取り寄せグルメに学ぶ「正しい医療情報が広まらない理由」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:Hiroki(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「美味しいグルメを自宅に取り寄せたけど、思ったほどじゃなかった」
「現地で食べた味のほうが美味しかった」
そんな経験をしたことのある人もいると思う。
新型コロナの影響もあり、特に今年は美味しい食材を取り寄せて自宅で食べるのが流行した。
家にいながら贅沢できて、生産者の助けにもなる素敵な試みだ。
僕も美味しい肉にうなぎ、フルーツを取り寄せてみた。
素晴らしい食材が自宅に届くというのはやっぱりテンションが上がる。
しかし、実際にその素晴らしい食材の味を生かして、美味しく料理するのはなかなか難しい。
肉やうなぎは味付けや焼き加減が大事だし、フルーツだって保存方法や食べごろかどうかで美味しさは変わる。
そこを間違えると台無しになってしまう。
どんな器具で作るかとか、何と一緒に食べるかなんかも大切なのかもしれない。
けど、自分にはどうするのが1番いいのかわからない。
素材が良いので自分で作ってもそれなりには美味しくなる。
でも、現地でプロが作ってくれたものを食べたあの美味しさに比べるとやっぱり物足りない。
素晴らしい食材は、それを生かすことができる人に調理されてこそその美味しさを最大限に発揮できる。
最高の料理を作るには、素晴らしい食材だけでなく素晴らしい料理人が必要だ。
良い食材だけあっても不十分なのだ。
実は、日本の医療、健康の分野でも同じようなことが起きている。
僕は今、医師として病院で働いている。
病院で働いていると、日々医学の進歩を感じることも多い。
世界中で新しい薬や治療が研究、開発されている。
医学の研究に携わる人の話も聞いたことはあるが、その能力もその情熱も並々たるものではない。
自分では遠く及ばないような賢い人たちが、自分の目の前だけじゃない世界中の患者さんを救うため全力を注いでいる。
そういう人達が、新しい発見をして医学を進歩させている。
それだけでなく、今の日本ではテレビでも雑誌でも健康に関する話題は多い。
病院でも熱心に話を聞いてくれる人が多い。
人々の健康に対する意識は高く、外国と比べると食生活などの生活習慣も健康的であることが多い。
レベルの高い研究も行われていて、日本では人々の健康意識も高い。
それなら、国全体にも高いレベルの医療や健康の情報が行きわたっているはずだ。
しかし、実際はそうではない。
新型のウイルスが流行っているにも関わらず、マスクをせずに山手線を1周する人もいれば、ある知事が「イソジンがウイルスに効く」と発言すれば、それが事実かどうかは検証されず、イソジンを買い占める人がたくさん出る。
実際に効果があるか怪しい商品が世の中でたくさん売られ、怪しい業者が利益をあげている。
病気にかかった人を村八分にするなど、21世紀の先進国とは思えないような行動をする人だっている。
レベルの高い研究も行われ、意識の高い人々もいるはずなのに、いったいなぜ、そんなことになってしまったのだろうか。
たしかに、レベルの高い研究の成果というのは素晴らしい素材である。
けど、あくまで素材だから、そのままでは役に立たない。
これをそのまま世に出しても、普通の人の家にいきなり高級松坂牛を1頭で生きたまま送るようなものだ。
いくら美味しいものを食べることに関心が高い人だって、いきなりそんなものを送られたら困る。
美味らしい素材というのは、適切に調理できる人がいて初めて素晴らしい料理になる。
やっぱり松坂牛はしっかりと切り分けられ、やはり熟練のシェフが美味しい部位ほどよい焼き加減で提供してくれるのが最高だ。
美味しい野菜やワインと合わせるとより素晴らしい。
医療や健康の研究や情報も同じだ。
世界中で研究を頑張っている人は日々素晴らしい「素材」を生み出している。
それらは、ちゃんと調理されて伝わればみんなにとってすごく役に立つものである。
意識の高い人々だから、ちゃんと調理されたものが出てくればちゃんと頂いてくれるだろう。
けど、肝心の料理人がいないのだ。
しっかりとした研究結果があっても、それをわかりやすく伝える人がいない。
だから、結果として事実かどうかもあいまいな情報がメディアからは流れ、事実かどうかに関わらずインパクトのある情報だけが拡散されてしまう。
美味しい素材を活用するには、ちゃんと調理する人が必要だ。
素晴らしい研究をする人だけじゃなくて、それをわかりやすく広める人いてはじめて研究成果は世のためになれる。
『ペンは剣より強し』
という言葉がある。
情報を言葉で伝えるということは、それだけ人々に大きな影響力がある。
医療においてもそれは同じで、誤った情報はどんな毒よりも多くの人を殺しかねないし、逆に良い情報を上手く伝えることができれば、それは素晴らしい新薬よりも多くの人を救えるかもしれない。
だから自分は書くことを続けたいと思っている。
たとえ微力でも、研究者の方々ほど優秀ではない自分が、目の前に現れる人だけでないたくさんの患者さんを救う方法になるかもしれないから。
そしてもしこれを読んでくれる人のなかで、医療関係者の人がいたらどうか「伝える」ことに興味を持ってくれれば嬉しいと思う。
***
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