「苦手な人」から教わったこと
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「苦手な人」から教わったこと
記事:小森 文(ライティング・ゼミ日曜コース)
かつて職場に苦手な後輩がいた。彼女から逃げ出したい一心で、転職活動まではじめていた。
彼女をKと呼ぶことにしよう。Kはことあるごとに私の発言の揚げ足をとり、会議を混乱させる。上司の前で私の足をひっぱり、計画をぶちこわす。ヒステリックで、人からの指摘に過敏に反応するタイプ。正論を言っているようでいて、端々にすこし胡散臭さがある。見た目はおしゃれだし、美人と言ってもいいだろう。
Kが私が頼りにしていた部下に私の悪口を吹き込み、彼女のチームに引き抜こうとしたことがあった。そのときは、「今チーム編成を変えるとプロジェクトが成立しない」という私の説明が上司に理解され、彼女の作戦は遂行されなかったが、私が受けた精神的なダメージは大きかった。
その頃は毎日が本当につらかった。
当然Kには敵が多かった。理解ある同僚は「つらそうだね」「大変だよね」と共感してくれた。「あいつ飽きっぽいからそのうちおさまるよ」などと声をかけてくれる人もいた。
私自身は、あまりにも理不尽と思いながらも、Kが指摘する私の進め方の問題点や、私自身の欠点に思い当たる点もあって、正直、彼女の存在が怖かった。私の不器用さが見透か されていて、上司や部下の目の前で全てが暴かれ、社内での私の信頼が失われていくようで寂しかった。
しかし、あろうことか、ある年の組織変更でKは私の直属の部下になった。
配属になったその日に、Kは私に向かってこう言った。
「私はAさん(私の名)が苦手だ。尊敬できないし分かり合えない。苦手を克服したいから、毎日Aさんと対面でミーティングさせてください」と。
面と向かってよく言うよ、本当にげんなりだ。
彼女が気分屋で、思うようにことが進まないとイライラするタイプなのを知っていたので、私はその申し出を受け入れた。以降、毎朝15分、私は彼女と1on1ミーティングをすることになった。
Kは頻繁に遅刻してくるし、自分の都合で「リスケさせてください」というパターンもしばしば。「今日は起きられませんでした」としゃあしゃあと言う。
かと思えば、だらだらとプライベートの話をしはじめて、1時間以上とられてぐったりしたり。週に何度もオフィスの会議室で彼女と向かい合っているところを同僚に見られ、まわり からは「よくやるねー」「よく付き合ってるね」と言われていた。
私は腹を括っていた。そしてたった一つのことを気に留めていた。
とにかく、相手の話を聴くこと。
彼女の話を聴いていると「いやー、そりゃあんたのわがままだよ」と突っ込みたくなることもあった。でも自分の口は開かずに、できるだけ彼女の話に身を委ねた。彼女の声に耳をすまし、心をシンクロさせて、深く深く全てを聞き取り、彼女がどう思っているのか自分にしみ込ませようとしてみた。
マネジメントの研修で必ず出てくる傾聴ってやつを、馬鹿みたいに真面目にやってみたのだ。へとへとになるまで聴いた。聴いているうちに、笑えてくることがあったり、自分のプライベートな話をせざるを得なくなることもあった。
次第に、彼女が感受性が強くて、直感的で、ことば足らずだけど、ときどき「真実」を捉えていることを理解した。
(なるほど、空振りも多いし、バットを振り回しすぎて、人を傷つけたりもするけど、この子はつまり、ホームランバッターなんだ)|
1ヶ月ほどで、彼女の思考の背景にあるものが、なんとなく理解できはじめてきた。私の仕事の進め方のどういう点に抵抗を感じていたのか、私が苦手分野が、彼女の得意領域であることも。
彼女の話を聴くことに徹して数ヶ月。驚いたことに、彼女はびっくりするほど優秀な部下に変貌した。彼女のサポートのおかげで、わたしのチームは、仕事上でのヒットを出せるようになっていた。
私は彼女を通じて新しい視点を得、目の前に新しい世界が開けるような感覚があった。
実は、私は、ずっと人を選んで付き合ってきた。基本スタンスは、「(苦手な人は)避ける、逃げる、距離を置く」だ。
だから天敵レベルで苦手な人と正面から向かいあうなんて、生まれて初めての経験だった。怖かったけど今回は逃げないと決めて、とことん付き合ってみた。自分を消して、相手にシンクロさせてみた。
「聴く、は、効く」
苦手な人と対話を重ねられたという経験は、私にある種の自信をもたらした。
私が彼女との会話にストレスを感じなくなってきた頃、彼女の方から「朝ミーティングはもうやらなくていいです」と言い出した。
「話があったら、私から声かけるんで、大丈夫です」
上司に向かって、なんて言いっぷりだろう。だが、その頃には、「勝手にはじめて、勝手にやめるって、Kちゃんらしいよね」と笑って言えるようになっていた。まるで友人に話しかけるように。
私はもう彼女を信頼できていて、いいパフォーマンスを引き出せるようになっていたし、そのことを彼女自身もわかっているということが、振る舞いの端々から伝わってきた。
今思えば、私は随分自分の考えに執着していた。自分というものを一度手放して、相手のことを本当に「聴けた」とき、苦手な相手はあなたを成長させてくれる重要な人物になる。ひとりでは得られない新しい視点をもたらしてくれる。
私のことを「苦手だ」と正面から言いながら、対話を提案してきたKには本当に感謝している。これからも何度だって嫌なやつは現れるだろう。だが、きっとそれはチャンスになる。逃げずにその人と一緒に新しい世界を見に行ってやろうと思う。
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