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カメムシは将来必需品となりうるか


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北 花音 (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ひ、ひぃぃーー!!」
声にもならない叫び。血の気が一気に引き、全身が凍りついた。
 
ある施設の、トイレでの出来事である。
便座に座り、用を足し、トイレットペーパーを手にした時だった。
何と下着にあれがくっついていたのである。
 
「ブーン」も「ポトッ」もなかったのに。気配もしなかったのに。
なぜいきなり、そこにいる?
私のパンツについている?この気持ちわるいやつめ!!
もしかして……もしかしてだけど、ずっとパンツの中に入っていた??
ひぃぃー!!
 
青白い顔に縦線を入れながら、ペーパーで勢いよく払いのけた。
しばらくは動けなかった……。
 
だいぶ遠くの床をのろのろと動くのを見て、冷静さが戻ってきた。
パンツの中に入っていたのなら、いくら鈍い私でも気がつくだろう。
山の上にあるこの施設。トイレの窓は大きく開けられていた。
おそらくこいつは窓から入ってきて、トイレットペーパーに身を潜めていたのだろう。
……あぶない!もう少しでこれをつけたままのペーパーで大事なところをふきふきする所だった……!!
 
昔から、カメムシに寒気をもよおされる。
自然に囲まれた場所に実家があるため、小さい頃からよく家に入ってきていた。
「寒い冬が予想される秋には大量に民家に押し寄せる」といううわさも甚だ迷信ではないらしい。
自然界に生きるものは、気象の変化を敏感に察知する。寒くて雪の多い冬に向けて、より温かい民家に多く入ってくるらしいのだ。
 
「今年は多いよね」という年は、本当に多くのカメムシが家の中に入ってきて、天井やら壁やら窓のサッシやらの周辺にうろついていた。
 
こいつらは、急に飛ぶのである!しかも「ぶぅーーん」と必要以上に大きな音を出して。
そして追い出そうと払ったりした場合には、独特のにおいを垂れ流す。
たった一匹を怒らせただけなのに、その部屋はたちまちにおいが充満する。心臓がドキドキするような頭痛が引き起こされるような不快なにおいだ。
 
実家暮らしの頃、ある朝起きて、これまた血の気が引いたことがある。
私が今の今まで顔をうずめ、幸せな眠りを支えていてくれていた愛用のまくらのちょうど真ん中にカメムシがいたのだ。
この時も「ひぃぃーー!!」と言ったし、
父が「駆除する」と宣言して、脚立にのぼりながらガムテープを手に家中をまわった後の、そのガムテープを見ても「ひぃぃーー!!」と言った。
何十と密集していた、あのガムテープのおぞましさは今も脳裏に焼き付いている。
 
さて、カメムシに関してちょっと気になる事がある。
 
そのにおいがあの香草、パクチーに似ていると言われているのは有名な話だ。
パクチーの英語名「コリアンダー」の語源はどうやらカメムシに由来しているらしいし、日本でもズバリ「カメムシソウ」という別名があるそうだ。
 
気になるのは、こんなにもカメムシには嫌悪感を抱いている私なのに、パクチーが好きだ、ということだ。
 
若かりし頃にバックパッカーに憧れて、東南アジアの街を軽装でうろついていた時に食べた、屋台の麺の味が忘れられない。
それは、麵のどんぶりにフレッシュなハーブとパクチーを好きなだけのせてよいスタイルだった。
アツアツの鶏がらスープの味と、ふわっと香るハーブとパクチーのシャキシャキの食感。
つるんとした麵がそれらと一緒に喉元を心地よく通り過ぎていった……。
今でもパクチーを口にすると、あの味とあの時のワクワクした高揚感がよみがえる。
 
そういえば、見たな。テレビのクイズ番組で。
あれはタイだったか……。東南アジアのある田舎の市場で、昆虫がたくさん売られていた。
昆虫は貴重なたんぱく源であるそうで、焼いたり揚げたり煮詰めたりされて平然と食されていた。
バッタやごきぶりの仲間にも「おぉ」と思ったが、中には当然のようにカメムシがいて、私は「出た!カメムシ!」と反応した。
 
現地のおばちゃんの「おすすめカメムシレシピ」はこうだった。
フライパンでカラカラに炒った後、すり鉢に入れてゴリゴリとつぶす。それを料理にたっぷりふりかけていただく。パクチー味で、しかも高栄養な、香り高い一品が簡単に出来上がる。
このスパイスはどんな料理にもマッチしてくれるらしい。
 
……そう。昆虫は、カメムシは、今日も世界のどこかで食べられている。
 
最近「昆虫を食す」という話題によく出会う。
「気持ち悪い」「ありえない」
そう思いながらも、怖いもの見たさで必要以上に注目している私である。
 
将来、地球の人口はさらに増加し、食糧不足がやってくると予想されている。
食料の生産や畜産、捕獲が間に合わなくなってしまうというのだ。
 
そして、そんなピンチに陥った時、コストがかからず、気候変動にも強く、繁殖も容易な昆虫は人類を救うかもしれないというのが「昆虫スーパーフード説」だ。
昆虫は丸ごと食べると不溶性食物繊維をたんぱく質と一緒に摂取でき、最強なのだそうだ。
そういえば、無印良品も「コウロギせんべい」なるものを発売していたな……。
来るのか?昆虫食ブーム??
 
あぁ、こわい。こわいけど……でも、もしかしたら、ありえる?のかな?
将来、私も昆虫食を当たり前のものとして受け入れている可能性が……ある?のかな?
 
「肉も魚も高すぎて買えない」という未来がやってきたとしよう。
安価なカメムシを使って作ったふりかけを野菜いためにたっぷりかけていただく私。
「やっぱり、この味、この香り、昔から好きなんだよねー」
……そう言っているかもしれない。あぁ、こわい!
 
……でも、ないとは言い切れない。
 
幼い時、ペロッとなめてみて、震える程まずいと感じたビールが今では心の拠り所となっているように。
ワンクリックで次の日に欲しいものが家に届くなんて、映画の世界だけだと思っていたように。
ジーコジーコと回してかけるのが当たり前だった黒電話が1人1台のスマホに取って代わり、「ヘイ!」と呼びかけるだけ事足りるようになったように。
 
地球は回っている。
人の感じ方も価値観も、日々変化している。
そして、ここ最近の変化はどんどんスピードを増している。
 
カメムシが将来、私の必需品となっていることも……可能性ゼロではないだろう。
 
 
 
 
***

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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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