言葉は自分の世界と相手の世界をつなぐ道具
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:松本さおり(ライティング・ゼミ日曜コース)
「なんで言いつけ守れないの!」
「お店のものを触ってはいけないって何度も言ってるでしょ!」
「なんで分からないの!」
こんな声が聞こえてきた。冷たく怒る女性の声だ。
その声の方を見ると3~4歳くらいの男の子とそのお母さんらしき女性が目に入った。
ここは近所のスーパーだ。食料品売り場は、買い物かごを持った客で混みあっている。
お母さんは、商品の方を見ながら、子供とは目も合わせず、
声を大きく荒げるでもなく、でも言い切りのきつい口調で淡々とこう言った。
「言いつけを守りなさい」「静かにしなさい」
「言いつけを守りなさい」「静かにしなさい」
男の子は、お母さんに
「お母さん、これ見て!」と話しかけるのだが、
そのお母さんの口から出てくる言葉は
「言いつけを守りなさい」「静かにしなさい」なのだ。
「お母さん、これ美味しいのかな」
「言いつけを守りなさい」「静かにしなさい」
「お母さん、これ……」
「言いつけを守りなさい」「静かにしなさい」
このやり取りが何度か繰り返された。
その子がお母さんに話しかけるたびに「言いつけを守りなさい、静かにしなさい」が
繰り返されるものだから、その子もだんだん泣きべそ顔になってきた。
そして、商品を見ているお母さんの前に立ちはだかって、両手をいっぱいに広げて
泣きべそ顔でこう言った。
「お母さん! 怒らないで!」
その男の子の必死な叫びにも、お母さんの返答は
「言いつけを守りなさい」「静かにしなさい」だった。
同じ空間にいても、同じものを見ていても、見ている世界が同じではないとき、
その違いを分かり合えなかったとき、そこに歪みが生まれる。
お母さんが見ている世界は
「言うことを全く聞かない子が、悪いことばかりして私を困らせる世界」だ。
その世界でこの世を見ているとき、この子のやることは全て「困ったこと」になり
目の前の子は「私をいちいち怒らせる子」になる。
男の子が見たかった世界は「お母さんが笑っている世界」だったのだと思う。
お母さんがいつも不機嫌でムスっとしているから、どうにかしてお母さんを笑顔にしようと一生懸命話しかけているのがよく分かった。
「お母さん、笑って!」「お母さん、一緒に笑おうよ!」
お母さんの笑顔を見たくて、泣きべそ顔になりながら頑張っている男の子の必死ぶりを
眺めていたら、子どもの頃の自分が蘇った。
お母さんと遊びたかっただけなのに「静かにしなさい」と怒鳴られた記憶。
話しかけても、返事さえしてくれなかったお母さんの記憶。
あのとき、子ども心にも「もう二度とお母さんと遊ぼうとは思うことはやめよう」と
誓っていた。
そして、どんどん話さなくなっていった。
あの時の私は、この男の子と同じように、ただお母さんと遊んでほしかっただけだったし、おしゃべりしたかっただけだった。
話しかけても、私の言葉がなかったかのようにスルーされたのが悲しかった。
この悲しみが「どうせ私の話は聞いてもらえない」と言う思い込みを作り出し、長い間、自分を閉じ込めていた。
だから、この男の子の気持ちが私の心になだれ込むように押し寄せてきたのだ。
そして、この男の子に同調をしてしまっていた。
子供が必要以上にうるさいのは、お母さん、お父さんが子供の話を全然聞いてないから「聞いて聞いて! みてみて!」と言っているだけかもしれない。
なぜ、子どもがその行動をしているのか、と考えてみることで、目の前の子どもに興味を示してみてほしい。
人って、誰にも興味を示してもらえなかったら、一人ぼっちな気持ちになってしまうものなのだ。
この男の子が商品を触ったのは、お母さんに見せたかったから。
うるさくお母さんに話しかけたのは
「お母さん、これ、なあに?」「お母さん、これ見て! 美味しそうだよ」と、
気持ちを一緒に分かち合いたかったから。
そして、何よりも、お母さんの笑顔が見たかったから。
子どもって、思い通りに動いてくれないものだ。
子育てをしているときは、イライラしたり怒りたくなったりすることもいっぱいある。
そして、お母さんもきっと、思い通りにいかないイライラを、子どもにぶつける以外に
選択肢がなかったのかもしれない。
でも、そんなときこそ一呼吸おいて、子どもの声に耳を傾けてみてほしい。
私を困らせてばかりいる、と思っているその子は
「お母さんと一緒に笑いたい」と思っているだけなのかもしれない。共に楽しみながら、笑い合っている世界を見たかっただけなのかもしれない。
同じ空間にいても、同じものを見ていても、自分と人が見ている世界は同じではない。
皆、違う世界を見ている。自分の世界を見たいように見ているのだ。
言葉は、自分の世界と相手の世界をつなぐ道具だ。
自分の想いを言葉にしていかないと伝わらない。
私の見えている世界はこうだよ、と口にしていかないと分かり合えない。
自分と同じように感じ、同じように見えている人に出会えたら、見える世界はいつもより輪郭がはっきりとして見える。
ついつい、近い人ほど「言わなくても分かってよ」と思ってしまいがちなのだけど、
私の想いをもっと言葉にしていこう。私の中にある愛をもっと伝えていこう。
そして、周りの人がどんな世界を見ているのかに耳を傾けていこう。
一人として、同じ世界を見ている人はいない。
だからこそ、同じように感じる人に出会えたとき、気持ちが重なり合う喜びを
感じることもできるし、違いを知って新しい世界を見ることもできる。
共に楽しみながら笑い合える世界を創造しよう。
***
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