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ハワイの真ん中でGOT LOST


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小北采佳(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「Where are you(どこにいるの)?」
 
電話の向こうでホストファミリーが私に聞いていた。
 
しばらくの沈黙ののち、私は答えた。
 
「……I have no idea(分からないです)!」
 
私はひとり、ハワイの街の真ん中で途方に暮れていた。
 
道に迷ったのだ。
 
しかも、自分が今どこにいるかも、どうすればホームステイ先の家に帰れるのかも分からなかった。
 
迷子になる日の前日、私はハワイの中心部であるオアフ島ホノルルに降り立った。英語と自分の専門分野を勉強するため、一念発起して約9か月間こちらに滞在することにしたのだ。
 
今、自分が憧れのハワイにいる! そう考えるだけで、ワクワクが止まらなかった。
 
空港に迎えに来てくれたホームステイ先のファミリー宅に連れて行ってもらいながら、私は考えた。そうだ、明日はハワイ大学を見に行ってみよう。
 
こちらへの滞在中はハワイ大学での授業を受けることになっていたが、授業が始まるのは10日ほど先で、時間がたくさんあったためだ。
 
ホームステイ先の家族は、最も観光客が集まるワイキキからわりと離れた山奥の住宅街に住んでいた。観光客はほとんど足を踏み入れないような静かな所であった。
 
翌日、予定通り大学に行ってみることにした。
 
その時の私は、ハワイの強い日差しを浴びながら南国の心地よい風にあたっているだけでテンションが上がり、「今の私ならなんでもできる!!」という錯覚に陥っていた。
 
大学まではバスで行けるらしい。根拠のない自信にあふれていた私は「まあ、適当に行けばたぶん着くでしょ!」と、とりあえず家の近くのバス停に停車していたローカルなバスに乗り込んでしまったのだった。
 
普段はどちらかというと心配性でネガティブな私を、こんなにフットワークの軽い前向きな人間にしてしまうハワイのパワーは、本当におそろしい。
 
出発から、かれこれ数十分後。
 
私は大学どころか、全く見当違いの場所に到着していた。
 
行き当たりばったりにバスに乗ったあげく、変なところで降りてしまったらしい。
 
周囲を見回すと、そこは青い海とヤシの木、ハイビスカスがあり、サーフボードを持ったリッチな観光客が行き交う観光地……というわけではなかった。
 
道の至るところにホームレスがいた。周囲のお店もアダルトショップや風俗系の看板を出している飲み屋など、いかがわしい雰囲気が漂うものばかり。壁には落書きがされ、茶色く汚れた道路にはゴミが散乱している。少なくとも私たちが写真でよく見るハワイでは、ない。
 
そこへ、上半身裸のおじさんが英語で何かをわめきながら道を横切っていった。独り言なのか? それとも誰かに向かって何かを言っているのか? 分からないがとにかく絡まれるのが怖すぎて目を合わせないようにしていた。
 
後日聞いた話だが、私が迷い込んだ場所はハワイの中でも治安が悪く、地元の人でもあまり長居しない地域であったのだった。
 
家からここまでだいぶ長距離を走ってきた気がするが、ここは一体どこだろう? そしてどうやったら帰れるのだろう?
 
私は自分がバスを降りたところのバス停を見た。
 
さすがに、バス停にはここがどこの停留所で、どの方面に行くバスがいつ来るかが書いてあるだろうと思った。
 
しかし。
 
日本のバス停では時刻表や行先がバス停に付いているが、ここハワイでは、バス停にはなんと「The Bus」と書いてあるだけなのだ。
 
なんじゃこりゃーー情報が少なすぎじゃないか! 土地勘のある地元の人しか利用しないからだろうか?
 
とりあえず現在地を調べよう。そしてハワイで唯一の知り合いであるホストファミリーに連絡してアドバイスをもらおう。
 
そう思い、ハワイ用に契約しておいた海外用の慣れないスマホで自分の位置情報を取得しようとしたのだが、タイミング悪くスマホの充電が切れてしまった。
 
私は公衆電話を探してみることにしたが、なかなか見当たらない。街をさまよっている間にだんだん日が傾いてきてしまい、私は焦った。こんな治安の悪そうな所で夜を迎えてしまったら危険だ。
 
まずい。この状況は、どう考えてもまずいぞ。気温は高いのに、どんどん冷や汗が出てくるのを感じた。
 
もしこのまま帰れなかったらどうなるんだろう、と不安になってきた。アメリカ市民は銃を所有できるから、もしかしたら私はここで誰かに恐喝され、強奪され、最終的には撃ち殺されてしまうのではないかという考えまで浮かんできた。
 
成田空港に見送りに来てくれた両親の顔がちらつく。ああ、お父さんお母さんごめんなさい。
 
もうだいぶ暗くなってしまい、心細さで涙目になってきた時、ついに!
 
ついに私は公衆電話を発見した。
 
どうか誰か出てくれと願いながらダイヤルを押す。ホストファミリーの電話番号を手帳に控えておいて本当に良かった。
 
しばらく呼び出し音が鳴ってホストファザーが電話に出てくれたときは、本当にほっとして泣きそうになった。
 
道に迷って帰れない、しかも自分がどこにいるか分からないというと、道路の表札にストリートの名前が書いてあるから見ておいでと言われた。なるほど……それは思いつかなかった。
 
結局この日私はファザーが迎えにきてくれて、無事に帰ることができた。
 
ハワイ滞在2日目にして起きたこの迷子事件は、私に深い反省と教訓を与えた。
 
行き当たりばったりで目の前のバスに乗り込んだ私は、まるで丸腰でアマゾンの奥地に飛び込んでいってしまったのと同じくらい軽率だった。そこに何があるか、どんな人がいるのかもよく知らない場所に、何の下調べも準備もせずに入っていってしまったのだ。何もなかったのは運が良かったからで、もしかしたら危険な目に遭っていたかもしれない。
 
それはやはり、ハワイだから大丈夫、という慢心があったからだと思う。
 
「ハワイは日本人が多いし、いざとなったら日本語が通じるって聞くし、困っても大丈夫だよ」という話を何度か耳にしたことがあり、私もそれを鵜呑みにしてしまっていた。
 
確かに、ハワイはそういうイメージが強い。しかしそれは観光地の一部だけの話であって、実際に地元の人が暮らしているローカルなエリアではそうではないのだ。
 
海外では日本とは何もかも違うという、考えてみれば当たり前のことを、迷子になって改めて実感した。
 
日本だったらバス停には情報があるし、バス乗り場が集積しているような場所には、交通情報を教えてくれるインフォメーションセンターのようなものもあったりする。
 
私はそんなものが、ハワイでも当然あるだろうと思い込んでいたのだった。
 
みなさんも、ハワイに行ってバスに乗るときには迷わないよう気をつけてほしい。
 
バス停に書いてあるのは本当に「The Bus」だけだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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