工場で働く
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:Risa(ライティング・ゼミ平日コース)
「今日もたくさんの作業を行ってもらいます。ほへんもありますので、よろしくお願いします。みんなでがんばりましょう」
バイト先の朝礼でリーダーが言った。
「ほへん」って何だろうと私は思った。
私のバイト先はとある食品工場。
主にスーパーの店頭で売られる商品をパック詰めして出荷するのがこの工場の任務だ。
ベテランのパートのおばさんたちは「ほへん」と聞いても特に疑問もないようだった。
どうして私が食品工場でバイトしたかについてまず書いておこう。
大学生だった私は時間のある長期休暇を利用して、普段できない経験をしながらお金を稼ぎたいと思っていた。
「短期 バイト」で検索するといくつか候補が出てきて、その中の一つが食品工場だった。
もともと食べるものには関心があり、食品のラベルに書かれている成分表示は必ずと言っていいほどチェックしていた。
とはいえ、実際に食品がどのように製造されているかは全くわからない。
コンビニやスーパーのお惣菜や弁当が工場で作られているのは知っていても、工場内で誰がどんな作業をしているのかは想像できず、機械がすべての作業を行う無機質な空間をイメージしていたくらいだ。
これはいい機会と思い、食品工場で2か月間バイトをすることにした。
工場の朝は朝礼から始まる。
立ち仕事で重いものも持つため、体操もする。
簡単な挨拶、髪の毛が作業帽から出ていないかのチェックをした後に行われるのがその日の作業内容の確認だ。
「ほへん」と聞いたのはこの時だった。
何のことだろう?
はじめの1月間はわからないままだった。
作業はたいてい、プラスチックケースに大量に入っている具材をスーパーなどで売る用のトレイに一つずつ、または規定量乗せてラインに置いていくというものだった。
配属されたのが水産物を担当する部署だったので、一口大のゆでたイカやエビ、味噌漬けの魚、ホタテなどを扱っていた。
いろんな具材を計ったり入れたりするのに慣れて来たある日、ダンボールに製品を詰める作業をするよう言われた。
具材の乗ったトレイにラップを(機械で)かけてラベルも(機械が)貼り「商品」となったものをダンボールに詰めてガムテープをきれいに貼りカートに乗せていく。
素早さの求められる力作業だった。
はじめての仕事内容に苦労したが、ここでやっと「ほへん」の謎がとけた。
答えは、近くに置いてあった書類の中にあった。
「保存温度変更」
これだったのだ。
これを略して「ほへん」と言っていたのだ。
どういうことかというと、工場で製造されるものの一部は冷凍されて出荷される。
そしてスーパーなどで冷凍のまま保管される。
スーパーではその日に売れそうな数だけを解凍して、つまり保存温度を変更して冷蔵品として陳列する。
ほへんとは冷凍から冷蔵にするということだったのだ。
実際、出荷する用のダンボールには「冷凍品」と記載されていて、何か月も先の冷凍品としての賞味期限の印字されたシールが貼られる。というか、私が貼った。
商品自体のシールには「消費期限は枠外に記載」と書かれている。
枠外に期限の書かれたシールが貼られるのは、スーパーで解凍されて陳列棚に並ぶ時だ。
こちらは見たわけではないけれど、おそらく解凍した日の2,3日後が冷蔵品としての消費期限として印字されるのだろう。
ゆでたてのようなエビも、とれたてのようなホタテも、つい最近味噌漬けにされたかのような魚も、実は前身は工場でずっと前に製造された冷凍品だったのだ。
こんな食品の秘密を知ることができて、肉体的な疲労はありつつも新たな発見で楽しさもひとしおだった
その後で読んだ本によると、「ほへん」こと保存温度変更は「フロチル流通」とも言うようだ。
すなわち、製造後は冷凍(フローズン)で保存されるが、売られる時には解凍して冷蔵(チルド)品になる。
食品業界ではよくあることのようだけど、きっと本で読んでも誰かから聞いてもこの経験がなければすんなり理解できなかっただろう。
百聞は一見に如かずと言うけれど、実際に目で見て知ることほど大きい学びはない。
そんなことを思いながらもくもくと働いていた。
バイトはたったの2か月だったけど、このほかにも食品の裏側をたくさん見ることができた。
普段口にしている食品は工場などで働くたくさんの人の手を介して作られていることも学んだ。
もう何年も前のことだけど、スーパーで魚介類を見ると今でもあの時のことを思い出す。
そして、あの時一緒に働いた同僚の姿がよみがえる。
2か月のバイトのおかげで、私は食品について少し詳しくなり、工場で働く多くの人おかげで今日も食べ物を口にできることがわかるようになった。
***
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