楽しさは「どうでもいい話」の中に
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記事:りょう(ライティング・ゼミ日曜コース)
「今年のインフルエンザは、例年より早く流行するとみられています。早めの予防接種が肝心です」
ニュースキャスターのこの一言がきっかけで、父(54歳)と母(54歳)による、ぼくにとっては「どうでもいい話」が始まった。ぼく達は夕食のカレーを食べている最中だった。
「そういえば私が妊娠していたとき、インフルエンザにかかって。それで当時は『タミフル』とか『リレンザ』とかインフルエンザの薬がなかったから、家で寝てるしかなかった。そのころはインフルエンザっていう言葉もなくて、流行性感冒(りゅうこうせいかんぼう)、略して流感(りゅうかん)って言ったのよ」と母。
それに対して父は、母の話を聴く訳でもなく、
「え、うそでしょ。俺らが子どものときから『インフルエンザ』っていう言葉使ってなかったけ?」と応戦。
「いや、『インフルエンザ』って言葉ができたのは最近だよ。だって妊娠中医者に『流感ですね』って言われたのはっきり覚えてるもん」と母。
「それはさ、住んでる地域によって、差があるんじゃない? ほら、言葉って浸透するのに時間がかかるし」と父。
「あー……また始まった……」と心の中で唱えるぼく。
これはいつも通りの展開だ。
うちの両親は、答えがわかりそうでわからないことについて、2人でよく言い合いをする。お互いに譲らない。
でもぼくにとっては、いつから「インフルエンザ」という言葉が使われるようになったか
なんてどうでもよかった。調べれば結果がわかりそうなことは、議論するよりも調べた方が手っ取り早いし、答えも得られて、合理的。
父と母がしている「どうでもいい話」は無駄だと思っていた。
今「インフルエンザ」と呼ばれているのだから、それでいいと思うし、その歴史や背景は知らないが、特に調べようとは思わない。
だから2人がなぜ「どうでもいい話」で言い合いをしているのかがわからなかった。
5分ほど言い争いをして、母はいきなり最終兵器を取り出した。
スマートフォンだ。
スマホを使いこなすのは父よりも母の方で、情報戦では母が圧倒的に有利だ。
画面を見ながら指をささっと動かした。
「インフルエンザ 歴史」と検索したのだろうか。
「『リレンザ』ができたのは2000年で、『タミフル』ができたのは2001年だから、
『インフルエンザ』と呼ばれるようになったのは、その頃からなんじゃない?」と母。
「そっか〜そうなのかなぁ。いや、でも……」と押され気味の父。
ぼくはカレーを食べ終わって、食器を片付けた。
リビングのソファーに寝っ転がって、2人のやり取りを見ていた。
なぜ「どうでもいい話」をしているのかわかった気がした。
言い争いをしながらも、いつもはあまり笑わない父は笑顔だったし、母も笑っていた。口調は強めだけど、お互いにわがままを言う子どものように無邪気にも見えた。「よくわからないけどなんか仲良くて楽しそうだなぁ……」と思った。
うちの両親が「どうでもいい話」をするのは、ただ単純に「どうでもいい話」をすること自体が楽しいからなのだと思った。
ぼくはいつの頃からか、話すことや会話をすることに、「無駄」とか「有益」という意識を持っていたと思う。「無駄」だと判断したことは話さずに「有益」だと思ったことだけを話したり、聞いたりするようになっていた。だから雑談のほとんどは「無駄」だと思っていたし、するのもされるのも嫌で苦手だった。気づかないうちに自分の感情や考えすらも「無駄」に分類してしまっていた。「話すこと」そのものが楽しいものだという考えはなかった。
でも、2人を見ていて、人間って話をするだけで楽しいし、幸せかもしれないと思った。今まで「無駄」だと決めつけていたものの中に、楽しさが隠れているのかもしれない。次に一緒に夕食を食べるときには「どうでもいい話」に参戦してみようと決めた。
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