目指さないキャリア
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記事:オノミチコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「キャリアというものは、自分の歩いてきた後ろにできる轍のようなもの」
先日参加したセミナーで聞いて、強く印象に残った言葉だ。
キャリア、と聞くとそれだけでわかったような気になっていたけれど、「自分の後ろにできるもの」という意識はあまりなかった。
むしろ、「目指すキャリアのために」とか「キャリアを描く」とか、どちらかというと自分の先にあるもののように思っていた。
言われてみれば、キャリアはもともと英語の”career“から来ているだろうし、空港や駅でよく見るキャリーケースの「キャリー」だって同じ語源のはず。
そう考えれば、自分の先にある道筋ではなくて、自分が歩いてきた道を振り返ったときにできているもの、であることは容易に想像がつく。
いつからキャリアは「目指すもの」になってしまったのだろう。
大学を卒業したとき、私は将来の展望がまったく見えていなかった。
世の中にどんな仕事があるのかもよく知らないまま就職活動をし、必要だと言われる自己分析は表面的にしかしていなかった。
行きたいと思う企業はあったけれど、その「行きたい」という想いも、知名度やイメージが先行して、業界研究や企業研究は中途半端だった。
当然のことながら、第一志望の企業には採用されなかった。
就職活動をナメていた、と言えばそれまでだが、なんというか、何を目指せばいいのか自分でもよくわからなかった。
漠然と「こんなことがしたい」というものはあったが、それをどう実現したらいいのかわからなかったし、そもそもそれが自分に合っているのかもわからなかった。
そのために自己分析をするのだろうけれど、考えれば考えるほどわからなくなって、面倒くさがりの私は、ついには考えることを放棄した。
なんとなく就職をし、なんとなく仕事をした。
そんなものだと思っていた。
その後、まったく別の業界に転職をし、今はまた別の業界に身を置いている。
いずれも、流されてたどり着いた。
最初から目指していたわけではないし、それぞれの仕事はなんのかかわりもないように見える。
けれど、いま自分がいる場所は、昔から憧れていた分野に近い場所だ。
気づかないうちに、ここまでたどり着いていた。
「キャリアには、山登り型のキャリアと川下り型のキャリアがある」
冒頭のセミナーで話題になったのが、この「川下り型」のキャリアだった。
目指すものが明確にあって、そこに向かっていくのが山登り型。
一方、川下り型は、目の前のことに対処しながら、結果としてどこかにたどり着く。
やりたいことを見つけよう。
好きなことを仕事にしよう。
そんな言葉を目にするたびに、やりたいことや好きなことが明確になっていない私は「このままじゃいけない」と不安にかられていた。
目指すものがなければ、どこにもたどり着けないんじゃないかと不安だった。
けれど、ちゃんとたどり着いた。
振り向けば、そこには自分だけのキャリアがあった。
もちろん、実現したいものがはっきりとしている人はそれでいい。
目指すもののために努力して、一歩一歩近づいて、まっすぐと突き進んでいける人。
そういう人が私はとてもうらやましい。
やりたいことが見つからない。
将来の目標が決まらない。
だから踏み出せない、という人は多いと思う。
けれど、それならそれでいいんじゃないだろうか。
やりたいことかどうかわからなくても、とりあえずやってみる。
将来の役に立つかどうかわからなくても、興味があればやってみる。
興味がなくても、いやだと思わなければやってみる。
目指すものが明確じゃなくても、できることは必ずある。
まっすぐに進めないからこそ、積める経験がある。
世の中は目まぐるしいスピードで変化していて、自分の計画が役に立たないときだってある。
だったら、今できることをやればいい。
「ずっとやりたいこと」がわからないなら、「今やってみたいこと」をやればいい。
ひとつひとつは関係がないように見えても、その点はいつか必ず線になる。
点が多ければ多いほど、線を引くのは楽になる。
キャリアは自分の後ろにできるもの。
それは、仕事に限らず、生きるなかで身につけていく点がつながってできていくもの。
これからどんな場所にたどり着くのか、自分でもちょっと楽しみだ。
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