てへぺろ上手は諦め上手
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:二村 佳子(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
「てへぺろ」と聞いて、どんな仕草か、皆さんの頭の中に想像できているだろうか。
漫画ではよくある表現なので、どこかで一度は目にしたことがあるかもしれない。
あえて解説をすると、こんな感じだ。
何かミスしたり失敗した時に、ごめんね・やっちゃったなぁ・と明るく「てへへ」と笑い、
舌を「ペロ」っと出している顔。
私は、転職により、自然とてへぺろが身についてしまった。
(自然と、をあえて強調したい。自分から積極的にてへぺろを学んだ記憶はない)
てへぺろを使ううちに、仕事がうまく行くようになり、職場の同僚の紹介で結婚もできた。
自分を責めすぎてうつ病になり、転職するしかなかった私が、人生のビックウェーブに乗ることができたのだ。
ひとつ先に断っておくと、てへぺろ上手というのは、何も愛敬のみでその場を乗り切ろうとする行為ではない。
自分と上手に付き合う方法であると思っている。
私にとって、大きな学びがあった話を、みなさんにご紹介したい。
働いていたのは、園芸店だった。ホームセンター同様、花や木を売る仕事である。
店頭では立っているだけで、お客さんから育て方から苗の選び方など、どんどん質問を受ける。私はずぶの素人でアルバイト入社したため、最初のころは常に「分からないので聞いてきます」と言っていた。
時々、自分の知識で答えられる質問もあった。例えば、「屋外でこの花は冬越しできますか?」という問い合わせ。
図鑑で事前に知っていたので「残念ながら、冬は枯れちゃいますね」と店員らしく即答した。
それを聞いたお客さんは「そうですか……」と手に持っていた苗を戻し、買うのをやめてしまった。
しまった! 購買意欲を下げてしまった、と焦った私はこっそりその場を抜け出し、先輩に確かめに行く。「あの花って、冬は越せないですよね?」と聞くと、先輩は「この辺ならいけるよ」とあっさり覆した。「そのままだと傷むかもしれないから、霜よけ対策した方が確実だけどね」
私は再び焦った。より正確でない情報を伝えて、お客さんを残念な気持ちにさせた上、売れる予定の苗を戻させてしまったのだ。
質問をしたお客さんを探すと、まだ売り場にいた。先輩から聞いたことをそのまま伝えても、お客さんは怒らなかった。むしろ、喜んでいた。
植物の育て方の表記というのは、厄介なもので、「暑さに弱い」「寒さに弱い」とかざっくりとしか書いていない。しかも困ったことに、近年は酷暑や暖冬によって亜熱帯化した環境に植物が順応する例があり、育ててみたら暑さ寒さを乗り越えてしまうこともある。
生きているものなので、「ごめんなさい、やっぱり違いました」と後から修正しても、丁寧に説明すれば理解してくれるお客さんがほとんどだった。
そうして、私は学んだ。
仕方がない、といい意味で割り切れるようになったのだ。
植物は図鑑通りに育たないこともある、ということ。
後から間違いを修正するのは怖くないこと。
売り場スタッフとしては、正しい知識を身に着けているのがベストだが、「私も勘違いしていました、勉強になりました」というと、その後お客さんと話がはずみ、次の来店時にも声をかけてくれ、仲良くなれることもあった。
もう一つ、植物と関わっていて、大きな学びがあった。
それは、植物の生存戦略がしたたかなこと。
くの植物には、動物に食べられて、先端がちぎれてしまっても、その両脇から新しい芽が二つ出てくる性質がある。一つではなく二つだ。
食べられれば食べられるほど、倍になって増える。食べられることを前提にして、体の性質が作られていることに驚いた。
強さにもいろいろある、と。
全く傷を負わない方がいいように思えてしまうが、食べられてしまうなら、それを受け入れて対策をねる。枝分かれしてこんもりと咲く花をみながら、リカバリーの強さも、強さと言えるよなぁ、と新しい価値を知った。
植物のことを深く知っていくにつれ、人間にも当てはまるんじゃないか、と思うことが増えた。
図鑑どおり、つまりは常識通りでなくてもヘンではないこと。
自分の性質に合わせた戦略を立てれば、うまくいくこと。
園芸店で働くようになって、相変わらずミスは減らなかったけれども、気持ちの切り替えは早くなった。
やっちまったなぁ、と心の中で舌をぺろりと出す。ミスは良くないけれども、ミスを出してしまう自分の性格はもうどうしようもない、といい意味で諦めるのだ。
己を過信せずにメモを増やしたり、トラブルにつながりそうな気配があれば、隠さず周囲に助けを求めるように対策を立てた。
そのおかげか、働くのが楽しくなり、数年後には正社員採用された。
退職した今、子育てでもてへぺろを使っている。
しっかりした母親にはなることは諦め、なんでも完璧な見本を示そうとはしていない。
近頃は、2歳半になる娘が私をフォローしてくれる。
お出かけ前に、口に出して確認していた「携帯持った?お財布持った?」というセリフを真似っこしてくれるのだ。
他人様に聞かれると少し恥ずかしいが、まぁ、これが私なのだし、格好つけることはとっくに諦めている。
***
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