アンパンマンと檸檬
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:吉岡さあや(5月開講ライティング・ゼミ通信限定コース)
「書くべきか書かざるべきか。それが問題だ。」
アンパンマンというヒーローが子供たちにはいて、
弱った時にみずからの顔を差し出して元気づけてくれる。
とっくに子供ではなくなっていた私にも、あの時たしかにアンパンマンがいた。
私の迷いといっても、他の人にとっては大したものではなかったかもしれない。
ある機関が隔月で出している雑誌があって、それに連載しないかと言われていた。
関係者にしか配布されない雑誌で原稿料も出ないけど、依頼されるのは嬉しいものだ。
はじめの何回かは、「こんなことを書いてほしい」と言われた。
書きたい欲があった私は喜んで書いた。
頼まれたことを書き終えたら、「その後も自由に書いていいよ」と言われた。
言われたその場で、私は喜んだ。
でも、あとから迷いがやってきた。
「書くべきか書かざるべきか」
原因となった二人の人物に登場してもらおう。
一人目は、大学時代の指導教官。
専攻していた分野についての本をいつか書きたいと、私はもらした。
教授は大笑いして、「少なくとも35歳までは無理」と言った。
失礼なと思いつつ、学問の世界ではそういうものなのかと、それまで知らなかった暗黙の決まりを教わった気がした。
二人目は、高校の同級生。
彼女は大学時代にけっこう破天荒な活動をしていた。
それを聞きつけた出版社から、本を書かないかと言われたらしい。
出せばいいものを、彼女は「まだ早い」と断ったそうだ。
身近な二人が若いうちは書かないものだと言ったので、
私もなんだか、もっと「大きく」なってから書くものかしらんと思っていった。
頼まれたテーマについてなら、書ける。
でも、自由に好きに書くって、なんだか勇気のいることだった。
迷っていた私はある日、本屋で一冊の本に目がいった。
梶井基次郎の『檸檬』。
誰にでも、「名前は知っているけど、読んだことはない名作」というのがあるだろう。
『檸檬』は私にとってそんな本だった。
気にはなりつつ、手にする機会のなかったこの本を、何かの縁かと思って購入した。
巻末の年譜によると、
作者の梶井基次郎は享年31歳だそうだ。
結核で夭逝した作者が書く主人公は、やっぱり結核を患っていて、
でも今よりものんびりした時代だったのだろうか、
自らの運命を暗く思いながらも、街を出歩いていた。
この時の私は、梶井基次郎が死んだ時の年齢だった。
「この年にして、彼はこれだけの書き物を残したのだ」
若くして死んだせいで、彼の書いた量は必然的に少ない。
梶井基次郎全集というのは、なんと文庫本一冊で収まってしまう。
それでも、充実したものをその時の私の年齢で書いていたということが、
なんだか無性にうらやましく、かっこよかった。
「彼が、自分の若さに遠慮して何も書いていなかったらどうなっただろうか」
そんな考えが私の頭をよぎる。
あたり前だが、私たちが彼の『檸檬』を読むことはなかった。
「彼が今の私の歳でこれだけの作品を残したのだから、私だって書きたいように書いちゃおう」
私はやっと思った。
彼こそが、私にとって元気をくれるアンパンマンだった。
私は小説家になりたい訳ではないし、
余命がわずかで早急にこの世に何かを残す必要がある訳でもない。
ただ、書きたいという思いがあるのだから、
誰にも遠慮せずに書いてしまおうと思ったのだ。
今しか書けない内容や文体があるだろうし、書き続けてこそ書けるようになることもあるだろう。
大事なのは、今から書くことだ。
そうして、自分で決めたテーマで書くと決めた私はサンプル文を編集担当者に送ってみた。
問題ないからぜひ書いてとすぐに返信があった。
なんてことはなかったのだ。
ただ迷いは私の中にしかなかった。
書いてみてどうかというと、特に大きな変化はない。
とは言いつつも書いて発表する場があるのは嬉しいこと。
たまに人づてに「よかった」という感想を聞くことがあって、
そんなことを素直に喜びながら次への原動力を得て、また書いていく。
夭折の作家は『檸檬』の梶井基次郎だけではない。
金子みすず、石川啄木、中原中也、ブロンテ姉妹、樋口一葉は、
みんな30歳を越さずに亡くなっている。
著作が売れて有名になったのは死んだ後だったという人も多い。
実績もなかったし、本が売れてもなかったけど、彼らは書いたのだ。
「書きたいなら書いてみたら」
「やりたいことをやっておこう」
彼らみんながそう言っているような気がする。彼ら一人ひとりが私のアンパンマンだ。
何人かのアンパンマンに勇気をもらった私は、次にやることがある。
それは、次の世代の誰かに勇気を与えること。
いつか、とっくに若くなくなった時にも、若い人たちに「やってみたらいいよ」と言える人でいたいと思っている。
≪終わり≫
***
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