【サッカー】ジョゼ・モウリーニョの帰還【Premier League】
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記事: 熊元 啓一郎(ライティング・ゼミ平日コース)
2019年11月20日、僕はこの知らせを聞いて歓喜した。
『ジョゼ・モウリーニョ、トッテナムの監督に就任』
ついに、あの男がサッカー界に帰ってきたのだ。
彼が以前率いていたマンチェスターUを解任されてから約一年ぶりの出来事だった。
それまでの間、レアル・マドリードやユベントスなど海外では有名なチームを始め多くのチームへの監督復帰の話が聞こえたが、どれも噂に過ぎず、そんな話を聞くたびに僕は一喜一憂した。
でも、今回は違う。
クラブチームのホームページで発表があったのだ。
今回は絶対に間違いない。
また、フィールド上で彼の姿を見ることができるのだ
僕は早速twitterのアカウントでこのチームをフォローしたのだった。
ところでもし、
「自分が一番とは思わないが、自分より優れている人間がいるとは思わない」
そんな発言を聞いた時、あなたはどう思うだろうか。
きっと、なんて傲慢な人間だと思うに違いない。
例えば同じ職場に、こんな人間が近くにいたら絶対に人間関係で摩擦を起こしそうだし、友達として仲良くなることは難しいかもしれない。
少なくとも僕はそう思った。
しかし、同時にその言葉は聞き返してみると独特のウィットを感じさせる。
傲慢な発言であることには違いないが、単に自分が一番だと言っているわけではない、どこか知性を感じさせる言葉だ。
そして、この言葉の発言者が自分の上司や会社のトップならどうだろう?
実績も併せ持ち、自分に自信を持っている人間だとしたら、きっと、これほど頼りになる人もいないかもしれない。
その発言をした人間こそ、ジョゼ・モウリーニョ。
彼はspecial one(特別な存在)である。
サッカー界では知らぬものはいないほど有名なこのポルトガル人監督、抜群の実績を残している。異なる2つのチームで、欧州王者に導いた監督であり、イングランド、イタリア、スペインなど欧州の主要のサッカーリーグで優勝するなどを数々の偉業を成し遂げている。率いたチームを優勝させることから優勝請負人と呼ばれていたこともあった。
また、このポルトガル人監督には華がある。
情熱的にチームを鼓舞し、劇的な勝利を挙げた際にフィールド上を走って選手と抱き合ったり、ロッカールームで怒号を上げ選手に檄を飛ばしたり、時には観客をお前たち声援はこんなものかと煽ったり。
その光景の一つ一つが絵になるのである。
彼のサッカーに対する激情は並々ならぬものがある。
さらに、このポルトガル人監督は言葉巧みな役者でもある。
海外のサッカーでは、対戦前にチームの監督や選手が舌戦を繰り広げることがある。
そしてモウリーニョはこういった場外戦を得意だ。
対戦相手やメディアに対して、攻撃的な発言や相手からの挑発に応戦することが多いが、その言葉の中には皮肉や知性を感じさせるかっこいい言葉が多いのだ。
モウリーニョがチェルシーというチームの監督に就任した時。
当時チェルシーはリーグのまだ中堅からやや上位に位置していたチームだったが、クラブのオーナーになったロマン・アブラモビッチによって大規模な補強がなされた。当時マンチェスターUの監督から
「資金が潤沢だからと言って、勝てるとは限らない」
と挑発された際に、
「彼の言うとおりだ。現に昨シーズン、私が以前指揮したチームがその10倍もの予算のマンチェスターUを破ったのだから」
と返したり、
ヨハン・クライフから結果主義と批判したことに対して、
「教えは請うがチャンピオンズリーグ(欧州のサッカークラブのチャンピオンを決めるリーグ)の決勝を0-4で負ける方法は知りたくない」
と言って、クライフが以前決勝で0-4の大敗を喫した事を絡めて皮肉を言ったり。
相手を批判するにしても、言い得て妙というか、かっこよく感じるのである。
そして、人からspecial oneと呼ばれ始めたのではなく、自分からspecial oneと呼ぶところが彼の凄さでもあり、彼の彼たる所以なのだろう。
モウリーニョの強いリーダーシップ、サッカーに対する情熱、そしてウィットに富んだ彼の発言は、他のチームのサポーターにとっては好まざるものかもしれないが、自分に確たる自信と信念を持ちチームを率いる姿は、本当に憧れたのである。
そして、彼がクラブチームを変えるたびそのクラブにファンになって彼を追い続けたのである。
彼が就任し、チームが優勝した時は歓喜し、そして、少々大げさかもしれないが、彼がチームを解任された時、まるで自分が否定されたような悲しみを抱いた。
ただ、解任されても実績のある名将だ。
選手やサポーターから支持され優勝という結果を残していく監督なのだから当然引く手数多の状態だった。
ただ、最近はどうも様子が違う。
2018年12月18日、彼がマンチェスターユナイテッドを解任された。
一つの理由はチームが勝てなくなったことだ。
一斉を風靡した堅守速攻のカウンター戦術だったが、それも時代とともに研究されてきた。また、同じリーグでも彼と並ぶ、あるいは彼以上の実績を有する監督が現れたこともある。
また、もう一つの理由は選手たちとの不和が原因だった。
モウリーニョは選手のモチベーションを高めるのは得意な監督だったが、その指導方法は叱ることで相手を焚きつけると言った、少し古い方法だった。
それは世代が変わるにつれて、受け入れられるのが難しくなって言ったのかもしれない。
チームは勝てなくなり、解任。
現場を退いてから、僕はサッカーに対して熱を失いつつあった。時間があるときに試合を見ていたが、好きだったチームの試合も興味を失い、次第に見なくなった。契約していたスポーツ専門チャンネルも解約し、ときどきYahooニュースで結果を確認するくらい。
あ、今年はあのチームが優勝したのか。
ああ、あのチーム、今年は調子悪かったな。
え、あのチームの監督まだ解任されてないの?
ニュースを見て、心の中で何かしらリアクションは起こっていたが、僕の感情を揺さぶるものではなかった。
そう、彼のいないサッカーは僕にとって味気ないものになっていた。
ただ、完全に姿を消したわけではなくて、ときどき解説者として試合に足を運んではいた。相手を分析して戦術を練る監督なので、解説するチームに対する言動一つ一つが的確だったし、ときどき、求められたコメントに対して、ウィットに富んだ、毒のある言葉を返すのは流石だと思った。
しかし、それは少なくとも僕が見たかった彼の姿ではない。
ピッチ上で選手やスタッフとともに勝利を喜び分かち合う情熱的で、ピッチ外では敵将と舌戦を繰り広げるような苛烈な姿はもう見られないのかと思うと残念でしょうがなかった。
再びピッチ上で彼がチームを指揮する姿を見たい。
そう思い続けてから1年間
僕とっては待ち望んでいた復帰だったの。
ただ、今回指揮することになるトッテナムが所属するイングランド、Premier Leagueは強豪ぞろいのチームである。昨年、欧州王者になったリヴァプールを始め、リーグ王者のマンチェスターシティ、2013-2014年に王者になった時期を思わせるような好調ぶりのレスターシティ、そして、現役時代にモウリーニョに指導を受けていたランパード監督が指揮するチェルシー。様々な強豪がぶつかりあうリーグだ。復帰したモウリーニョがこのリーグで再び復活の狼煙をあげるかはわからない。でもあの情熱的な男がこのまま終わるとは思えない。
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