書店人のロマン〜真剣勝負の関西書店人サロン「本真会」〜《天狼院通信》
急に関西出張が決まり、いち早く、その旨を宮脇書店柏原店の店長であり大阪府書店組合常務理事でもある萩原さんに伝えると、こんなメッセージが届きました。
「今月はちょうど、私が主宰している勉強会 本真会 の開催月で、それが23日の火曜日に開催されます。ここには、関西で頑張っている書店人が20名程メンバーでいます。三浦さんもぜひ、参加してみませんか?」
以前、東京で萩原さんにお会いした時(そう言えば飲み会の後、二人で飯田橋でサシでラーメン食べました笑)にも、「本真会という面白い会をやっているから、ぜひ、参加してくれ」とお誘いを受けていました。また、様々な方から噂も聞いておりました。
なんと、今、テレビやラジオに引っ張りだこの『海賊とよばれた男』の百田尚樹さんも招かれて講師をしたこともあるらしい。
「参加させてください! それに合わせて出張の日程を組みます!」
と、僕は二つ返事で参加させて頂くことにしました。
いやー、それが本気ですごかったです!
確かに、東京でもそういった書店の勉強会もあって、僕も何度か様々な勉強会に参加させてもらったのですが、正直言ってしまえば、何か物足りなさを感じておりました。いつも、帰りの夜道、「違うな、こんなことを繰り返していても意味ないよな、時間の無駄だよな」と釈然としない気持ちを抱きながら帰っていたのですが、昨日の「本真会」は違っていました。
萩原さんと昨日講師だったアミーゴ書店六甲道店店長の中井さんに車でホテルまで送っていただいたんですが、その車内でもディープな話は途切れませんでした。
これから、僕が天狼院をどうしたいのか、様々な問題に対してどう対応すればいいのか、僕は書店歴が長い皆様から本当に生徒の立場で様々教えていただきました。
思えば、こういう機会を、僕は一度も持ったことがありませんでした。
「なにか違うな」と感じていた東京で行われた勉強会は、考えてもみれば、書店経験者が主催するものではございませんでした。
また、僕は書店に在籍した時代、考えても見れば、そういったディーブなことまで聞ける環境にありませんでした。
考えても見れば、そう、僕はこういう環境に一度も身をおいたことがなかったのです。
これまではほとんど自己流で、唸りながら、編み出してきました。
ところが、関西では、実際の戦場をくぐり抜けてきた人が、本気で「書店」について激論を交わしている。
それはまるで、幕末の京都の新選組が真剣で稽古をしているようなもので、あるいは、その時僕は、坂本龍馬が田舎から初めて江戸に出てきた時に、北辰一刀流千葉道場を見た時と同じような驚きを、覚えたのかもしれません。
端的に言ってしまえば、僕はその場に参加させてもらって、嬉しくて仕方がありませんでした。
昨日の講師だったアミーゴ書店六甲道店店長の中井さんは、いわば、書店人界の「匠」です。書店歴が長く、しかも、実際に本を読んでいるので、本に対する知識が豊富です。
「匠」タイプの方と、僕も何人かお会いする機会があったのですが、他の業界でもそうでしょうけれども、そういった職人気質な方は普通なら「そんな簡単なこと、なんでわからないんだ?」というような態度で、知識がない後進に対して、横柄な態度を取る、あるいは歴が長いことを鼻にかけている人が多かった。
けれども、中井さんは違うんですね。そこに出席されていた「本真会」の皆さん、違っていました。
「匠」としての知識やスキルを持ちながらも、それを惜しげもなく仲間や後進に提供するのです。もっと言えば、こちらの疑問に対しても、真剣に考えてくれる。一緒に、答えを導き出そうとしてくれる。
そこでどういう話題が出ていたかと言えば、中井さんはこうおっしゃっていました。
「結局、突き詰めていけば、我々がやるべきことは二つのことになる」
そして、中井さんが上げたのが、
・ニーズはこちらが作る。
・価値訴求をする。
という二点でした。
