メディアグランプリ

白鳥が舞い降りる田んぼ


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記事:西野順子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「西野さん、ちょっと聞きたいんですけど、枝豆と大豆が同じって知ってますよね?」
「へっ? 枝豆と大豆って同じものなの? 全然別の豆だと思ってた」
「あれはおんなじ豆ですよ。大豆が若いうちに取ったのが枝豆なんですよ」
「えー! そうなの!  知らなかったー」
「いやー、こないだ東京で友達と飲んだ時に枝豆が出てきて、その話をしたら、結構みんな知らなかったので、びっくりしたんです」
「いや、普通は知らないでしょう……」
 
私の友人の寺澤さんは、新潟で農業をしている。私にとって、食べ物は鬼門のようなもので、命の源だから大事にしなくちゃ、と思いながらもないがしろにしてきた。彼と話していると、自分がいかに野菜や米などについて知らないか気付かされ、愕然とする。
 
新潟で生まれ育った寺澤さんは、しばらく東京でエンジニアとして働いた後、新潟に帰った。帰ってきた時には、田んぼにはまったく虫も動物もいなかった。これではまずいと気が付いて、いろいろ試行錯誤した結果、数年後に田んぼに虫や動物が戻ってきた。今は冬には白鳥が舞い降りるほど田んぼの水はきれいになった。寺澤さんは自分の作ったお米に「白鳥米」という名前を付けて、農協を通さずに売ることにした。
 
営業のことを学ぶために、寺澤さんは東京へ連続講座を受けにいった。私も同じ営業の講座を受けに行ったので、その時に寺澤さんに会ったのだ。私にはそれまで農業をやっている友人はいなかったので、寺澤さんに農業についていろいろなことを聞いた。聞く話、聞く話が知らないことばかりで、「へえー!」という驚きの連続だった。
 
その年から私は毎年寺澤さんの作った「白鳥米」を買った。3年前にはじめて送ってもらった白鳥米は、ふくよかで一つ一つの米粒が立っていて美味しいお米だったが、問題がひとつだけあった。炊き上がった時に、なんともいえない臭いがするのだ。それがとても気になって、お米の味が損なわれていた。そのことを言おうかどうしようかと迷った末、「すごい美味しかったんだけど、炊きあがったときに臭いがして、それが気になった」と正直に伝えた。
 
気を悪くするかなあと思ったが、彼は「 言ってくれると助かります。ありがとうございます」と言ってくれた。実は他の何人かからも臭いが気になると言われて、原因がわからないのだという。あの臭いさえなかったら、ホント美味しいので、なんとか解決してほしいと思った。
 
次の年の年末にもお米を注文し、ちょっとどきどきしながら、炊き上がった炊飯器の蓋をあけた。全く臭いがしない。
 
「えーどうやって解決したの?」 と聞くと、「実はよくわからないんですよ。いろいろ試してみたんですが、どれが効いたのかはもう一つわからなくて。 お米って、収穫した時によっても味が違うし、天気にも左右されるし、 工業製品と違っていろんなものの影響を受けるから、原因がわかりにくいんです」 確かに工場だと人の手でいろいろと管理ができるが、自然が相手の農業ではそうはいかない。農業って大変なんだなあ。
 
そして去年の年末に届いたお米はびっくりするぐらいに美味しかった。 炊き上がった時からおいしいそうな匂いがし、お米の一粒一粒が立ち、つやつやひかっている。一口食べた母が、「うわっ、このお米すっごい美味しいねえ」と驚いて叫んだくらいだ。
 
こうやって、寺澤さんの白鳥米は年々おいしくなっていった。お米と競うように、寺澤さん自身もこの3年間で随分変わった。私がはじめて会ったころの寺澤さんは、なんとなくガチガチというか、普通に話をしていても、肩に力が入っている感じだった。
 
今は、すっかり肩の力が抜けて、表情も柔らかくなった。何よりも今の寺澤さんには行動力がある。とりあえず気になったら何でもやってみて、うまくいかなければ軌道修正する。お米ができたらお米の販売案内、お餅ができたらお餅の販売案内、イチゴができたらイチゴの販売案内をすぐに作って友人たちに送る。
 
寺澤さんによると、相手がどう反応するかは自分ではコントロールできないから、反応は気にせずにとりあえず投げてみる、反応があったら嬉しいし、なければそれまでのこと、という。私だったら反応がなければ落ち込みそうなので、このへん見習わなきゃ、と思うのだ。
 
そして、寺澤さんの最新作のイチゴ「越後姫」が先日届いた。
蓋を開けた途端に甘い匂いがパッと広がり、思わず口の中に唾がわく。うわー、いい匂い。
大きい薄ピンク色のイチゴが12個並んでいる。食べてみると、少し柔らかめの口触り。口の中に甘さと程よい酸味がパッとひろがる。これもとびきり美味しい。
 
寺澤さんのキャッチフレーズは、「笑顔の花を咲かせたい」 つまり、自分がおいしいと思うお米や野菜や果物を作ってみんなに食べてもらって、 おいしいねって笑顔になってほしい、と寺澤さんは言う。
 
都会に住んでいる人に、もっと農業や自然に興味を持ってほしい。どういう風に稲が育って、田んぼにはどんな虫や生き物がいるのか、いろんなことに興味を持って欲しい。食べ物の本当の味を知ってほしい。だから、田植え体験や、 稲刈り体験、イチゴ狩りなどを企画したいのだ、と去年は言っていたが、あいにくコロナの影響でできなかった。今年はどうなるかはわからないが、是非一度白鳥が舞い降りる田んぼへ言って、金色に輝く稲穂を見たいと思う。
 
 
 
 
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2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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