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コンプレックスは強みになり得る


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤井佑香(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
日本にしか住んだことがない。これが私のコンプレックスだ。
日本人の大半がそうであるはずのこの特徴が、私にとってのコンプレックスになってしまったきっかけは、大学進学である。
 
私が進学した大学は、インターナショナルスクールのような環境だった。留学生も多く、英語で授業を受けることも出来る大学だ。地方生まれ地方育ちの私だが、英語が好きで海外にも強い憧れを持っていたため、その大学に進学することにした。
 
いざ入学してみると、思った以上に自分が少数派だった。ずっと日本で生まれ育って海外も殆ど行ったことがない、という私のような経歴の学生がとても少なかったのだ。周りの同級生たちは、海外に住んだことがある人ばかりだった。彼らは英語を自由に操り、自分が今までどんな国で、どのような経験をしてきたのかを話した。新入生同士の自己紹介のときには、「どこの国に住んでいたの?」とか、「どこに留学していたの?」と当然のように聞いてきた。私はその度に、「海外には住んだことはないし、留学もしたことないよ」と答えていたが、なんだかとっても惨めな気持ちだった。地元では、海外に行ったことがない人の方が周りに多かったし、高校の英語の成績も結構良かったんだけどな。私が今まで頑張って頭に叩き込んできた受験英語も、「アメリカに16年住んでいました」みたいな同級生たちの前では、何も通用しなかった。いつしか私は、日本にしか住んだことがないという経歴を恥ずかしいものだと感じるようになり、コンプレックスだと思うようになってしまったのだ。
 
そこから、「自分改造計画」が始まった。帰国子女の友人たちは皆カッコよく見えた。私も彼らみたいになりたいと思い、まずは服装を変えた。海外経験の長い彼らは、Tシャツにジーンズ、パーカーとビーチサンダル、のようなカジュアルな服装を好んだため、私も同じようにした。日本語と英語を自然に混ぜて話すことが出来る友人も多かったので、私もそれを頑張って真似した。それだけではなく、普段食べるお菓子や洗剤など、身の回りのものも出来るだけ輸入品で揃えるようにして、日常生活にも海外の要素を多く取り込んだ。今になって冷静に振り返ると、日本語と英語を頑張って混ぜて話すなんてルー大柴かよ……と思いっきり自分にツッコミを入れたくなるし、海外経験の長い友人と仲良くなるにつれて、彼らには彼らなりの苦労があったと後々分かることになる。しかし、当時の私は必死だったのだろう。涙ぐましい努力を重ね、「帰国子女でしょ?」と初対面の人に聞かれることが多くなり、とても誇らしい気分になっていた。しかし、もちろん日本にしか住んだことがない、という事実は変えられるはずもなく、コンプレックスとして残り続けた。
 
そんな私の考え方を変えてくれたのは、ある国際交流事業だった。大学3年生の秋、日本の若者と海外の若者の交流を目的とした事業に参加した。約3週間という、帰国子女の友人たちから見ると短い期間ではあったものの、私にとっては憧れの海外滞在である。この事業で、私はラトビア共和国というバルト三国の国を訪れた。他数名の日本人参加者と一緒に、ホームステイや施設訪問、文化交流などを行った。ラトビア共和国と聞いても、あまりピンと来ない人が多いと思うが、ラトビア人にとっての日本も同じようなものだった。日本という国は知っていても、どんな文化を持っているのかイメージが湧かないし、ましてや日本人に会ったことがない人ばかりだった。だからこそ、現地で出会う人たちは日本のことを知りたがってくれた。日本人は普段どんなことを考え、どんな生活をしているのか。何を食べているのか、どんな教育を受けているのか。若者のカルチャーは? 事細かに聞かれた。文化交流のイベントでは、他の日本人参加者と一緒に日本の踊りや歌を披露したり、現地の人に華道・茶道・書道などの伝統文化を体験したりしてもらった。私はたまたま、高校卒業まで地元で書道を習っていたため、ラトビア人の子ども達と一緒に筆を持ち日本語を書いた。現地の人はとても喜んでくれ、心から楽しんでくれた。滞在期間中に何度も同じようなことがあり、そのたびに一生懸命日本についての質問に答え、文化の紹介をした。そして、あることに気づいた。日本にしか住んだことがない私でも、出来ることがあるのだと。書道を人前で披露出来たのも、地元で十数年間、書道教室に通い続けたからだ。そして、ラトビア人から聞かれる質問の中には、日本に長く住んでいるから答えられるものも多くあった。日本にしか住んだことがない、という経歴でも役に立つことがあるとは。というか、何も恥ずかしいことじゃないじゃないか。日本に長く住んでいる私だからこそ出来ることがあるのなら、帰国子女っぽく見られることなんてどうでも良いことだったのだ。ラトビアでの経験は、自分のコンプレックスは、場所によっては強みになり得ることを教えてくれた。
 
とはいえ、コンプレックスというものは簡単に消せるわけではない。ラトビアに行ってから8年が経ったが、引き続き海外経験が長い人に対して強い憧れを持っている。だけど、学生時代と違うのは、それでも良いと思えていることだ。コンプレックスと思っていることも、身を置く場所によって強みに変わることを知っているから。私たちの大半は何かしらのコンプレックスを持っていると思う。だけど、それは自分の価値を決めるものではない。たまたま自分がいた環境でそう思ってしまう出来事があっただけだ。なりたい自分になるための努力は必要かもしれないが、なれない自分に無理やりなろうとする必要はない。あなたが今抱えているコンプレックスは、どこかで強みにだってなり得るのだから。
 
 
 
 
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2020-08-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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