スティーブ・ジョブズも同じようなことを言っていましたよね。
「消費者は、自分が欲しい物を見せられるまでわからないものだ」
的なことを。
「ニーズをこちらが作る」とは、まさにそういうことなのだろうと思います。マーケティングで、「こういうものが売れている。故に消費者に必要とされている。故に同じようなもので、更にスペックが高いものを作ろう」では、やはり、レッドオーシャンに突入して行くことになる。そうではなくて、消費者が気づかなかったニーズを、こちらが作る。少なくとも、そういう意識を持つ必要があるのではないかという話は重要なポイントだと思いました。アップルだけではなく、やはり、書店にも必要です。
また、「価値を訴求する」とは、こういうことです。中井さんが提供してくださった例をそのまま使わせてもらいます。
「司馬遼太郎作品において、人気の作品というものがあります。多くの人は、『坂の上の雲』や『竜馬がゆく』を挙げることでしょう。けれども、司馬遼太郎さん本人は、実はあまり知られていない『空海の風景』が最も気に入っていたと生前仰っています。それをPOPにして価値の訴求をするのです」
つまり、「あの司馬遼太郎の1番の自信作」という文言を入れたPOPを貼り出して展開し、実際にそうして実売数を伸ばして行ったのです。
僕は「匠」と定義しましたが、中井さんや他の職人気質な書店人の方々は、いわゆる「文脈棚」を構築することができます。
けれども、僕は「文脈棚」を売りとしたセレクトショップという書店の形態が、この業界を救うとは思っていません。こちらに未来への回答はないと思っています。
ただし、僕は一方で、この「文脈棚」の構築ということに対して、ある種の憧れを抱いております。おそらく、僕だけではなく、多くの書店人が同様に思うのではないでしょうか。「文脈棚」を構築するということは、多くの書店人のロマンと言ってしまってもいいかも知れません。
それなのに、なぜ、ここに答えがないと僕が考えているかと言えば、「文脈棚」は、一歩間違えば「ひとりよがり」や「知識の衒い」になるという「リスク」があるからです。また、あまりに行き過ぎると、相当な高度な読者だけしかついて来れなくなるので、せっかくの技量に売上がついてこなくなるという「ジレンマ」も抱えています。
この「リスク」と「ジレンマ」がこそが、こちらの方向にはきっと回答がないのだと僕が考えてきた所以です。
ところが、これに対して、中井さんと、あと恵文社の北山さんが面白いことを言っていました。大きなヒントになると僕は思っています。
「匠は文脈棚を作ることが命だと思っていたんですが、仕掛けも多くやるんですね」と僕が聞いたのに対してて、中井さんは微笑み、こう言いました。
「僕は仕掛けが好きなんですよ」
また、北山さんはこう言いました。
「文脈棚は、かっこいいから、お客さんを呼ぶことができる。けれども、それだけでは売上が立たない。しっかりと、今売れているものを並べておくことが重要だ」
「匠」の冴える技量で構築された、うっとりするほどの「文脈棚」。
その一方で、世間の喧騒の中にある「売れ筋商品」。
どちらか一方ではなく、その両方が、やはり、書店にとって必要なのでしょう。
また、今回の「本真会」のテーマとは離れますが、勉強会の後の懇親会では、主催の萩原さんと、広島から駆けつけていたウィー東城店の佐藤さんからは、「ビジネスとしての書店」について、多くを学びました。
このお二方は、書店人の中でも異色です。自らが書店経営者であり、また、違った事業も手掛けられておられるからです。ビジネスとして、書店を運営されている。
お二人の話をすると、さらにこの数倍の紙枚が必要となるので、それについては、またの機会と致しましょう。
本当に、いい刺激を受け、また勉強になった大阪の夜でした。
萩原さん、中井さん、そして本真会参加の皆様方、本当にありがとうございました。
離れていますが、これからも、できるだけ参加させていただきたいと思います。
どうぞよろしくおねがいします。