図書館でタイムカプセルを埋めてきました
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大附 祐貴(ライティング・ゼミ日曜コース)
「当館は一風変わった図書館です、どうぞお越しください」
宮沢賢治の小説に出てきそうなインターネットのサイトを見て、私は興味津々になった。
大分県大分市。東九州の最大都市に、その一風変わった図書館はあった。
たまたま関西から夏休みの旅行で大分を訪れた私は、好奇心を抑えることができず足を運ぶことにした。
「どんな図書館なんだろう……」
なにしろ初めて行くところなので、さすがに緊張していた。
図書館は、県庁に近い雑居ビルの一室にあった。
「いらっしゃいませ~」
ドアを開けると、公共の図書館とは少し違う明るい雰囲気で迎えてくれた。
雨が降っていたせいか、館内は閑散としていた。
館内には常連のような若い女性がいて、サイトで見たオーナーの男性と楽しそうにお話ししている。
別の職員さんが、椅子に座ったばかりの私に声をかけてくれた。
「当館の蔵書には書き込みが出来るんです。こんな感じで……」
と、本棚にあった本を一冊取って中を見せてくれた。
何重にも線が書き込まれている。
もう一冊見せてくれる。
本の最後のページに、びっしりと感想が書き加えられている。
私はその意外な光景に「えっ!」と驚いてしまった。
ふつうの図書館では、公共の資料である蔵書にメモを書いたり落書きをしたり……なんてもってのほか。
ただ、ここではそれが可能だ。蔵書に線を入れても感想を書いてもよい。絵を描いてもよい。
むしろ、何も書かれていない本には価値がないという。
書き込みがたくさんあるほど歓迎される不思議な空間だ。
さっそく、この変わった空間を構成する一員になりたいと思い、所狭しと並べられた本棚から一冊新書を手に取り読んでみることにした。
既にこの本にもメモ書きが何か所かに施されていた。読みながらワクワクしてきた。
「前に読んだ人はこんなところに興味を持っていたんだなぁ……」
本を読んでいるだけなのに、今までにない感情が湧き出てきた。
遠くからオーナーと若い女性の会話が聞こえてくる。
「うちでは、本に感想を書いてもらうことで、その人よりも前に読んだ人の思いに触れてもらえるんですよ~」
オーナーは、図書館を開いた経緯やその魅力について女性に話している。
女性は何やらメモを取りながら話を聞いている。
唯一の来館者である私は、その話に少し耳を傾けてみた。
「それにしても面白い図書館ですね~」と女性は椅子から立ち上がった。
腕には大手新聞社の腕章が見える。
……どうやら彼女は新聞記者で、取材中だったようだ。
「すいません」
次の本を取りに行こうと立ち上がったとき、私は彼女に声をかけられた。
「はっ、はい……」
なかなかない機会に、私はどう答えていいか分からなかった。
「ここに来たのは初めてですか?」
取材対象は店主から来館中の私に切り替わったようだ。
「ええ、関西から旅行で来てまして……」
館内がざわついたような感じがした。さすがに彼女もそこまで予想していなかっただろう。
「えっ、ちょっと話聞かせてくださいよ~」
「そうですねぇ、関西には書き込める図書館っていうところを見たことがないんで、とても面白いですね~」
とっさに出てきた一言だった。
「ありがとうございました~」
彼女は取材終わりにこうあいさつしたこと以外、どんな会話をしたか緊張で覚えていない。
その次は、読書術の本だった。
今まで、単に本を読んでは終わり。本を読んでは終わり……と本をまるで消費するかのように読んでいたので、今までの本の読み方は少し乱雑だったかな、と最後のページに書いた。
2冊目を本棚に返し終え、雨がしとしと降る外の風景を見ながら、こんなことを考えた。
小学生のころ、当時在籍していた小学校の創立50周年だったかで
タイムカプセルが掘り起こされたことを覚えている。
そのカプセルの中には、当時の学校が描かれた絵や、
「カプセルを開けた人たちへ」と書かれた手紙が入っていた。
その手紙には、読み手が誰になるかわからないけれども、自分のこととか、
こんな学校になっていたらいいなとか、熱い思いがびっしりと書かれていた。
それは、いつもの退屈な校長先生の話とはちょっと違った、未来あふれる夢物語で
読んでいる私も、同時にワクワクしたものだった。
この図書館では、まさにそれが行われている。
次にこの本を手に取るのは誰かは分からないけれど、この本からこんなことを学びました。こんな感想を抱きました。こう生きていこうと思います。なんてことを誰かに伝えたい。
まるで、今からタイムカプセルを埋める人たちのように。
そしてその思いを受け取った人は、本の著者の思いだけでなく、その感想も含めた本を楽しめることができる。
「なんでこんな本との楽しみ方を知らなかったんだろう?」
新しい読書法を提案された私は、満足感いっぱいでその日の宿に入った。
関西に帰ってからまもなく、その新聞社から記事が掲載された日の新聞が送られてきた。
あのオーナーと職員さんが楽しそうに写っている。
記事の下のほうには、来館者として私の名前が入っていた。
隣には「ぜひ多く書き込んで帰りたいです!」とあの日話した内容が掲載されている。
「こんど訪れるときは、どんな感想に出会えるだろう。
新聞を読んできました。とか書かれていたらうれしいなぁ……」
なんだか、図書館の書き込みだけではなく
新聞記事というタイムカプセルも埋めたような気がした。
次の旅行先は、大分に決定している。
***
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