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私は暴君か

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記事:秋田智子(ライティング・集中コース)
 
 
パンがなければお菓子を食べればいい。
 
飢えに苦しみパンを求める人民に放った、フランス王妃マリーアントワネットが飢えに苦しみパンを求める人民に放った言葉だと言う。
革命前のフランスは、アンシャンレジウムと言うピラミッド型の体制で成り立っていた。国民のわずか3%にしか満たない王族、貴族、僧侶が国の富のほとんどを占有していたと言う。残りの人民は重税に苦しみ、裸足で街を彷徨い、ボロをまとい、隙間風の入る家のなかで飢えに苦しんだ。王族や貴族、僧侶たちは今日食べるパンさえもない人民に重税をかけ、その上にあぐらをかいて生きていた。そんな彼らを私たちは暴君と呼ぶ。
 
日本の明治時代もよく似た時代だった。
 
文明開化が起こり、人々の生活が格段に向上した時代だ。富国強兵の裏で、大勢の人が搾取され苦しんだ。
 
生糸工場で働く少女たちを描いた「ああ野麦峠」が印象深い。
 
安い給金で長時間労働を課せられ、過酷な労働条件に苦しむ少女たち。あるものは強姦されて野で子を生む、あるものは病に倒れ、医者にもかけられず工場を追い出された。迎えにきた兄に背負われ家に帰る途中、
「ああ、飛騨の山が見える」
と呟き死んでいく少女の姿が哀れだ。
 
この映画は鹿鳴館のダンスシーンだ。
 
哀れに死んでいく少女を踏みつけて、娯楽にふける貴族たちを描いて映画は終わる。
 
この映画を見るたびに思う。
 
私たちは、この貴族たちではないだろうか?と。
 
今は明治時代ではないし、私たちが直接彼女たちから搾取しているわけでもない。しかし、彼女たちの苦しみは巡り巡って私たちの生活を作っている。
 
製糸工場の少女たちが紡いだ糸は、絹織物となり外貨を稼いだ。外貨は富国強兵に生かされた。戦力は増強され、そのおかげで理不尽な攻撃から自国を守ることができた。文明の西洋化により列強との対等な会話が可能になった。列強と肩を並べることができたからこそ、日本が他のアジア諸国のように列強に占領されることなく、独立を保つことができたのだ。そうでなければ現在の日本は全く別の国になっていたであろう。
 
野麦峠で亡くなったあの少女の犠牲の上に富国強兵があり、富国強兵の結果は巡り巡って、今の日本を支えている。野麦峠は本や映画の中の出来ごとではない。私たちの生活に繋がっている。
 
だとすれば、私たちも鹿鳴館で踊っていた貴族たちと同じだ。哀れに死んでいった少女たちを踏みつけて、今の私が存在しているのだ。
 
フランスのアンシャンレジウムはどうか。
 
あの時代の貧富の格差は想像を絶するものであろう。しかし、一部に巨万の富が集まるからこそ、高度な技術が生まれ、芸術が生まれる。アンシャンレジウムがあったからベルサイユ宮殿ができたのだ。アンシャンレジウムがなければ、モーツァルトは活躍できなかったかも知れない。私たちが過去の素晴らしい建築物や芸術を楽しめるのは、アンシャンレジウムがあったからなのだ。
 
もちろん私たちは暴君ではない。だが、誰かを犠牲にした結果の上に暮らしていると言う意味では暴君と同じなのだ。アンシャンレジウムは過去の出来事ではない。今につながっている。
 
日本には四千から五千種類のキノコがある。だが、そのうち食べられるキノコは五十種類にも満たないと言う。なぜこんなに少ないのか? 食べられるかどうかは食してみないとわからないからだ。食べられるキノコがあるのは、それを試してくれた過去の誰かがいるからだ。おそらく数え切れないくらいの人が毒キノコを食べ、食べられないことを身を以て示してくれた。
 
日本酒の元となる麹菌は米に生える緑色のカビだ。緑色のカビは毒性を持つものが多い。それなのに果敢に麹菌が食せるか試した人がいるからこそ、私たちはおいしいお酒が飲める。
 
私たちの今の生活は過去の数え切れない多くの人の犠牲や努力の上に成り立っている。過去の様々な出来事は今につながっているのだ。
 
人が生きるには社会とのつながりが欠かせない。
だが、つながっているのは「今」だけではない。過去から今に続く時間のつながりが今の社会を作っている。時間の流れの中で、今の社会を作り上げてくれた数多くの人がいる。そのみなさんに感謝の気持ちを持ち続けていたい。
 
未来に向けてはどうか。
 
時が過ぎれば、今の時代も過去となる。未来の社会も今の時代を積み上げて出来上がっていく。
 
私もいずれは、未来の社会を作る過去の人になるのだろう。
 
今の自分が未来に向けて何ができるのかわからない。何をするのが正解なのかもわからない。
 
だが、未来に生きる人の為に何かの種を残せたらと思う。
幸せに楽しく暮らせるきっかけになる、何かを少しでも残せたらいいなと思う。
 
今と未来もつながっているのだから。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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