8. 自然って不思議 〜素数〜《オトナのための中学数学》
記事:吉田健介(READING LIFE編集部公認ライター)
セミ、と聞いてみなさんはどんなイメージを持つだろうか。
「セミと言えば夏でしょ」ミーンミーン。
「いや、シャンシャンシャンと鳴くセミもいるよ」
「10日くらいで死んでしまう。あ、逆に土の中で10年くらいずっといるよね」
「あれ、雨?」と太陽が照りつける夏空の下、頬を微かに濡らす感触。ああ…… セミのションベンか…… みたいなことも。
色々なことがセミから連想されることだろう。
とにかく、セミがいないと夏が完成しないというか、セミと夏は、カレーとライスくらいなくてはならない間柄。どんなに暑い日でも、セミが鳴いているのといないのとでは「ああ夏だな」と感じる度合いが変わる。セミと夏。セミと太陽。セミとかき氷。セミと夏休みの宿題。セミと素数。
素数?
セミと…… 素数……?
そう、セミと素数。
一見すると、バニラアイスとごま油、のように異色な組合せ。あ、ちなみにバニアイスにごま油をかけると、バニラの風味が倍増して美味しくなる。ま、その話は置いておいて。
とにかく、セミと素数。これは冗談でも言葉遊びでもない。ちゃんとお互いに関わり合いがある。何とも不思議な話だが、実際問題、セミと素数は繋がりがある関係。
素数とは、2 , 3, 5 , 7 …… という数字。つまり、「1」と「自分の数」でしか割れない数のこと。例えば、「2」は「1」で割ることができる。また、自分の数である「2」でも割ることができる。素数だ。逆に「4」は、「1」と「4」でも割れるが、「2」でも割れてしまう。つまり素数ではない。
ではここで、セミと素数の間にどのような関係があるのか。
鳴き声? セミの数? 地域? サイズ?
せっかくなら、隣にいる人と話し合ってみるのもいいだろう。
「セミと素数って関係あるらしいよ。素数がセミのどの辺りと関連している思う?」なんて言いながら、お互いに意見を出し合って、あーだこーだと盛り上がり…… はしないか。
とにかく、セミと素数。この2つにはいったいどんな関係があるのだろうか。
実はアメリカに生息するセミに、素数と密接に関わっているセミがいる。
セミと素数が関連していることから、その名も「素数ゼミ」。
そのままかよ! というツッコミは置いておいて。素数ゼミとダイレクトにネーミングされるくらい、まるで「カツとカレーでカツカレー!」のように、名前が2つの関係を言い表している。
では一体、セミのどのポイントと素数が関わっているのか。
実はアメリカでは13年に1度、セミが大量発生する。13と言えば素数だ。だから素数ゼミ!
「いやいや、それってたまたまでしょ。素数と言えば素数だけど、13年間土の中にいるからと言って素数ゼミなんて呼ぶのは大そうな話じゃないかい?」
思わずそう言ってしまう。
だが、アメリカでセミが大量発生するのは13年に1度だけではない。もう1つ、17年に1度の周期でもセミが大量発生する。つまりアメリカでは、2種類のセミがそれぞれの周期で一斉に成虫になり、アメリカの大地を飛び回る。まさにセミの大祭。セミのフェス状態。その音量は、ニューヨークの地下鉄に匹敵するそうな。
ちなみ、17も素数なわけだが、この13と17という数字には理由があるのだろうか。なぜ、13や17なのか。12や14といった、他の数字ではいけないのだろうか。そのあたり、掘り下げていくと何とも不思議なことが分かってくる。自然の不思議ってやつ。
現在分かっている有力な説は2つある。
まずは捕食者を避けるため。
セミは基本的に無害だ。触っても噛まれることはない。変な臭いを発することもない。せいぜいションベンをかけられるくらいだ。つまりセミは温厚なキャラ。そんなセミは悲しいがな、食物連鎖の立ち位置で言うと、完全に捕食される側にいる。まさに食材キャラ。そんな彼らの対抗策は、数で勝負すること。逆に、数が確保されないと、どんどん食べられて、個体数が減り、絶滅してしまう。それを避けるために、セミは素数を導入した。導入したというより、結果的に素数となった。
捕食する鳥がいたとする。寿命は4年周期と仮定しよう。
彼らが13年ゼミと鉢合わせになるタイミングは、4と13という数字から何年毎になるか、考えてみてほしい。
4と13、それぞれの周期が重なるのは、52。
これは、52年に1度、13年ゼミと鳥の周期がかぶることを意味する。鳥からしたらうれしい話だろう。鳥にとっては、御馳走のフィーバー状態。まさに食べ放題。だが、その年が終わると次は52年後まで待たなければいけない。また、17年ゼミに至っては、68年毎となる。
つまり、13や17と数字は、他の数字とタイミングが合わせづらい。必然的に、重なる数字が大きくなるわけだ。と言うことは、捕食リスクが回避しやすくなるというわけ。
もしかしたら、かつては12年ゼミや14年ゼミなんてのもいたのかもしれない。だが、12や14は捕食者の周期と重なる回数が多い。長い年月をかけて、「個体数」が減っていき、今となっては見なくなってしまったのかもしれない。
あ、この「個体数」はかなり重要なポイントとなる。これが2つ目の理由だ。
「セミvs捕食者」という構図で先ほどは考えたが、「セミvsセミ」という視点も大きな関わりを持っている。つまり、他種族との交わり、交雑だ。セミも国際結婚をする。他種に配偶者を見つけて子孫を残すことは珍しくない。だが、他種族のセミと交雑するということは、同じ種族の配偶者が減ることを意味する。そうなると、子孫の数も自ずと減っていくことになる。交雑が続くと、個体種がどんどんと減ってしまうわけだ。
13年ゼミと17年ゼミの場合だと、この交雑のリスクは13と17の周期が重なる221、つまり221年に1度になる。
期間としては、ダメージを最小限に抑えることができると言える。
12年ゼミと14年ゼミだと84年毎。221年と比べたら、交雑の周期は短い。長い年月をかけて個体数が減っていき、今となっては、12年ゼミも14年ゼミも見なくなったと考えるのが自然だ。
つまり、13年ゼミと17年ゼミは、捕食者や交雑から見事くぐり抜けて、生き残った種族なわけだ。勝ち残ったセミは、結果的に、必然的に、自然の流れとして素数に集約した。
「素数って何の役に立つの?」と学生時代に感じた人は少なくないだろう。
だが意外や意外、素数は自然界にも存在してる。そしてこの素数は、まだまだ謎が多く、解明されていないジャンルの数なのだ。何か不思議!
「素数ゼミ」と検索すると、なかなか興味深い映像を見ることができる。彼らが一斉にフェスを始めた年の様子は大迫力。もう祭りの域を通り越している。ちょっと気味悪いくらい。虫が苦手な方にはあまりお勧めはしない。いや、でも見てほしい。見て「素数」を彼らから感じ取ってほしい。
「ほー! これが素数か!」
とはならないか。
❏ライタープロフィール
吉田 健介(READING LIFE 編集部公認ライター)
現役の中学校教師。教師が一方的に話をするのではなく、生徒同士が話し合いながら課題を解決していく対話型の授業を行なっている。様々な研究授業で自らの授業を公開。生徒が能動的に学習できるような授業づくりを目指している。
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