【ネタバレ注意】絶望しかなかった主婦の私の人生を変えた本
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:青カケス(リーディング・ライティング講座)
私はある片田舎に住むしがないアラフィフの主婦だ。夫との関係も冷めきり、反抗期の子どもたちからはボロクソに言われる。仕事はフリーランスだが、思うように売上が上がらない。鏡を見たくなくなるほど外見も日々劣化していく。推しのアイドルとかミュージシャンもいないし、友達も少なく、このまま何の楽しみもなく心身ともに老いていくしかないのかなと暗い日々過ごしていた。
だが、数年前、そんな絶望的な日々に終止符を打つ日が突然やってきた。洗濯物をたたみながら動画サイトを見ていたときに、オススメとしてスクリーンの脇に「世界一初恋」の先行プロモーションビデオが出てきたのだ。私は軽い気持ちでその動画をクリックした。
「世界一初恋」の舞台は丸川書店という出版業界を舞台にしたBL(ボーイズラブ)のアニメだった。当時私はBLというジャンルやその言葉の意味さえ知らなかった。それにアニメやマンガはあまり興味がなかったが、いきなり告白から始まるPVと、出版業界を舞台ということで、直感で「観てみたい!」と思った。
このアニメは2011年に始まったので、PV を観た時アニメは放映していなかった。だがあまりにストーリが気になった私は、出版されている原作のコミックスを全部オンライン書店でぽちって読んでみたところすっかりハマってしまったのである。
登場人物は丸川書店に勤務している少年及び少女向けマンガの編集部や営業で働く男性社員、漫画家、関連書店で働くバイト大学生などだ。メインのカップルの他に、いくつかのカップルが存在し、舞台は共通して丸川書店だが、それぞれのカップルの独立したストーリーがある。
そのアニメは映画化もされていた。映画「劇場版 横澤隆史の場合」を観て、「私は「何これ」を連発していた。私の「何これ」は最上級に可愛いものや素敵なものに使う形容詞だ。そして、その日から不器用な恋愛しかできない横澤さんの事が頭から離れなくなってしまった。
映画を通じて、初めて純粋に人を好きになった時の気持ちを思い出したり、別に好きでもない人だったけれど、余りにちょっかいを出されて気がついたらその人のことが好きになっていたとか、本当は好きなのに、素直になれなくて、気持ちとは逆の態度をとってしまったりとか、若かった頃には誰しも経験がありそうな感情が蘇ってきた。
営業の横澤さんと恋人になった桐嶋編集長の恋の行方は、幸いノベライズされていたので、映画を観た後も、小説を購入して続きが楽しめた。読み落としたところがないかと何度も何度も表紙がぼろぼろになるまで読んだ。ストーリーももちろん好きだが、横澤さんと桐嶋さんの2人の漫才みたいな会話は何回読んでも面白い。
「世界一初恋」のメインのストーリー「小野寺律の場合」で出てくる横澤さんは、社内で吠えまくる、強面営業社員だ。初恋の相手である高野さんと小野寺律との間を邪魔しようとするあまり、最初は意地悪に見えて苦手なキャラクターだった。だが、「横澤隆史の場合」では、本当の横澤さんに会えた。それは、手先が器用でお料理上手、動物や子供に好かれる優しい横澤さんだった。その強面な外見と女子力の高さのギャップに萌えた。恋愛に関しては不器用で、ツンデレな横澤さんの事を小説を通じて知れば知るほど、ますます横澤さんの事が好きになった。
小説を読み終えた後、いつしか、横澤さんと桐嶋編集長の妄想話が私の頭を占領するようになった。気がついたら顔がにやけていて、家族にも気持ち悪がられるほどだった。妄想をしているときは胸がきゅんとなって、ある種の幸せホルモンが分泌されているような気がした。
ある日、横澤さんに幸せになってほしいという願いと桐嶋さんと横澤さんの妄想が爆発して、とうとう、私は二次小説を書くようになった。文章なんて大の苦手で、ましてや小説なんて書いたことがない。けれど、その溢れ出る妄想はとどまることを知らず、自分の頭の中におさめておけなくなってしまったのだ。書き終わったら誰かに読んでほしくなったので、自作の二次小説をネットにアップしてみた。反応なんて無いだろうと思っていたら、いいねを押してくれる心の優しい方やコメントまで送ってくださる方がいらっしゃり、何個かストーリーをアップした。
このように、「世界一初恋 横澤隆史の場合」は、老いるのをただ待つだけの中年主婦の私に、書く楽しみを教えてくれたのだ。
それだけではない。私は常々ペットなんて飼えない思っていた。自分や家族の世話だけで精一杯で動物に注ぐ愛情なんて無いと思っていた。だが、横澤さんが猫を飼っていた事に影響され、私も保護猫施設から小説に出てくる猫にそっくりのハチワレ猫を受け入れた。名前は横澤さんの猫と同じ名前でソラタと名付け溺愛している。
また、私の横澤さん熱は、ハトバスツアーでしか東京観光したことのない田舎者の私を、聖地巡礼のために単独で東京にまで赴かせた。
池袋のジュンク堂書店、飯田橋駅、そして、帰りには、飯田橋駅の近くの和菓子屋、紀の善さんで、映画で横澤さんが手土産に買っていた「抹茶ババロア」を購入した。道中、地下鉄や駅では横澤さんや桐嶋編集長ががいないか(いるわけない!)ドキドキしながら移動した。昔の自分では想像できない行動力だ。
人生に楽しみなんて無いと思っていた私に、生きる楽しみや動物を愛することを教えてくれて、行動力までをも与えてくれた「世界一初恋」の原作者、中村春菊さんと、小説家、藤崎都さんに心の底からありがとうと言いたい。
そして、もし、生まれ変われる事ができたなら、来世は出版業界か書店で働いてみたいという野望までも出てきた。いや、出版社に勤務ができなかったら、ビルの掃除員とか、休憩所にあるコーヒー販売機のメンテナンス、何でも理由をつけて出版業界に潜入してみたい。そしてそこで繰り広げられるBLストーリを垣間見てみたい。
「世界一初恋、横澤隆史の場合」がもたらした私の人生への変化はこのように計り知れないのである。
小説・藤崎都、原作&マンガ 中村春菊『世界一初恋〜横澤隆史の場合〜1〜6巻』角川ルビー文庫
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