時間をかけて「何もしない」というコト
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:有村奈津美(ライティング・ゼミ日曜コース)
あなたが普段、時間をかけて、行なっていることはなんだろうか?
料理や掃除、洗濯などの家事? 毎日の仕事? それとも勉強?
人それぞれ思い浮かべることは違うかもしれないが、多くの人が、何かを「得るために」時間をかけているのではないだろうか。
仕事なら、お金ややりがいを得るためかもしれないし、勉強なら新しい知識を得て、いい学校に入るためやキャリアアップのためかもしれない。
私も普段、何かしらを得るために、いろんなことに時間を使いながら、日常生活を送っているのだが、この前、2時間という時間をかけて、「何もしない」という体験をしてきた。
その体験とは、お寺での「坐禅」だ。
「坐禅って何をするんだろう?」
「足を組んで、ずっと座っているなんて、足が痺れそうだな……」
そんなことしか考えられないくらい、坐禅のことはよく知らなかった。ただ、会社の人に誘われて、お寺に行くなんて面白そうだな、くらいの興味本位だった。
そのお寺は駅から徒歩15分ほど離れた場所にあった。時間に余裕がなかったので、お寺まで小走りで向かい、バタバタと受付を済まし、財布と携帯を貴重品ボックスに預けた。
時間に追われて急いでやってきた私たちとは対照的に、ゆったりとした所作のお坊さんに「担当の者が案内しますので、お部屋で少々お待ちください」と、畳の部屋に案内された。
部屋に案内されたのはいいものの、15分ほど何も音沙汰がなかった。普段、電車に乗っている時も、待っている時間も、携帯を触ったり、本を読んだり、常に何かをしていないと落ち着かない私にとって、何もすることのないその15分は、とてつもなく長く感じた。部屋はシーンと静まり返っていて、時計の針の音だけがやけに大きく鳴り響いていた。
体感時間では数時間も経ったように感じた後に、ようやく坐禅をする部屋に案内された。
そこで、お坊さんのお話を聞いた。印象的だったのは、『坐禅は何かを得ることが目的なのではなく、ただそこに坐るということ、そして自分の原点に返ることが目的なのだ』という話だった。
坐禅を行う前は、どこかで坐禅や瞑想をすれば、集中力や創造性が上がりそう、ストレスが減りそうなど、勝手にメリットを考えていた。しかし、仏教の教えでは、坐禅という行為そのものが身と心の調った仏の姿であり、お坊さんたちは、何もせず、ただそこに坐るという「坐禅のために」、普段から修行を行うのだそうだ。
話を聞いて、なんとなく理解できたような気がするものの、まだよく分からない、という段階で、実際に坐禅をする時間になった。
足の組み方を教わり、体を揺らしながら、自分の心地いいポジションを探し、姿勢を調え、ゆったりと息を吐き、そして息を吸う。そうやって、息を調えながら、そのまま、ただぼーっと畳を眺め、30分ほどただ坐っていた。終わった後には、なんとも言えないスッキリ感があった! といいたいところなのだが、正直、得られたものは何かよく分からなかった。
「坐禅やってみたけど、何も得られなかったな……」
そう心の中で思った時に、ハッとした。そもそも、坐禅は何かを得るために行うのではない、と最初にお坊さんから聞いていたにも関わらず、時間をかけて何かを行なったら、対価として、何かを得られることを、無意識のうちに期待している自分がいるのだと、その時気づいたのだった。
「自分こそが、自分の本当の拠り所である
その自分を放っておいて、誰が拠り所となり得ようか
正しく調えることの出来た自分こそが、真実
他からは得られない拠り所となるのである」
お坊さんが最後にこんな言葉をシェアしてくれた。
現代社会では、色んなモノやコトが溢れ、変化も早く、常にスピードを求められる。そんな中で、ついつい自分の心が、周りのモノやコトに惑わされて、自分から離れていってしまう。しかし、最終的には自分の健康的な体や心とつながる事が一番、内側から満たしてくれる。何か物足りない、もっと頑張らないと、多くを得ないと、と思っている時ほど、周りの物事とは一旦距離を置いて、自分と繋がることが大事なんだよ、と。
この話を聞いて、坐禅に限らず、色んなことに対して、足し算ではなく、引き算が求められているのかもしれない、とふと感じた。食べ過ぎが原因で、生活習慣病が増えたり、SNSの発達によって、いつでも他人と繋がっていないと不安に感じる人が増えたり、世の中はどんどん便利になっている一方で、不健康になる人が増えているようにも感じる。
断食やデジタルデトックス、ヨガなどがこれだけ注目されているのは、モノやコトが増えすぎた現代社会で、『引き算』の重要性が高まってきたからなのではないだろうか。
「あれも欲しいこれも欲しい」「まだまだ努力が必要だ!」 などともっともっと病にかかり、少し疲れたな、という人がいたら、時間をかけて、「何もしない」ということに一度トライしてみてはいかがだろうか。
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