お笑い番組は、友達作りの教材である。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:増嶋 太志(ライティング・ゼミ日曜コース)
子どもの頃からテレビが大好きだった。なかでも、物心ついてからよく見ていた番組がお笑い番組である。志村けん、ダウンタウン、とんねるず、ウッチャンナンチャンなど、ブラウン管の向こうで次々におもしろいことをする人たちが私のヒーローであり、私は彼らに夢中だった。毎週、放送がやってくるお笑い番組が楽しみで、始まる時間までには食事も風呂も済ませてテレビの前に座った。今と比べると、その当時はまだまだコント番組がたくさんあったように思う。「ダウンタウンのごっつええ感じ」は本当によく観ていた。ダウンタウンの松本人志を中心に、出演メンバーが個性的なキャラクターに扮して登場してくる。子どもの私にはすべてを理解することはできなかったけど、王道のお笑いから独特なシュールさを持つお笑いまで、お笑いの振り幅の広さを知った。ビデオなどで今観ても、声を出して笑ってしまうのだが、当時は子どもだった私も分かる範囲で笑っていた。
そして、もう一つ、欠かさず観ていたコント番組が、「志村けんのだいじょうぶだぁ」である。志村けん扮する愉快なキャラクターがいわゆる「普通の人」と絡むことで、そのおもしろさが爆発するのだ。そこには志村けんの人間観察の鋭さと、それを真似する完璧な技術があったのだと思う。実際に出会った人が独特の動きのクセを持っていたり、喋り方が変わっていたりという個性を自分の中に取り込み、おもしろく表現する。それは志村けんだけが魅せてくれたお笑いだった。
私はそれらのお笑い番組の影響を強く受けた。番組を観た翌日は学校で友達にその真似をしてみたり、同じギャグを言ってみたりと、笑わせる側になろうとした。テレビ番組を観ているときは、自分の大好きなヒーローに笑わせてもらっている立場だが、学校では自分がヒーローになりたいと思ったのだ。誰かを笑わすようなおもしろいことをしたいといつも考えていた。そして、自分よりもおもしろいことができる友達がいれば羨ましく思ったりした。
中学生になっても、高校生になっても、私はお笑い番組を変わらず好きだった。変わったのは、お笑いの見方である。だれかがボケた時、そのボケに対してだれかが突っ込む。これはお笑いの基本かもしれないが、そこに信頼関係がなければお笑いが成り立たないことに気づいたのだった。「ボケる」という行為は「必ず誰かが突っ込んでくれる」というその場の仲間を信じて行う行為なのだ。「ツッコミ」もボケた相手を信じて突っ込まなければ、笑いとして成立しない。こんなことを書いてしまうと、おもしろくもなんともないのだけれど、そこに信頼がなければお笑いは成り立たないことを、お笑い番組を観ていくなかで少しずつ理解したのだった。
また、お笑いの一つに「イジり」というジャンルがある。例えば、体の特徴的な部分をしつこく言う。それを言われる側が嫌がったり、否定したりすることで生まれる笑いが「イジり」だ。イジられる方としては、それによって笑いが生まれるのだから、お笑いとしては「オイシイ」ことになる。つまり、関わるみんながちゃんとハッピーになれるものがお笑いだと私は思うのだ。しかし、これを学校で学生が真似したりすると、「イジり」ではなく「いじめ」に発展することがよくある。これは私も含めた素人には、「お笑いにする」というさじ加減がちゃんとわかっていないからだと考える。安易に真似をするだけでは、ただ人の嫌がることを言うところで終わってしまうのだ。お笑い芸人を始めとするプロは違う。さじ加減を心得ているからこそ、「イジり」をお笑いに昇華させる力があるのだ。なにより、「イジる」ことでその人の魅力を引き出すことに成功しているから不思議だ。嫌がっていることや否定している姿がおもしろく、それがその人の魅力に感じられる。それは「イジる」側の優しさとも言えるのではないか。すべてのお笑い芸人やタレントがフリートークでおもしろい話ができるわけではない。人に活かされてこそ活きる芸人やタレントもいるのだ。そして、そういう人たちの魅力を引き出すのは、優しさに溢れた「イジり」なのだと、お笑い番組を観ていて感じたのだった。
私は好きで観ていたお笑い番組から、いつの間にか大事なことを学んでいたように思う。それはどんな学校の勉強よりもはるかに実践的な学びだった。そして、友達をつくる上でいつも自分を助けてくれた。どんなふうに接したら相手が喜んでくれるか。どんな言葉を使えば相手が笑ってくれるか。お笑い番組の中で見せてもらった信頼関係や優しさが学びとなり、いつも私と他人を円滑に繋いでくれたのだった。お笑い番組は友達作りの教材だ。私は、お笑い番組によって自分の人生も明るく楽しいものにしてもらったのである。
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