年収2000万円の夢をみた~内定先企業から逃亡したあの夏の日~
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記事:大野了(ライティング・ゼミ平日コース)
私はタイムリープ映画が大好きだ。
タイムリープ映画の史上最高傑作はバック・トゥ・ザ・フューチャー3部作だと思う。
でも、一番切ないタイムリープ映画といえば、
邦画では「時をかける少女」アニメ版。
洋画では「バタフライ・エフェクト」だと思う。
特に後者は、主人公の選択と運命の行方が非常にドラマティックだ。
なぜ、私はタイムリープ映画が好きなのか。
それは「あの時、もし○○をしていたら……」と想像が膨らむから。
誰しも、過去の選択の後悔はあると思う。
でも、実際には人生の選択を過去に戻ってやり直すことはできない。
また、その選択がその後の人生を決める大きな分岐点だったとしても、その時には気づかないことが多い。
そんなことをタイムリープ映画を観ると想起させてくれる。
私にも、そんな人生の選択の瞬間がある。
私の人生最良の選択は、大学4年の時にとある企業に内定をもらい、内定旅行まで連れて行ってもらった挙句、土壇場で逃げ出したことだ。
内定旅行の場所は沖縄。
私はメディア系を中心に受けていたが、唯一メディア系以外で卒論のテーマに近かったという理由で面接を受けていた、当時伸び盛りだった企業の内定を受けた。
その企業の名はキーエンス。
キーエンスという企業はいまや日本で一番給与が高い企業とも言われ、昨年は上場企業で全国2位。平均年収2000万円超えという前代未聞の高収益・高収入企業だ。
マスコミ志望だった私は散々悩んだいたが、父親からの「マスコミなんて浮ついたところよりいい」という呪縛めいた助言もあり、この会社に行くと決断して、内定者研修旅行の沖縄に向かった。
そこは那覇から遠く離れたビーチサイドのホテルだった。
そして、沖縄宿泊の初日にウェルカムパーティが行われた。
内定者にはやはり営業職だからかノリノリの体育会系が多く、しかもプールに飛び込んだり、遊びに来ている女子をナンパしたり、皆はそれぞれに内定の喜びを爆発させていた。
一方、私の心は反してどんどん冷え込んでいった。
その内、その風景を見ていたら段々とスローモーションに見えてきた。
「本当にここで良いのだろうか……」
という声が耳について離れなくなった。
一人でひっそりとそのパーティ会場を抜け出し、夜中、部屋で一睡もできないまま翌朝を迎えた。
研修リーダーを任されていた私は、朝からグループをまとめてプレゼンする必要があったのだがもちろん全く集中できない。
休憩中に研修室から抜け出して、ホテルのフロントで帰りの航空チケットを予約してタクシーも手配した。
そして、人事担当の方に「申し訳ないのだけど、帰らせてほしい。まだ受けたい企業があるので……」と恐る恐る伝えると、
「今更何を言ってるんだ! 君がここで帰ることで他のメンバーにもどれだけ悪影響があると思ってるんだ!」
と当然?責の上、再考を迫られたが、謝罪一辺倒のまま、私は逃げ去るようにタクシーに乗り込んだ。
すると明らかに帰りの便含めてお金が足りない。
そのホテルからは那覇空港まで2時間以上もかかり、普通なら2万円近くかかる。
ところが運転手さんは、私が事情とよもやま話を語った後、厚意で半額にしてくれた。
今でも那覇空港に着いた時にその運転手さんに言われた一言、
「人生一回だから自分の悔いないようにやりな」
という言葉が忘れられない。
彼の優し気な表情と窓外のヤシの木の光景が心に焼きついている。
空港で飛行機に乗り込んで東京に着いた時にはもう手元に数百円しか残っていなかった。
その後、当時唯一残っていた面接も落ちてしまい、気がつくと7月、梅雨はとうに明けていた。
俺の就活も完全に終わったな……と諦めていた数日後、大学の図書館でたまたま見つけた求人で受けた企業に決まり、そのお祝いの席で友人に紹介されたのが今の私の妻だった。
つまり、あの日、あの瞬間の直感に任せ、内定旅行から逃げ出さなければ、私は、将来の妻と出会うこともなく、愛するふたりの息子もこの世に存在することは無かった。
そう思うと心底ぞっとする。
周囲に大変迷惑をかけて、今でも信頼頂いた人事の方と企業に申し訳なく思う。
ただ、あの時、自分の直感に身を任せて本当に良かったと思う。
これが私の人生最良の選択の瞬間だ。
人生を変えてしまう選択は誰の人生の瞬間にもあると思う。
タイムリープ映画を観る度に、私はあの日の「選択」の重みをまざまざと思い出す。
そしてあの日から20年以上が経った。
「そっか、キーエンスは今年も名だたる企業を抑えて平均年収TOPなのか……」
そんなことをぼーっと考えながら、スーパーで「おかめ納豆 極小粒ミニ3パック」を買い物かごに入れようとしたら、妻にピシャリと手を叩かれた。
「ここ高い! あっちのスーパーで78円だから!」
「えっと、こっちは98円……あんまり変わらなく……」
「ない!!」
「はい……」
私たちは言葉少なに400m先のスーパーに向かった。。
私は信じている。
あの夏の選択は決して間違っていないことを……。
その瞬間、何だか心から笑いがこみ上げてきた。
妻がきょとんと私の方を見ていた。
私は今とても幸せだ。
そして、あの時の選択がまさに人生最良の選択であったとしみじみ思う。
だから何だかよくわからないけど、嬉しくなって、笑いがこみ上げてしまった。
あの日、あの時、自分の心の奥底の直感に従って、本当に良かった。
今でもあの日の帰り、スーツ姿でタクシーの窓から観た沖縄の景色を私はたびたび思い出す。
***
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