王子様のしっぽは幸せのバロメータ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:吉田淳子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「どうして犬を飼っている人は、将来面倒を見てくれるわけでもない犬に餌をあげて、ウンチを拾って歩くんだろう」
私は長い間、犬を飼っている人をそんな風に思っていた。冷たい人間と思われても仕方ないだろう。
私は、動物とは無縁に育った。動物を触ったらすぐに手を洗うべき、と思っていたので、動物好きの夫が猫をなでた後には「手、洗ってね」と念を押していたし、怪我をした猫を拾っておなかに抱いて仕事をした、という夫の話を聞いても、その感覚がよく理解できずにいた。
ところが12年前、私の人生を変えた、といっても過言ではない出来事が起こった。
ふらっと入ったペットショップで、一頭の子犬と出会ったのだ。
ベタだが「運命の出会い」というやつだ。
数日後、その子犬を見せるためにペットショップに夫を連れて行った。
「あのこ、可愛いでしょ」
夫に「買っちゃえば」と言われたが、○○万円でワンコを買う、ということはその時点ではあり得ないと思っていたので「まさか」と答えた。
さらに数日後、他の女性がそのコを抱いているのをみて「やはり私が連れて帰る」と思った。
夫にその場で電話をすると大笑いされた。
「まさかあなたが犬を飼うとは思ってもみなかった」と。
その場で購入手続きをして、その子犬を入れたバッグをたすき掛けにして腹部にその存在を感じながら、組み立て式のサークル、ペットシートとトレー、ペットフードなど一式を両手に持って家に帰った。
その日から、子犬との共同生活が始まった。
朝起きると、その子犬はサークルの中で、チンと座って、こちらを見ていた。家の中に、体温のある生き物がそこにいる、ということが不思議だった。
その子犬は、私が近くを通るたびに、こちらに向き直った。「おりこうにしているから遊ぼ」と言っているようだった。
その子犬には「くうた」と名前をつけた。その頃はよく食った(くった)し、Cu(くう)はゲール語で子犬という意味だと調べたからだ。
「くうた」との関わり方がよくわからなかった私は、生後半年の時に、「犬の家庭教師」から、遊びながらしつけをする方法を学んだ。トレーナーさんに言わせると、「くうた」は「素直でわかりやすい、賢いコ」ということだった。
私は、「くうた」と生活をするうちに、犬に感情があることを知った。
悲しい、くやしい、嬉しい、楽しい、甘えたい……。
とてもけなげで、優しいことも知った。
私は「くうた」のママと呼ばれた。子供のいない私にとって、それは「おままごと」のようにも感じたが嬉しかった。
冬の散歩中に、「くうた」のウンチを拾う時、その体から出たての温かさにも感動し、いとおしく感じた。
「くうた」を連れていると、犬を連れている見知らぬ人同士とも挨拶を交わし、会話が弾むことも新鮮だった。旅行に行くときは犬と一緒に食事ができる宿を探し、私のSNSには愛犬が頻出するようになった。
よそのワンコに顔をペロっと舐められても気にせず愉しむようになった。
動物が、単に動く物ではないと実感した。
「くうた」が変えたのは私だけはなかった。
夫が病になった後、自宅から車で5分ほどの距離にある実家に「くうた」を預けるようになった。
当初、「くうた」を見て「なんだイヌか」と言っていた父は、「くうた」にぞっこんになった。
父は、私が仕事の日には、「くうた」と共に過ごすことを楽しみにし、夕方には、「くうた」を伴ってお散歩に出かける。近所の可愛い中学生たちが寄ってきたり、ワンコ連れのおばさまとの立ち話も楽しいようだ。
私は、父とはそれほど仲が良かったわけではなかったが、最近では、「くうた」が行く所にどこにでもついてくる父と、姉の運転する車であちらこちらに出掛けるようになった。
もうじき84歳になる父には、元気でいてもらいたいので、姉の希望もあり、できるだけ「くうた」を預けるようにしてきた。
ところが、先週の火曜日、それは起こった。
夜、「くうた」を実家からひきとって家に帰ったとき、「くうた」の様子がいつもと違っていた。足を拭いているときに震えているように感じたし、家の廊下で大好きなボール投げをしても、いつもはブンブンとシッポを振って追いかけているのが、シッポが上がらず、途中までですぐ下がってしまっていた。シッポがカチカチなようにみえた。
そして、「くうた」を横から見たとき、右と左のお尻から血がでていることに気づいた。
慌てて実家の父に電話で問うた。
父によると、夕方、実家のそばで、「くうた」をリードにつないだまま、いつも出会うワンコ連れのおばさまといつものように立ち話をしていたら、向かいの家の黒柴が突然飛び出してきて「くうた」に絡んだとのことだった。
お尻に左右二か所も出血跡があることから、リードが絡まって逃げられず、ガブガブとやられたことが想像できた。
その夜は、私が寝ているお布団の上に乗っかって寝ている「くうた」から、ブルブルと震えが伝わってきた。
翌日、かかりつけの獣医に抗生剤をもらい、心の傷はどうしたらよいのか聞いた。
「ひきずるコもいるよね……」とのことだった。
2日間、くうたは震えが止まらなかった。翌日の夜中、「くうた」の震えで私は目を覚ました。起きて撫でると少し落ち着いたが、このまま「くうた」が恐怖の気持ちで生きていくことになりはしないかと悲しかった。
世の中、何かの被害に遭われる方がおられ、そういう方は泣き寝入りせずに声をあげるべし、という考えがある。私もどちらかというと、堂々と訴えることが正しいことだと思っていた。ところが、今回のことで、声をあげないで早く忘れたいという方の気持ちが理解できるように感じた。
今後、「くうた」が同じ目に遭わないために、黒柴の飼い主にきちんと話をするべきかとも思ったが、おそらくそこの家の人には話しても無駄であろうとも思った。今回のことは、「くうた」の飼い主である私が「くうた」を守れなかった、私の責任なのだ。
私にできることは、「くうた」を守るための措置を講じながら、「くうた」と明るい気持ちで過ごすこと。気にしているであろう父の気持ちも明るくすることである、と悟った。
「飼い主がいつもその現場でイヤな気持ちを持つとワンコはその気持ちを察してしまう」のである。
気持ちを切り替えて過ごしていたら、4日後には、元気にボール投げをし、タオルをブンブン振り回していたずらをし、朝は早く起きてとばかりに顔をペロペロ舐めたくってくる、いつもの「くうた」に戻っていた。
愛犬は、家族をつなぎ、人をつなぐ。ポジティブになることを、身をもって伝えてくれる。
私に足りない所を教えるために、神様からつかわされた小さな王子様。
愛犬のシッポは幸せのバロメータ。
シッポが楽しくブンブン振られる日々が続くように日々を過ごしていきたいと心から願っている。
***
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