年末ジャンボ宝くじを買う人は「馬鹿」なのか?
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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井上敬介(ライティング・ゼミ平日コース)
「あんなに並んでまで買うって……当たるわけないのにねー」
私の前方を歩いていたカップルが、宝くじ売り場に並んでいる人たちを尻目に、ぽつりとつぶやいた。
そこは「日本で一番行列ができる」といわれている、東京・銀座の宝くじ売り場。
年の瀬ということもあり、毎年恒例の「年末ジャンボ」を求める人で行列が出来ていたのだった。
年末ジャンボ宝くじの1等の当選確率は、およそ2000万分の1。
なるほど確かに、この寒い中、当たる確率がとてつもなく低い宝くじを求めて行列を作るのは、馬鹿げているのかもしれない。
でも、私は知っている。
宝くじを買う人のすべてが「絶対に当てる!」と思いながら買っているわけではないということを。
—–
私もかつては「宝くじなんて、買ってもしょうがない派」の人間だった。
「宝くじほど還元率の悪いギャンブルはない」なんて記事はネットに溢れかえっているし、にもかかわらず、そこに一縷の望みをかけて、宝くじの大量購入をする人なんて、なんて馬鹿なんだろう……と思っていた。
だが、ある出来事がきっかけとなり、私の中の「宝くじ」の見方は一変することになる。
それは、1年前のクリスマスのこと。
もう長いこと付き合っている彼女から「クリスマスプレゼントに」と、年末ジャンボ宝くじを1枚、もらったのだった。
「いや、確かに「もう欲しいものもないし、今年はプレゼントいいよね」って話したけどさ、こんなのもらっても……」と若干呆れていた私に彼女は、
「別に「当たったらいいな」って思って買ったわけじゃないの」と言ったのだ。
んん?
どういうこと?
「宝くじを買って、当選発表までの間に『もし当たったらどんなことしたい?』とか、『将来どんなところに住みたい?』とか、そういう話をして盛り上がれたらなって思ってさあ」
なるほど……と、ちょっと感心してしまった。
彼女は「いつか現金になったらいいモノ」をプレゼントしてくれたのではなく、「将来の話を面白おかしく話すきっかけになるモノ」をプレゼントしてくれたのだな、と気づけたからである。
それから、当選発表日である12月31日まで、彼女と色々な話をした。
自分がこれからやってみたいこと。住んでみたい場所。旅行で行ってみたい国。車を買い替えるとしたら何にしようか……などなど。
「宝くじがもし、当たったら」という前提で話をするのは、確かに、楽しかった。
当選発表の前日なんて「ついに明日だねー! わくわくするね!」と言って、かなり盛り上がってしまった。
結果からいうと、もちろん当選なんてしなかったのだが、1枚300円の宝くじで、ここまでわくわくする日々を過ごせるようになるとは……!
私の中で、これまで「お金が欲しいけど稼ぐ手段もない人が、一獲千金を狙って買うもの」という認識だった宝くじが、「仲のいい人と、わくわくする未来の話をするきっかけになるもの」という認識に変わったきっかけだった。
—–
さて、時は元に戻り、現在。
「日本一行列のできる宝くじ売り場」には、大勢の人がつめかけている。
彼らは「馬鹿な人たち」だろうか?
もしかしたら皆が皆「絶対に当ててやる!」と思いながら買っているのかもしれないが……きっと、そんなことはないのではないだろうか。
彼らにも家族がいる。
寒い思いをしながら並んで買った宝くじを家に持って帰り「もし当たったら、どうしようか?」なんて話を、ワクワクしながら話しているに違いないのだ。
結局当たらなかったとしても、一年の総まとめの時期である年末を、ワクワクしながら過ごせるだけで、宝くじを買った価値があったなあ、と思えるような人も、その行列の中にはたくさんいるはずなのだ。
もし、この記事をここまで読んでくれたあなたが「宝くじなんて、買ってもしょうがない派」の人だったとしたら。
ぜひ一度、物は試しと思って、宝くじを1枚買ってみてほしい。
1枚300円。そう高くはない金額である。
買ったらまず、当選発表日の確認だ。
来る「その日」に向けて、家族や友達と「もしこれが当たったら……」なんて話をしてみてほしい。
この時のコツは、当たった時のことを本気で想像しながら話すことだ。
そしたら、きっと思いもよらずに盛り上がれるから。
もし当たったら、それはもう「おめでとう!」なのであるが、
外れてしまっても、たった300円である。
「なるほど、このワクワクが、たった300円か!」
宝くじを買う人は馬鹿なんかではなくて、少ない金額で日常にちょっとしたワクワクを買い足していた人なんだということに、気づくはずである。
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