おしょらいさんの迎え火
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記事:さくらしおり(ライティング・ゼミ通信限定コース)
今年もお盆がやってくる。
幼い頃、毎年、8月13日の夕方になると、祖母が、縁側から、私たち姉妹を呼んだ。
「おしょらいさんをお迎えするよ」と。
「おしょらいさん」とは、ご先祖様の精霊のことを言う。
私たちは、家の前で、「おがら(皮を剥いだ麻の茎)」を焚いて、迎え火をした。
この時、祖母は、いつも、「おしょらいさんの迎え火~」という歌を歌っていた。
この歌が何なのか、祖母が作った歌なのか、昔からある歌なのか、今となっては分からない。
おがらが、パチパチという音を立てて燃え、その白い煙が空へ立ち昇っていくのを、皆で見上げた。
祖母は、「この煙にのって、おしょらいさんが帰って来るんだよ」と言った。
煙があまり出ないと、「この程度の煙で、大丈夫だろうか?」と、幼心に心配した。
煙がたくさん出ると、「これだけ煙が出たら、おしょらいさんも道に迷われないだろう」と喜んだ。
今も記憶に残る、懐かしい思い出だ。
毎年、ご先祖様をお迎えする前に、お花、果物、野菜などのお供えものを仏壇に用意する。
それとは別に、ご先祖様がこの世に滞在される数日の間、毎日、色々なお供えものもする。
地域によって違うと思うが、迎え火をする13日の夕方には、「おはぎ」を供える。
昔の言い伝えで、赤い色には邪気を払う力があるとされており、おはぎの材料である小豆が赤いことから、魔除けの効果があると言われている。
また、おはぎの材料であるもち米には、五穀豊穣、農作物が豊作になりますようにという祈願も込められているそうだ。
また、「おはぎ」と「ぼたもち」は、何が違うのかと調べたことがある。
諸説あるそうだが、これらは同じ食べ物。
季節によって、春は、春に咲く花、牡丹にちなんで「牡丹餅(ぼたもち)」、秋は、秋に咲く花、萩にちなんで「お萩(おはぎ)」と言うそうだ。
お盆は、まだ暑さが厳しいが、暦の上では、秋の始まり「立秋」なので、「おはぎ」なのだろう。
送り火をする16日の朝には、白い小餅「白もち」もお供えする。
あの世へ帰られるご先祖様に道中で食べて頂くためだとか、あの世へのお土産だと聞く。
その後、迎え火同様、おがらを焚いて、送り火でお見送りする。
この8月16日の夜、京都では、「五山送り火(ござんのおくりび)」が行われる。
お盆にお迎えした先祖の精霊、おしょらいさんを送る伝統行事だ。
葵祭、祇園祭、時代祭とともに、京都四大行事の一つとされている。
京都市を囲む山々に、「大」や「船形」など、5つの文字や形を、炎で浮かび上がらせる。
とても幻想的で、厳かな気持ちなる行事だ。
今年は、新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐため、規模を大幅に縮小し、文字や形を描かずに実施されるというので、少し残念だが、この「五山送り火」で、京都のお盆が終わる。
私は、20代後半で、実家のお墓を継承する「墓守」となった。
バチあたりなことだが、若い頃は、毎年、お盆が近づくと、憂鬱になっていた。
お盆の行事では、いつ何をして、お供えするお花はこうで、お供えものはこうでと、細かな決まりごとがたくさんある。
当時の私は、ご先祖様のために、きちんとやりたいと思う気持ちの一方、毎年、お盆が近づくと、あれもしないといけないし、これもしないといけないと、大きなストレスを感じていた。
若いからといって、適当なことは出来ない、完璧にしなければならないと、自分で自分に、余計なプレッシャーをかけていたように思う。
しかし、月日の経過と共に、慣れもあるのだろうが、「自分が出来る範囲でやれば、気持ちは伝わるだろう」という思いが強くなり、純粋に、ご先祖様をお迎えしたいと思う気持ちの方が強くなった。
今は、マンション住まいで、昔のように、迎え火も、送り火も出来ないが、そんな昨今の事情だって、ご先祖様は理解して、問題なく帰って来られるのだろうと思っている。
最近は、「墓じまい」をされる家も多いと聞く。墓守の身としては人事とは思えない。
若い世代の都市部への流出、高齢によってお墓へ参りに行くことが困難、お墓を継ぐ人がいないなど、ライフスタイルの変化が背景にあるという。
正直、この先、お墓をどうするのかは分からない。
考えなければならない時が来れば、その時の状況に合わせて、考えようと思う。
そして、どんな決断をしようと、きちんと考えて決断したことであれば、ご先祖様にも理解してもらえるだろうと思っている。
今年も、お盆がやってくる。
ご先祖様が、本当に、お盆に帰って来られるのか?
私には、確かなことは分からない。
けれども、帰って来られると信じている。
いずれにせよ、お盆に、亡くなった自分の家族、ご先祖様に、思いを馳せて感謝をする。
今、生きている自分を振り返ることは、年に1度の良い機会だと思う。
今年も、お盆がやってくる。
おしょらいさんをお迎えしよう。
あの懐かしい思い出と共に。
祖母が歌ってくれたあの歌を歌いながら……
***
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