かき氷は信頼関係にも似て
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かき氷は信頼関係にも似て
記事:加藤具総(ライティンク・ゼミ通信限定コース)
今年の夏もご多分に漏れず暑い。新型コロナの影響で帰省も遠出もなし。
せっかくの夏休みだが妻と息子の家族3人は同じ屋根の下にいるか、近場で楽しみを見出すしかない。どうせならこの時期楽しめるものは何かないものか。思い出したように、「そう言えば、今年あそこのかき氷まだ食べてないね」と妻に呼びかけ、ツイッターで店の混雑が緩和しているのを確かめ、目指すは自宅から割と近場の人気店。この日もうだるように暑い。せめて暑い夏の午後、一服の涼を取りたい。
かき氷については詳しい訳ではないが、間違いなく言えるのは最近のかき氷は本当に美味しいということだ。昔からも美味しいかき氷はあったと思うが、私たち昭和生まれ世代のかき氷は子供の頃のお祭りの夜店で売っているようなチープなもの。紙のカップに入ったガリガリした氷に、体悪くなるのでは? と子供でも思うくらいの鮮やかすぎる赤や緑や青のシロップがかかったもの。
口にするとジャリジャリした食感も見た目の涼やかなイメージとは違うラフでハードなもの。口に一気に頬張ると漏れなくキーンとした頭痛もセットのアレである。とは言え夏の風物詩との少年時代の記憶が鮮明なまま大人になる。
話を人気店のかき氷に戻す。
この店のかき氷、氷は日光の天然水で作られたもの。手動の氷削機でスタッフが延々と氷を削り、ふわふわのかき氷ができる。産地にもこだわった、いちご、桃、マンゴーなどの自家製の蜜。混ぜ物なしの無添加だそうだ。他店の美味しいと言われるかき氷と比較をしても総じてレベルが高いのもわかる。一方、程度の差こそあれ、最近の美味しいかき氷は例外なく氷がふわふわであることは間違いない事実であろう。微細な氷はガリッと噛むこともなくその冷たさゆえに頭がキーンとなることはないのだ。かき氷の進化すごい。
席について注文したかき氷が運ばれる。黒縁に朱のお盆に乗せられて机の上に置かれる。テンションが上がる瞬間。もうすでにガラスの器から溢れてこぼれんばかりふわふわな氷が目の前に。削られた氷の高さも結構なもの。そして注文した桃の蜜もどっぷりとかかっている。これは凄い! そう思った瞬間、あることが頭によぎった。「どこからどうやって食べようか?」そう思った瞬間に今度は緊張感が走る。氷はふわふわということは安定感に欠けるということ。そしてふわふわの氷の上にはたっぷりの濃度濃い蜜がかかっている。美しいフォルム。大人として人情として綺麗にこのかき氷を食べることがマナーではないかと考えてしまう。逆にかき氷から「さあ、あなたならどうやって食べますか?」と私の食べ方やかき氷への対峙の仕方を試されているようにも感じる。
そうなるとこの目の前のかき氷と信頼関係を作りたい。そう思った。
相手は強敵である。山のように積まれた氷はスプーンで上からすくうと上にかかった蜜の重さで崩れてしまう。下からすくうと更に支えが減ってしまい、一気に雪崩が起こりそうな気配だ。そしてたっぷりかかっている甘い蜜が「私を食べて」と誘ってくる。危険だ。ある程度蜜がかかっていない氷の部分と合わせて食べることで美味さのバランスが取れるのに。ここを中心に食べてはいけない。ハニートラップだ。結果を急いではいけない。信頼関係を作るには少しずつ少しずつ、形を崩さずガラス容器の淵側から徐々に攻めて、時折上や真ん中を少しずつ削るように食べていくことがどうやら近道だ。小さな実積づくりも大切な要素である。しかし骨が折れる。甘く優しい氷の食感を確かめながら、「ローマは1日にしてならず」って名言だなって振り返ってみた。
ちょっとしたことで崩れ落ちそうな氷。ちょっとちょっとスプーンで氷をすくうことで体裁を保ってくれる氷、甘く誘う蜜に目を眩まされずに氷と蜜の全体を調和させることでかき氷との信頼関係を少しずつ構築することができてきた気がする。ただ失敗もある。どうしてもスプーンで氷をすくう際に、器から氷がこぼれてしまう。氷はお盆の上に着地し程なく溶けて液体となる。お盆のおかげで机を汚すことなく氷をなんとか綺麗に食べきることができた。お盆の役割は私とかき氷との信頼関係維持のためのセーフティネットだったのかもしれない。繊細な氷を拾ってくれたお盆には感謝である。
昔、上司が顧客との信頼関係について用いていた言葉「建設は死闘、破壊は一瞬」を思い出した。時間をかけて労力をかけて築いた信頼も、無くすのは一瞬であること。美しいかき氷を綺麗に食べることがかき氷との信頼関係を作ることとおいたが、これはあくまでも私の視点。
かき氷の作り手の皆さんからすると、日光の天然水の氷を仕入れるところから、妥協しないこだわり産地の果物の手作りの蜜、そしてお店でスタッフが絶え間なく回している手動の氷削機からできるかき氷を作るそのプロセスこそが、私たち食べ手との信頼関係を作っているのだということに気づく。
だから今日もこのお店には行列ができる。それはお店との信頼関係を築いているかのよう。そしてかき氷を食べているみんな笑顔だ。凄いことだな。
綺麗に食べ終わったかき氷を後にしてお店を出る際に、氷削機を変わらず回している店のスタッフに敬意を表して「ごちそうさま」と言って店を出た。夕方になっても日差しはキツく感じたが体全体は心地よい納涼感に包まれていた。
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