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スマホの中の薬箱

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岡部真恵(チーム天狼院)
 
 
私のスマホには薬箱が入っている。
使いようによっては注射や点滴にまで化ける優れものだ。
 
毎日飲みたいサプリメントから、死んでしまいそうなときに打つ注射まで、どんな種類の薬でも備えておくことができる。
いろんな薬を備えておけるのに、なんとたったの数百円から作れてしまう。一命を取り留めるほど絶大な効果があるにも関わらず、超がつくほど手軽に作れるのがこの「薬箱」の素晴らしいところだ。
薬箱の大きさも自分でカスタマイズできるので、小分けにしたり、全部ひとまとめにしてみたり、好みで変えてしまって構わない。もちろん可愛く装飾したり、落書きしても大丈夫! とにかくしっくりくる薬箱を作ることが、効果を高めるコツである。
 
私は使いふるした薬箱に、とっておきの薬を10種類入れている。もう少しあっても良いかな? とも思うのだが、ありすぎても目移りしてしまうので、この数にした。よく効く薬だけを集めた少数精鋭部隊だ。
もう一つのオレンジ色をしたポップな箱には、サプリメントや漢方薬を見つけ次第たくさん詰め込んでいる。生活の質を上げることができる、比較的いつでも摂取して良いものが多い。
 
いい薬ばかりなのでぜひ紹介したいのだが、私によく効くからといって、誰にでも同じように効くわけじゃない。
より自分に効果的な薬を選び、タイミングよく使うことで最大限の効果を発揮する。
普通の薬箱だったら絆創膏、消毒液、頭痛薬、胃薬など、誰に聞いても薬箱の中身は似通っているだろう。しかしスマートフォンの中にある薬箱は、おそらく世界中のどこを探しても、まったく同じものを持っている人はいない。
 
なぜなら、薬がざっと3億種類あるからだ。
 
3億種類という膨大な量から自分に合った薬を見つけ出さなければならないとなると、途方に暮れてしまいそうになる。だけど、日頃「薬」に触れている人であれば5分もしないうちに作れてしまうだろう。それに、何度でも作り直すことができるから、身構えずに挑戦して欲しい。
 
とりあえず、例を挙げないとわかりにくいと思うので、まずは私の薬箱からいくつか紹介したいと思う。
 
私の薬箱の中で一番効き目があるのは、点滴だ。
エネルギー切れで、布団にくるまり泣くことしかできない時に、この点滴を使う。
暗闇で寝そべる私に、冷たい針先がはいってくる。自分と同じくらい冷たい針先なので、抵抗なく受け入れることができる。それなのに、薬を注入し始めると徐々に体温が上がり始めて、最後はなんともいえない幸福さが身体中を巡る、不思議な薬だ。
 
この薬の名前は、「ヴェルディ作曲 オペラ『椿姫』より 第一幕への前奏曲」だ。
椿姫のあらすじを簡単に説明すると、華々しい生活をしていた高級娼婦に恋人ができたにも関わらず、悲しいかな最後は病で死んでしまうというストーリーである。
 
前奏曲というのは、作品の要約だ。椿姫の前奏曲は、ストーリーを要約し、ひっくり返した構成になっている。
病で死にそうになっているところから、段々と楽しい生活までテンションがあげていき、キラキラした第一幕につなげるための曲なのだ。
 
絶望している時に、いきなりハイテンションでこられても「あ、うん……」となってしまうが、この曲は同じテンションでスタートして、違和感なく上昇していく。私が死にそうになってすすり泣いている時、一番寄り添ってくれるのも、楽しい世界に連れ帰ってくれるのも、この曲が一番上手だ。最愛の恋人がいようが、ヴェルディには勝てないだろう。
 
一番使用率が高いのはブースター化粧水だ。
うわー、今日お化粧したくないなー嫌だなーって思った日にこれを塗ると、魔法のようないい香りに包まれて、お化粧がしたくなるという優れものだ。
 
薬の名前は「女の子は誰でも」で、製造元は東京事変さん。
前奏の時点でめちゃくちゃいい香りがする。デパートのコスメコーナーに入った時のふんわり香る素敵な女性の香りだ。
歌詞も素晴らしく、歌詞に注目していると女に生まれたという事実だけで自己肯定感が爆上がりしてしまう。
そして、ワクワクしながら歩く時と似たテンポ感が「お出かけしたーい!」という気持ちを誘い、最後は表参道に飛び込んでしまいたい切ないような嬉しいような気分になる。外出前にはもってこいの曲だ。
 
つまり、お気に入りの曲を集めた「プレイリスト」は「薬箱」になるということである。
落ち込んでいる時、少なくとも私は、どうしても誰かに寄り添って欲しいわけではない。(もちろん、嬉しいときもある)
そういう時に人と関わると、思いがけず相手を傷つけてしまったり、傷ついたりすることがあるからだ。
 
そういうときに便利なのが音楽なのだ。
 
失恋して悲しい時、自分と似た境遇の失恋ソングを聴くと、実際に人と話したわけじゃないのに、共感を得たような気分になる。
誰ともコミュニケーションを取らないので、相手の何気ない一言で傷つくリスクも無く、何度も同じことを嘆いて相手を困らせることもない。
 
すごく大きな失敗をして周りに迷惑をかけ、誰に励まされても申し訳なくなってしまう。そんな時、応援ソングを素直に受け取ることができれば、前を向くきっかけになるだろう。
 
もちろん悲しい時以外にも使うことができる。
これは、コンサート中に目が霞まないようにブルーベリーのサプリメントを飲む、みたいな活用法に近い。
 
例えば、言いふらして回りたいけど人には言えないとても良いことがあった時。自分と同じくらい超ハッピーな曲を聴くと、一人で悶えるよりずっと楽しい気分になるし、なぜかスッキリする。
 
良い夢が見られるように、寝る前に気分をよくしておきたい時、ほっこりするような落ち着いた音楽を聴く。ホットミルクや、カモミールティーみたいな曲がいい。
 
人混みの中を進まなければならない時、堂々と歩いて行けるようにアニメのサウンドトラックをイヤホンで聴きながら歩いて、自分は最強の主人公なんだと脳に錯覚させる。
 
あげはじめたらキリがないため割愛するが、自分の発見次第で薬の数は増えるだろう。
そして、これらの曲を最大限活用するために、薬箱のようなプレイリストを作っておくのだ。
 
作り方は至って簡単だ。
自分の記憶を辿って、あの時にあの曲を聴いたら楽になったな、という曲や、あの曲のおかげで今があるな、という曲をひたすらプレイリストに詰めていくだけである。
もし心当たりがないのであれば、アンテナを張って数日間過ごして欲しい。そして、どんな時、どんな曲を聴きたいかよく考えると、見つかるはずだ。もちろん、好きな人の大切な曲を教えてもらったり、自分から見つけにいくのもいいと思う。
 
音楽は薬だ。肉体的な病は治せないけれど、使い方をあらかじめ決めておくことで、心の不調は大体治せるようになる。
だから、素敵な曲に出会ったら「プレイリスト」にしまって、心が怪我をした時に備えておいてほしい。
 
いつか必ず、役立つ時がくるはずだから。
 
 
 
 
***

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2021-02-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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