メディアグランプリ

僕は心優しい人殺し


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:近藤 泰志(ライティングゼミ平日コース)
 
 
「泰志さんは人を……殺していますね」
 
そういってMさんはまっすぐに僕を見つめている。
僕が人を殺した? どこで? 誰を? いったいこの人は何を言っているのだろうか。
僕の頭の中は彼女の予期せぬ言葉にかってないほど混乱した。
 
「え? ど、どういうことですか?」
「ですから前世で人を殺しているんですよ」
 
Mさんの目は真剣だ。とても冗談や嘘で言っているようには見えなかった。
 
ここは京都、蛸薬師通りのとある雑居ビルの5階。窓下には思い思いの京都観光を楽しむ人達であふれている。顔は見えないがきっとみんな京都を楽しんでいるはずだ。そんな幸せいっぱいであろう人達の頭上で、10分前に初めて出会った女性に「前世のあなたは人殺し」と僕は告げられた。
 
今思えば軽い気持ちだった。前世占いをしてくださるというMさんを某占い館のホームページで見つけて、元々自分の前世に興味があった僕は京都旅行の締めくくりにMさんとの対面占いを予約した。
 
「前世は誰か名のある武将や、小説家だったらいいな。いや、幕末好きだから維新の志士だったら嬉しいな。それとも新選組の隊士だったらどうしよう?」
 
そんな浮かれ気分でやってきた僕にMさんはカウンターパンチ……いや、即死レベルの答えをくらわしてきた。
 
僕は今まで世間様にはなるべく迷惑をかけないように生きてきたつもりだった。しかし前世では殺人犯だというのだ。泥棒でも強盗でもなく人殺しだ。迷惑かけまくりじゃないか。
動揺を隠しきれない僕にMさんは少し困ったような顔をして話し続けた。
 
「それでね、泰志さんが殺したのって一人だけ、じゃないんですよ」
 
……一人じゃない?
え? この人ちょっと何言っているかわからない。
 
僕の頭は混乱を通り越して思考を停止して強制終了にさしかかろうとしていた。人殺しと言われただけでもショックなのに何人も殺しているとMさんは言うのだ。もうおしまいだ。
自首しよう。前世とはいえご遺族の方々になんとお詫びをしてよいのか言葉も見つからない。
 
「前世で僕は何人殺したんですか? いつ? どこで? どうして?」
 
僕は最後の力を振り絞って蚊の鳴くような声でMさんに質問をした。
 
「これ……言って良いのかな」
「教えてください。お願いします」
 
これが藁をもすがるという思いなのか。前世とはいえ人を殺した僕は犯行動機を聞かなければならないのだ。
 
「泰志さんはね、戦国時代にわかっているだけで300人は殺しているんです」
「さ、さんびゃくーーーーーーーっ!」
 
多くて3人ぐらいかと思っていたが、前世の僕は300人も殺していた。これは自首とかそういうレベルではない。きっと処刑されたんだ。三条河原でさらし首か、それとも石川五右衛門のように釜茹でにされたのか、不謹慎だがもう笑うしかなくなってしまった。半分おかしくなってしまっている僕にMさんは続きを話してくれた。
 
前世の僕は戦国時代に京都で農業をしていたそうだ。子供が4人いてそれなりに幸せにくらしていた。馬に乗るような武将ではなかったが、足が速くて槍の名手なので戦があると必ず駆り出されていた。連戦連勝とはいかなかったようだが、それでも生きのびていたのは相当運がいいか強かったのだろう。Mさんが言うには前世の僕はたくさん戦に参戦したからトータルで300人は殺したというのだ。それでもすごい数だ。眩暈がしてきた。
 
「でもね……仕方がなかったんですよ」
Mさんは僕を慰めるように優しい声で話してくれた。
 
「だって戦ですよ。テレビゲームじゃないんです。戦争なんです。泰志さんが殺さないと相手に殺されちゃうんです。泰志さんが殺されたらご家族はどうなりますか? だから仕方がなかったんですよ。自分が生き延びるために心で泣きながら相手を殺してきたんです」
 
確かにそういわれるとそうかもしれない。前世の僕は快楽や趣味で人を殺してきたのではなかったということがわかっただけで少し救われたような気分になった。
 
「結局、僕……というか前世の僕はどうなったのですか? 最期は処刑ですか? 討ち死にですか?」
 
300人も殺しているのだから討ち死にも処刑も仕方ないと思っていた僕にMさんは前世の僕の最期を教えてくれた。
 
「70歳で亡くなっています。最後は自分が戦で殺してきた人たちの弔いをしつつ贖罪の日々を送りながら一生を終えられましたよ」
 
ピピピピッとタイマーの音が鳴った。占いの時間が終了した合図だった。
 
Mさんに丁重にお礼をして僕は雑居ビルを後にした。京都の神社仏閣巡りが好きなのも、もしかしたら前世の贖罪の続きをしているのかもしれませんねとMさんが話してくれた。
僕はその足で寺町通りを歩いて本能寺に向かった。自分の前世を知ってしまったからにはひとえに拝まずにはいられなかった。
 
物言わぬ無数の目が一心不乱に冥福を拝んでいる僕をじっと見つめているような気がした。
 
 
 
 
***
 
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2019-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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