メディアグランプリ

1年の時を経て起こった奇跡


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:前田玲菜(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ここに1足の靴下がある。
この靴下を買ったのは1年前の正月だった。
 
正月といえば福袋。福袋は、必ずモノが手に入る宝くじのようなものだ。
在庫処分品が入っているとわかっていても、開ける瞬間のワクワク感は癖になる。当たる確率はものすごく低いとわかっていても、「今度こそ」、「自分だけは」奇跡が起こるのではないかという夢が見られる。宝くじは外れたら何も残らないが、福袋は外れてもモノが残る(まあ、不用品なのだが)。
 
不用品が手元に残るのが嫌で、自分で福袋を購入する勇気が持てなかった私は、毎年この時期にネットでアップされる中身ネタバレ速報を楽しみに見ていた。しかし何年もネタバレを見続けているうちに、とうとう自分でも何かを買ってみたくなり、勇み足で街へと繰り出したのだった。
 
正月早々、私はギャンブラーになった。
セール品を素通りし、一目散に、ある靴下専門店へと向かう。下調べは済んでいた。
6足1500円。
1足1000円以上するレッグウェア6足セットの袋がワゴンに山積みにされていた。
そのビニール袋の表側は新年らしいイラストで覆われており、裏側は透明で中身が見えるようになっていた。しかし小さな袋に6足が重なって入っているため、細かい柄などはよくわからない。わからないながらも、私は綺麗な赤色が目に飛び込んできた一袋をつかんだ。
6足1500円。
1足250円。超お買い得ではないか。
靴下は必ず使う。多少変な柄でも面積が小さいから気にならないはず。「自分だけは」良い柄の靴下ばかりが入っているのではないか。
そうやって普段なら宝くじ1枚ですら購入をためらう倹約家の自分を無理やり納得させ、それでも10分ほど悩んだ末に購入した。
 
足早に家に帰り、すぐに袋を開ける。気分は、分厚い年末ジャンボの束を握りしめ、必死に抽選会のダーツの行方を見守る宝くじ中毒者のそれと同じであった。
黒のウール製のハイソックス。使う!
赤のウール製のくるぶしソックス。使う!
白地に赤の刺繍のような柄の入ったくるぶしソックス。使う!
小休止。3足目までは順調。よしよし!
 
真っ赤なウール製レッグウォーマー。
カーキのウール製レッグウォーマー。
あれ? 靴下じゃなくレッグウォーマーか。使うかな?
雲行きがどんどん怪しくなってくる。
そしてとどめに、ブラウンだかグレーだかよくわからない地色に青い模様の入った靴下が入っていた。
これが俗に、福袋に必ず入っていると言われる「絶対に使えないもの1~2点」だろうか。妙にババ臭い。おばあちゃんが使っていそうな柄だ。
「これは……使えない!」
 
黒と赤のソックスはその冬ヘビーユーズし、もう1足は次の冬用に取っておいた。
おばあちゃんソックスとレッグウォーマーは、新品をそのまま捨てるのが心苦しく、しかしどう扱ったら良いのかわからなかったので、その存在をなかったものにするためにすぐさまタンスの奥に突っ込んだ。
 
奇跡は起こらなかった。
 
そして今年。
愛用していた靴下に立て続けに穴があき、突然履く靴下がなくなってしまった。
「何か持ってなかったっけ?」
普段、少数精鋭をヘビーユーズするのを美徳としているだけにストックを用意する習慣はない。
それでも何かあるような気がしてタンスの中を探っていると、1年前に突っ込んだまま忘れていた4足の靴下とレッグウォーマーが出てきた。
 
白地に赤の刺繍柄ソックスを見てテンションが上がった。
「そうか、これ、取っておいたんだった!」
そして一緒に出てきたおばあちゃん柄ソックスを見て再び思った。
「これ、どうしよう……」
 
とにもかくにも履ける靴下が手元に2足しかないソックスショック状態なので、おばあちゃんソックスもダメもとで履いてみることにした。
「この色味が嫌いなんだよな。ださいよね。このウールの微妙な厚さもダサさに拍車をかけているよね」
ぶつぶつと独り言をつぶやきながら、決定的な履けない理由を探すためにおばあちゃんソックスをまじまじと見つめた。
「あれ? この柄ってもしかして……ペンギン!?」
 
よくわからない柄がペンギンだとわかった瞬間、おばあちゃんソックスはみるみるうちに若返っていった。
いけるかもしれない。
若返ったペンギンソックスに足を入れる。鏡を見る。
そこに映っていたのは、何の変哲もない無難なグレーの靴下だった。これなら私の持っているどの服にも難なく合わせられる。
そして足を入れてみて、初めて気づいた。あったかい!
それまで綿の靴下の冷たさに慣れていた私の足を、そのウールの靴下は温かく包んでくれた。
歩く。柔らかい!
歩くたびに、足の裏に感じる衝撃を、その分厚い靴下は和らげてくれるのだった。
 
それ以来、ペンギンソックスは私の今冬一番のお気に入りとなった。
奇跡は1年の時を経て、起こったのだ!
 
私は今日もまた、洗濯したばかりのペンギンソックスを次に履く日を心待ちにしている。
これだから福袋はやめられない。
レッグウォーマー? それは来年の奇跡用にとってある。
 
 
 
 
***

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2021-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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