「里親になることは、親戚のおばちゃんに立候補すること」
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記事:S. A. (ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
「あー、あれって、共働き夫婦はダメなのよね?」
「え? 他人の子ども引き取って、一生育てるの?」
これはいずれも、医療・福祉関係のそれなりの立場のある人から言われたセリフ。
私が近々、里親になるための研修を受ける、と言ったことに対する、返答だ。
「ち、が、い、ま、す!」
私は、地方に住むシングルマザーだ。
保育園児の我が子と二人、なんとか生活できている。
有難いことに、周囲からの助けもある。
あと一人くらい、我が家で一緒にご飯を食べて、遊んで、眠る子どもがいてもやっていける。
最近、そう思えるようになってきた。
里親とは、通常親が持つ親権を持たずに、子どもを養育する者である。児童福祉法で定められている里親制度は、児童相談所が取り扱う。さまざまな事情により、生みの親の下で生活することができないなど、公的な保護を必要とする子ども(要保護児童)を、自らの家庭へ迎え入れ、自治体からの委託を受けて養育し、子どもの成長を目指す、という制度だ。この制度は子どもの福祉を目的としており、「跡継ぎが欲しい」「将来介護してほしい」といった大人の都合のためのものではない。
多くの人が「里親」と聞いてイメージするのは「特別養子縁組」の里親だろう。
テレビドラマの中で、望まない妊娠をした若い女性が出産し、その直後に、生まれた赤ちゃんを、隣の部屋で待つ夫婦に引き渡す、というシーン。
その夫婦は、病気や事故などのため、実の子どもを授かる見込みがないのだが、子どもを育てることを切望している、という構図だ。
実の親が親権を手放し、その夫婦のもとで6ヶ月間の試験養育期間を無事終え、家庭裁判所に認められれば、その赤ちゃんはその夫婦の実子として、戸籍に登録される。
しかし、要保護児童の全員が、特別養子縁組されるわけではない。
里親にはいくつか種類があり、今私が考えているのは「養育」里親だ。
児童相談所からの委託を受け、要保護児童と我が家で生活する。たいてい数日〜数ヶ月間だが、数年に及ぶこともあるらしい。環境が整えば、実親の家庭に子どもは帰る。
多くの子どもたちは、乳児院や児童養護施設などの児童福祉施設で暮らしている。施設で生活することは、複数の専門的な職員からの援助を受けることができる、集団生活を通して安定した処遇が期待できる、などのメリットもある。しかし、最近では、特定の大人との愛着関係の下で養育されることによって、自己肯定感を育むことができるとされており、2016年施行の改正児童福祉法では、「親が子どもを養育できない場合、里親などによる家庭養育を優先する」と明記された。
しかし、里親制度の普及は進んでおらず、冒頭のようなセリフが、医療・福祉の関係者からも出てくる現状だ。
要保護児童となる理由は、昔は戦災孤児だったが、現在は、虐待、障害、DV被害者など、原因が多様化している。
児童虐待で子どもが亡くなったというニュースを目にする度、いつも思う。
被害者の子、ウチにごはん食べにきて、うちの布団で眠ってくれたらよかったのに、と。
加害者である親を止められる人は、誰もおらんかったんやろうか。
加害者も、自分の親から、そういう風に育てられたのかもしれん。
加害者も、どうしようもなかったのかもしれん、と。
そして、自分もいつ加害者になるかわからん、他人事ではないな、とも思う。
児童虐待かもと思ったら189に電話をする、ということが周知されてきた結果、虐待通告件数は増加の一途を辿っている。2018年度における、児童相談所の児童虐待相談対応件数(速報値)は159,850件で、1999年度の約13.7倍である。
しかし、国は、今後、児童養護施設の定員数を減らす方針だ。
少子化だから、今後は施設も要らなくなる、という見立てのようだが、子どもの数は減っても、上の件数が示す通り、特別な対応を要する子どもは減っていない。
児童相談所の人に尋ねてみた。「里親は足りているのですか?」と。
返答は、案の定、「全く足りていません」と。
里親委託率は、2019年のデータでは、全国平均で18.3%にすぎない。
特別養子縁組を希望する夫婦は比較的多いが、短期間の養育里親が圧倒的に足りない。
養育里親には、子どもたちに、施設ではできない「普通」の体験をさせることに協力して欲しい。週末だけでも、お盆や年末年始だけでもいい。
特別なご馳走ではなく、ご飯と味噌汁だけでも、楽しく喋りながら穏やかに食事をするとか、一緒にスーパーへ買い物に行くとか。
施設から数日出られるだけで、ストレス発散ができる子もいる。
養育里親さんの下で、自分の親や施設の職員以外にも、世の中には、いろんな大人がいるのだと学べる。
ずっと施設で育つと、そういう「普通」の経験をせずに大人になってしまう、と。
私のようなシングルでも養育里親になれますか、と尋ねると、「心身ともに健康で、子どもの養育についての理解や熱意や愛情を持っておられて、研修を受けていただければ、ひとり親でも、共働きのご夫婦でも、なれます!育児を手伝ってくれる成人が同居もしくはお近くにおられれば、なお良いです!」と鼻息荒く言われた。
「じゃあ、なります!」と言ったものの、里親になるための研修は、年に2回しか開催されない。
また、私の収入、履歴書、犯罪歴などすべてを明らかにしなければならない。
更に、児童相談所から我が家への家庭訪問もある。
里親研修は座学だけでなく、グループワーク、一時保護所実習、児童養護施設実習などがあり、すべてを終えて初めて、里親登録することになる。
共働き夫婦でもひとり親でも里親にはなれるが、この研修日程は、フルタイムで勤務している人間にはなかなか難しい。
この長い道のりの中で、里親になるモチベーションが低下したり、諦めたりする人も出てくることは、容易に想像できた。
また、我が家には実の子がいるので、この子への影響も考慮せねばならない。
実家の両親は、私がやりたいことには協力するが、子への影響がやはり一番心配だと言っていた。
研修を受けて、里親登録した後でも、委託を断ることはできると、児童相談所の人は言う。
では、まずは研修を全て受けてみて、考えよう。
どうせ、研修を受けても、受けなくても、ひとつ歳を取るのだから。
やって後悔するよりも、やらずに後悔する方が、悔いが残る。
同情だとか、かわいそうだとか、そういうものは私の中にはない。
親戚のおばちゃんのところにご飯食べにくる気持ちで、おいで。料理下手だけど。施設の給食のほうが間違いなく美味しいし、栄養バランスも整っているだろうけど。
その程度だ。
こんなテキトーなおばちゃんでも、なんとか生きていける、と、子どもたちに見せられたらいいな、と思う。
実の子からは「僕のことも満足に育てきれていないのに、里親になるとか、何を考えているー!?」と叱られるかもしれないが。
***
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