森の中でライティングのコツを学んできた
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大附 祐貴(ライティング・ゼミ日曜コース)
「いやぁ、こんなに楽しい日が過ごせるなんて思いませんでした、ありがとうございました」
ツアー参加者からは次々にそんな声があがった。私もそのうちの一人だった。
11月のある日、私は山登りの格好をしてとある駅前広場にいた。
というのも、「六甲山の森林を楽しみませんか?」というインターネットの募集記事を見て、参加を申し込んだからである。
鉄道や歴史が好きな私は、そういったガイドツアーに参加することはよくある。
ただ、「森を楽しむツアー」にはこれまで全く興味がなかった。
そんな私が、興味を惹かれたのは“六甲山”というポイントだった。
六甲山― それは港町・神戸のシンボルのようにそびえる山である。
山麓である阪神間在住の私も、見ない日がないくらいに親しんでいるつもりだった。
ただ、その山にはどんな風景があるのか全く知らなかった。だからちょっと見てみたかった。
でも、山や木々についての知識がそんなにあるほうでもなかった。
「こんな私でもついていけるのかなぁ……」
当日の朝、期待と不安が入り混じったなか、集合場所に向かった。
昨夜の大雨が嘘のような、すっきりとした秋晴れの朝だった。
案内役は、「森のガイド」として日本各地の森を案内しているというMさん。
参加受付をすると同時に、3枚にわたるお手製の資料を渡してくれた。
「今日はよろしくお願いしまーす」
参加者は老若男女問わずだいたい20人ほど。ほとんどがおひとりさまの参加のようだ。
Mさんによる行程説明が終わり、一行は山に向かって歩きだす。
「どんな話を聞かせてくれるんだろう……」
山について知りたい反面、ちゃんと話題についていけるか心配であった。
ガイドのMさんは、緑に囲まれた登山口で語りだす。
「今皆さんの周りには木々が育っていますね。でも六甲山って、明治時代に木が全部伐採されてはげ山になっちゃったんですよ。だから今植わっている木は古くても樹齢が100年ぐらいですねぇ」
「そうなんだ~」と言う参加者たちに混じって、私も「へぇ〜」と声を上げていた。
登山道沿いには、多種多様な木々が植わっている。それらの樹齢が古くても100歳以下と聞くと、なんだか親近感が湧いてくるような気がした。
登山口を後にし、いろんな緑を眺めながら、途中“風吹岩”という眺望のよい地点についた。
「いい眺めだなぁ〜」
眼下には大阪や神戸の街の風景が広がっている。
ただ、参加者の一人からはこんな声も漏れた。
「こんなところに高圧線の鉄塔が建ってるんですね。これがなかったらもっと景色が良かったのになぁ」
絶景が一望できるスポットには、高圧線の鉄塔が視界を遮るようにそびえ建っていた。
Mさんは、その落胆に同意しつつも、こう答えた。
「そもそも眺望が良い場所というのは植物が育たない岩場が多いんです。だから鉄塔を建てるときも地盤が固いこういう場所が好まれるんですよ。景色が見れないのは残念ですけどねぇ」
なるほど、と思った。ちょっと物知りになったような気がした。
風吹岩を離れ、ふたたび山の中をあるく。
険しい岩を上り、なだらかになったかと思えば突如現れる急な斜面、そしてイノシシの親子に遭遇……それは普段の生活では見られない光景の連続だった。
ふうふうと息を切らしながら休憩スポットに向かう。まわりを見渡してみると、さっきから登山ルートにマツが多く育っていることに気が付いた。
森初心者の私でも分かることだったが、なぜそうなるか分からなかったので、質問してみた。
Mさんは、私の疑問に快く回答してくれた。
「六甲山の土っていうのは、花崗岩質といってとても水はけが良いんですよ。ほら昨日あれだけの雨が降ったのにここまで水たまりがなかったでしょ? つまり、六甲山の土はどちらかというと枯れ土なんです」
うんうんと唸っている私に、Mさんは話し続ける。
「マツというのは、こういう水はけのよい枯れ地でも立派に育つんですよ。だから六甲山にはマツが本当に多いんです」
目からうろこというのは、こういうことを言うのかと思ったと同時に、
私のような森の初心者でも、そうだったんだ! と納得できた。
そういえば、ライティングのコツは「わかりやすい言葉で書くこと」にあると思う。
「天狼院ライティング・ゼミ」の講師、三浦さんも「平明な読みやすい文章を心がけてください」というようなことを講義の中で教えてくださった。
自分の専門分野になればなるほど、つい夢中になり難解な言葉や表現を使ってしまいがちになる。そうなってしまうと思いとは裏腹に相手に真意は伝わりにくい。
私にも思い当たる節があって、おそらく当時聞き手だった人はきっと腑に落ちなかったと思う。
それが、Mさんの説明には一切の専門用語がなかった。
まるで、すでにライティング・ゼミを受講し終わったあとのように、平明な単語によって六甲山の森を教えてくれる。淀みのない語り、分かりやすい表現…… 「ついていけるかなぁ?」といったそれまでの心配事は、頂上に着くころにはすっかり忘れてしまうくらい、その語りを思う存分に楽しんでいた。
最後にMさんは、こう話してくれた。
「森を知ってもらうというより、共感してほしくて、言葉を選んでいます」
六甲山の森の中で、Mさんからライティングの極意を教えてもらった。
***
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