夏休みの工作は『こころ』を大きく成長させる
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:西田 千佳(ライティング・ゼミ 日曜コース)
「来年はきっと選ばれるよ!」
悲しそうな顔を笑顔にさせようと思ったが、これ以上の言葉は見つからなかった。
はにかんではくれたが、瞳の奥は泣いていた。
私は、優しく見守ることしかできなかった。
一ヵ月前、『小学生の夏休み工作コンクール』を見に行った。
甥っ子の作品が展示されていると聞いたからだ。
このコンクールには、県内各地の小学校から選りすぐりの作品が出品されていて、小学2年の甥っ子は学校の代表となっていた。
たまたま甥っ子が家に遊びに来たので、一緒に見に行くことにした。
「これ、すごい! 自分で作ったの?」
夏休みの終わり、初めて甥っ子の工作を見た時には、正直驚いた。
甥っ子自身、満足のいく出来になったので、どうしても見て欲しかったらしい。
妹の家に遊びに行った時、甥っ子は真っ先に私に見せてくれた。
大事そうに抱えて運んできたのは、段ボールでできた大きなロボットだった。
「これね、ガチャガチャなんだよ」
甥っ子はニコッと笑って、後頭部に作った蓋を開け、ロボットにカプセルを入れて見せた。
胸を大きく切り抜いてセロファンを貼り、ロボットの中が見えるようにしてあった。たくさんのカプセルが詰め込まれているのが見えた。
「ちゃんとお金入れてから、矢印の方に回してね」
甥っ子がおもちゃの10円玉を差し出したので、コインの投入口から入れた。
ペットボトルで作ったハンドルの回りには、マジックで矢印が描かれていた。その通りにハンドルを回すと、中のカプセルが動き出した。
何度か回すと、カプセルがロボットの足の間から転がり落ちた。
顔には、目に見立てた2枚の星形シールを貼り、赤色のマジックで大きな口を描いていた。
お腹のあたりに、マジックで大きく『ガチャポン』と書いてあった。
私のエゴもあっただろうが、子供らしい発想がいっぱいの作品だと思った。
段ボールの色付けと組み立てだけを手伝ってもらったらしいが、あとは一人で作ったと得意気に言った。
「ほんとにすごいの作ったね!」甥っ子の頭をなでながら褒めた。
小さな鼻が少し高くなったような気がした。
そんな作品が、学校代表になったのだ。甥っ子は大喜びだった。
会場には、たくさんの作品が並べられていた。
小学1年生から6年生までの子供の作品だが、大人顔負けのものもたくさんあった。
多少、材料費がかかったような作品もあったが、ペットボトルの蓋や新聞紙など、どこでも手に入るような物を使って作り上げた作品もあった。
賞を取っていた作品は、本当に素晴らしい作品だった。
素人が見ても、大人でも真似できないものだと思った。
ただ、その中には、誰が見ても大人の手が加わっているのがわかる作品が入賞していた。
甥っ子の作品を見つけた。だが、何の札もついていなかった。
自分の作品を前にして、甥っ子は悲しそうに佇んだ。
「来年はきっと選ばれるよ!」
私の言葉に、甥っ子は一生懸命笑おうとしていた。その姿が愛おしかった。
甥っ子と同じ学校の、1学年下の子供の作品に『佳作』の札が掲げられていた。
お祭りの様子を、木片や粘土を使って表現した作品だった。
御神輿は細かな木片を組み上げて作られ、それを担ぐ人たちの表情まできちんと描かれていた。細かく細工した部分が多かった。
小学1年の子供が作った作品には到底見えなかった。
甥っ子はほぼ自分の力で作ったのに、その子にはたくさん親の力が加わっていた。
誰が見ても、絶対に子供一人で作られるものではなかった。
そこまでして、立派な作品を作りたかったのか。
夏休みの宿題が間に合わなかったから、親が手を加えたのか……
子供自身で作ったと思えない作品が入賞するなんて、ありえないと思った。
そんな『ズル』をしてもらった賞は、本当に嬉しいんだろうか。
子供が賞を取って親が喜んでいたら、その親の姿を見て子供も喜んだだろうか……
甥っ子は、その『佳作』の作品をじっと眺めていた。
何かを感じたのだろう、目に溜まった涙が溢れそうになっていた。
私の目線に気づいた時、急にその場から走り出した。
走っていくうしろ姿を、一生懸命追いかけた。
小さな心が張り裂けそうになっているのを助けたかった。何とかしたかった。
会場のある場所で、急に甥っ子が立ち止まった。
お陰で追いつくことができた。
声をかけようとしたが、甥っ子の姿を見てためらってしまった。
甥っ子は、真っ直ぐに一つの作品を見つめていた。
『県知事賞』と大きな札が掲げてあった。小学6年の子の作品だった。
未来にはばたく姿を、木材をメインにいろんな材料を組み上げて表現したものだった。
夏休みの時間をいっぱい使って、一生懸命作り上げたのだろう。そんな気迫が感じられた。
大きな作品だったので、甥っ子はじっと見上げていた。
私は、少し離れて、甥っ子の姿を見つめていた。
長い間その場にいた。
ふと我に返った甥っ子は、私の姿に気づき、歩み寄ってきた。
何かを感じたその顔は、何となく晴れやかだった。
「来年も夏休み、あるもんね」甥っ子に声をかけてみた。
甥っ子は大きく頷づき、振り返ってもう一度『県知事賞』の作品を見た。
そして、私の手を引っ張り、会場を後にした。
少し前を歩く甥っ子の足取りは、しっかりしていた。
心なしか、少し大きくなったように見えた。
これからの成長が、ますます楽しみになった。
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