ブーメランは戻ってくる
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記事:伊藤まど夏(ライティング・ゼミ日曜コース)
「何か助けられることがあったら連絡してほしい」
「ずっと謝らなきゃと思ってた。最近は何をしてるの?」
「昔のメールを見返してたら、久しぶりに話したくなった」
3人の元恋人から、立て続けにこんなメールを受け取った。
3人とも、相手が私のことを振り、連絡が取れなくなってしまった人だ。
振られた時のことを思い返してみた。
突然別れ話をされた。納得がいかないので、私は相手に対して粘る。拒絶されるのを恐れつつできるだけ冷静を装って、
「一度話し合いの機会をいただけないでしょうか」
という趣旨のメールを送るも、やはり拒絶され、傷つき落ち込む。もしこう言われたらこう返す、というように相手の返信まで想定して、書いては消しを何度も繰り返し送ったメールも無視されるので、
「ああ、もうだめだ」
と、やっとのことで諦めて、連絡をやめる。その後ずっと音沙汰なし。
平たくいえば、3人ともそんな感じで終わった。
当時の私の粘り強さは、友人も呆れて苦笑するほどで、今となっては飲み会の笑い話だ。しかし振られた時はいつも、自分は人生のどん底にいると思い込み、必要以上に落ち込んでいた。
「なぜ私は恋人と長続きできないのだろう」
「返信がこないということは、普通に会話する対象にさえ思われていない」
「もう立ち直れない。下手したら、一生恋愛できないかもしれない」
「自分の性格が歪んでいるせいだ」
「自分が本当に大嫌い」
などと、自己肯定とは真逆の方向に向かって思考を巡らせた。振られてから何日もの間、涙と鼻水にまみれて、布団に寝転がっていた。
あんなみじめな状態から、何がきっかけで立ち直ったのかは定かではないけれど、おそらく時間が解決してくれたのだと思う。
とにかく、そんな苦い思い出とともにある元恋人たちが、何ヶ月も、何年も経って、戻ってきたのである。
あれだけ私の連絡を無視していたのに、今度はあちらが話したいからといって、今更連絡してくるなんて……と、相手を冷ややかに笑いたくなる気持ちは少しだけあった。しかしそれよりも、驚く気持ちの方が大きかった。それは、3人から立て続きに連絡が来たことに対する驚きではない。振られた時の悲しみも、みじめさも、相手に対する怒りも、また連絡をもらえた喜びも、一切感じない、自分の動じなさへの驚きだった。
私は、彼らをまるでブーメランみたいだと思った。
ブーメランは、古来より、狩猟道具として使われていたそうだ。子供の頃、駄菓子屋に通った人には、プラスチック製の玩具が馴染み深いと思う。数十円で1週間くらいは子供を楽しませることができる、コストパフォーマンスのいい玩具だと思う。
ブーメランは投手の手を離れて、目標物に向かって自転しながら飛行する。途中で目標物に命中しなかった場合は、空中で弧を描いて、投手の手元に戻ってくる。ひょっとしたら、戻ってきたブーメランは、飛行する途中で誰かにキャッチされて、その人によってまた投げられた可能性もある。
いずれにせよ、忘れた頃に
「私をまたキャッチして、投げておくれ!」
と言わんばかりに戻ってきたブーメランが視界の隅に入るも、
「ああ、あの時投げたやつか」
とそのまま動かず、地面に向かって落ちていくそれを眺めているのが私だ。
あんなにブーメランが好きで、投げてはキャッチを繰り返し、飽きずに日が暮れるまで外で遊んでいた子供の頃の私はどこに行ったのだろう?
いくらもう恋愛感情がないからと言って、昔好きだった人から連絡が来ても何とも思わない自分は、何かおかしいのではないか?
辛い傷心を繰り返すあまり、私は不感になってしまったのか?
ある友人に話してみたら、
「いろいろ経験したから、少し大人になって、強くなったんじゃない?」
とあっさり言われた。
私は恋愛や人間の行動について、専門的に何か言える立場ではない。けれど、友人の言う通り、自分が「少し大人になって、強くなった」のだとしたら、過去の私のように、恋人に一方的に振られて落ち込んでいる人に対して、こんな風に声を掛けてあげたい。
「振られたら、一度遠くに投げてやるといい。投げれば、自分の手元に戻ってくる。なぜなら彼らはブーメランだから」
ただし、ブーメランが戻ってくるのを待つ義務は全くないと思う。私たちは実家のお母さんみたいに、
「おかえり、帰りを待ってたよ。ご飯たくさん食べなさい。布団敷いておいたよ」
などと言って彼らに居場所を提供する必要はない。それに、戻ってきたところで、私には受け止めることはできない。私は今、ブーメランを空に向かって手放した地点を離れ、新しい場所に立っているからだ。そして、ちょっとした飛来物くらいでは動じないようになった。子供の頃読んだ童話に出てきた、藁や木でできた家のように、容易に崩れ落ちることはもうないと思う。たくさん時間を掛けて、落ち込み、苦しみ、考えた結果、私のメンタルは、いつの間にかレンガでできた家のごとく丈夫になったのだ。
受け取ったメールの返信はしていない。もし、彼らに何か送るとしたら、
「まだ空を飛んでいたんだね、お疲れ様」
という労いの言葉はどうだろう。失礼に対応しようというわけではない。私が時間を割かずとも、ブーメランには、夢中になって一緒に遊んでくれる人が、世界中にたくさんいるはずだ。ブーメランが大好きだった私にはわかる。
***
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