人生の意味は彗星に似ている、という話
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記事:松本 良太(ライティング・ゼミ日曜コース)
正直に言うと、3人の子を持つ父という役割を持つようになって以来、“人生の意味とは何か?”と自分に問うことが多くなった。とにかく、自分だけの時間が圧倒的に減ってしまったのだ。人生の意味とは何か?
でも最近一つだけ、わかったことがある。この問いの答えは彗星のように、忘れたころにやってくる。
1週間168時間という限られた時間の中で、子どもたちや妻のために費やす時間が増えたのは間違いない。費やす、という感覚はネガティブなのだが、そう感じるからこそ、“人生の意味とは何か?”と自身に問うてしまう。
では逆に、費やしていない、と感じられる時間を思い返してみるとしよう。
5年ほど前、まだ我が家に子どもが長女一人しかいなかった頃の話だ。家族で出かけるとき、妻は必ず何か忘れ物をする。多くは玄関を出た後に忘れ物に気づいて、戻る。そのせいで、必ず出発が10分遅れる(その対策として私が出発時間を10分早めて設定していたことは内緒だ)。
例えば、玄関を出たときに携帯を忘れたことに気づき、家に戻る。出てきたと思ったら帽子を取りにまた戻る。次にマンションのエレベーターを降りたころ、トイレに行っておきたい、と言ってまた戻る。長女と私は気の良いマンションの管理人さんと、しばし世間話をして待つ。
こんな具合に、10分の遅れはとにかく例外なく毎回起きることなので、何とかせねばと思っていた。
私は研修講師という職業柄、様々なことを他人に教えているが、その一つに「仕事の段取り」がある。新社会人向けの、いわゆるPDCAをきちんと回そう、という内容だ。私はそれを妻に教えよう、と思い立った。妻に快く私の講義を受けてもらうために四苦八苦したことは別の機会にでも書くとして、とにかく、私はPDCAを妻に教えた。そして、妻は何も変わらなかった。
研修講師として仕事をしていると、受講者や事務局の方に感謝されることが多い。わかりやすかったとか、役に立ったとか、そういう類の有難い話をいただく。だが、妻一人変えられない研修講師が、一流企業に勤めるビジネスパーソンに教えていていいものだろうか。4年間、そのことがずっと心に引っかかっていた。妻にとっても私にとっても、PDCAの講義は“費やした”時間だと思っていたのだ。
本当につい、2週間前のことだ。キッチンに麦茶を取りに行ったとき、妻が突然こんなことを言った。
「そういえば昔、PDCAって教えてくれたよね」
完全なる死角から言葉が放たれた。私はキョトンと音がするくらいの顔をしたに違いない。
「おぼえてたんだ、ビックリ!」
やっとの思いで言葉を返す。
「あれがね、とても役に立ってるの。今日ばかりは絶対に遅れちゃいけないという日に、タスクを紙に書き出して、時間を割り振って……」
実のところ、妻がしっかりPDCAを回せていたという感触は傍から見ると皆無であった。でも、妻は実践していた。本人が役に立つと実感できるほどに実践していたことは間違いない。私から見て結果が出ているかどうかは関係なかった。大げさかも知れないが、このとき、ああ、講師をやっていて本当によかった、と思った。この5年間に、新しい意味が与えられた。
もう一つの例を話そう。長女の話だ。
長女は幼少のころから、友達付き合いが上手とは言えなかった。
幼稚園の頃の話だ。元々引っ込み思案なのだが、それに加えてクラスで一番かわいいアイドルみたいな女の子と仲良くなろうとする。なんとか輪に入ることはできるのだが、ずっとその子を追いかける金魚の糞状態なので、立場が弱い。“追いかけっこでずっと鬼やってね”、“ここに立ってずっと荷物見張っておいてね”などと言われると断れなくて、本当は不服なのだが受け入れてしまう。相手に悪気はないのだが、そういう立場になってしまう。
その様子を見た妻や私は「イヤなことはイヤと言ってもいいんだよ」と何度も長女を諭したが、金魚の糞状態はついぞ変わらず、幼稚園時代は幕を閉じた。このままだと小学校に入ったらいじめられるのではないか、と大量の子育て関連の本を読んでいたのもこの頃だ。
そして小学校入学。ゴールデンウィーク明けから、長女は不登校になった。
不登校の原因は未だによくわからない。そもそも原因と結果、という構造になっていたかどうかも怪しい。とにかく、泣いて登校を嫌がった。
学校に行きたくないと言い出してから数日後のある日、私が無理やり学校の近くまで長女の腕を引いて連れて行ったことがある。大した原因が無いのであれば、学校の近くまで行けば観念するだろうと踏んだのだ。だがその考えは間違っていた。校門の直前、あまりの長女の抵抗のすさまじさに、これは本人の中で只ならぬ何かが起きているに違いないと感じ取り、わかった、ごめんね、と言って学校を後にした。その日から、本格的な不登校が始まった。
学校の担任の先生、副担任の先生とのコミュニケーション。不登校に関する書籍を読み漁る。放課後の時間に、幼稚園からの友達が良く遊んでいる公園に遊びに行く。様々な手を打った。
幸運だったと思う。学校の先生が時々、朝家まで迎えに来てくれたり、登校後の1時間目は音楽室で自由にピアノを弾かせてくれたりと、公立小学校としてはとても手厚くケアしてくださった。決め手になったのは、近所に住む友達と毎朝、公園で待ち合わせて学校に行くようになったことだ。6月初旬には、長女はちょっと渋りながらも登校できるようになっていた。
夏休みが終わったころ。小学校のあるイベントがあり、私は長女と一緒に家までを歩いて帰った。たまたま、毎朝一緒に学校に行くお友達も一緒だった。極めて普通に会話している。家族に接するのと同じように、遠慮なく言いたいことを言っている。なぁんだ。全然大丈夫だ。たぶん。
幼稚園の頃、不登校の頃の悩みが、行動が適切だったかどうかは未だにわからない。でも、こうやって振り返ってみれば、どうやらこの数年間の長女の子育てに、何らかの意味を見い出せそうなのだ。
人生の意味は、彗星のように、いくつも、ばらばらに、忘れたころにやってくる。未来の人生に意味を与えられる、強靭な思考力と行動力の持ち主もいるだろう。でも、自分は彗星で良い。おぉ、そうだったか。くらいが楽しいのだ。
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