、何かと束縛してきたり、要求をしてきたりしたものだ。
「ちょっと待ってね。すぐ御飯にするから」
「ちょっと待ってね。すぐそちらに行くから」
「ちょっと待ってね。すぐ窓をあけるから」
「ちょっと待ってね。すぐ掃除するから」
「ちょっと待ってね。すぐ……」
ただ、それに嬉々として答えている私がいたのを記憶している。
……同じではないか。
彼の意向に沿わないと暴力を奮われたり、口汚く罵られたりした。
彼の御飯を用意しないと、不機嫌に当られた。
収入が少なく、彼の分しか御飯を作れず、彼にはご飯を用意し、自分は食べられない日もあった。彼は私が食べているかどうかは全く気にしないようだった。
そのくせ、私が食べ始めると、『一口ちょうだい』と手を出してくる。
睡眠に対しても同様。
私が睡眠をとっているかどうかは気にしない。
自分が起きている間は、自分と遊んでもらわないとかみついてくる。
おそらく私が外出した後に、好きなだけ昼寝しているのだろう。
夜、私が疲れ果てて眠ってしまったら、最初は起こそうとして、起きないとわかったら
一緒に眠り込んでいた。
朝も起きたい時間に起き、何時だろうと朝食はまだかと私を起こしてくる。
起きるまで容赦なく私をくすぐり続けるのだ。
ただ、彼の意向に沿っている限りでは、彼はこの上なく優しく、愛すべき存在だった。
機嫌のいい時には、笑いかけてくるし、あくまで彼のペースで温かく包んでくれた。
昨日、別れ話を切り出して、私が夜中泣いているのを捨て置き、彼はぐっすり眠って、
次の日に私の愛情を試すための嘘だったとケロリとした顔で笑顔で抱きしめてきた。
私が彼を愛していることにひどく満足した様子だった。
私が傷ついていることは気にしていないようだった。
好奇心旺盛な彼の、興味のある遊びに同行して目いっぱい遊んだ。
次々に目を輝かせて遊んでいる彼を見るのが大好きだった。一緒に気が済むまで遊んだ。
飽きて疲れて不機嫌になるまでは楽しいひと時だった。私たちはその間は同志だった。
彼が危険なことに手を出そうとした時には、怒られながらも身体を張ってそれを阻止した。その為に怪我をすることもあったが、彼が怪我するよりマシだと思えた。
彼が楽しんでいる姿を、横でほほえましく見守っているのが好きだった。
ついていくのは大変だったけど、横を走りながら同じ体験をしているのが好きだった。
キラキラした目の彼と一緒に歩んでいるのが好きだった。
……全く同じではないか。
私は愕然とした。なんということだ。全く同じ轍を踏んでいる。
今も、ふと顔を上げると猫と目が合って、こちらを向いて
「く~ん」
と鳴いてきた。犬のような鳴き声だが、いつものこちらを窺がっているときのこの猫の鳴き声である。
以前の彼氏同様、大変なことも多々あるが、私はこの猫に愛されているということ、この猫を愛していることを日々実感していた。
大変なことが大きいほど、幸せなことも大きくなることも実感していた。
これから猫との暮らしを考えるあなたには是非覚悟を持って、愛すべき暴君と暮らすことを決断してから始めてもらいたい。
そうすれば、きっと愛すべき幸せな生活が待っているに違いないから。
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