懸垂ができなくてもボルダリングはできる
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記事:古田綾子(ライディング・ゼミ平日コース)
みなさんは、懸垂ができますか?
私は一度もできません。子供の頃は、手のひらが自分の方を向く逆手で握ればなんとか身体を持ち上げることができましたが、手の甲が自分の方を向く順手の懸垂は、今まで一度もできたことがありません。
そんな私でも、ボルダリングはできます。10級からスタートして1級まで徐々に難易度が上がっていくのですが、大人なら初めてやったその日に、ほとんどの人が6~8級に到達できます。
初日から「できた」という達成感が味わえるスポーツは、それほど多くないかもしれません。さらに、「ボルダリングは、何歳から始めても最初の半年は上達する一方」と言われます。
確かに、ボルダリングジムに初めて来たという、70歳前後と思わしき女性と話したことがあるのですが、二回目、三回目と会うたびに少しずつうまくなっていました。その方の運動能力が特にすごいのかもしれませんが、人生100年時代と言われる今、70歳から新しいスポーツを始めても、別に珍しいことではないかもしれません。
さて、本当に懸垂が一回もできなくても登れるのでしょうか?
「自分から見て奥側に寝ているような傾斜の緩い壁なら力がなくても登れそうだけど、前傾している壁なんて、しがみついていられない。130°とか絶対ムリ」
最初はそう思うかもしれません。
でも、そんなことはありません! 懸垂ができなくても傾斜のきつい壁は登れます!
というのも、ボルダリングのコツは、力をなるべく使わずに登ることだからです。
そもそも懸垂が辛いのは、腕を曲げる時ですよね。その点、ボルダリングの基本姿勢は、「腕を伸ばして登る」ことなので、少しの間ぶら下がることができれば十分です。
それでも、傾斜のきつい壁だとぶら下がるだけで腕がキツイということもあるかもしれません。そんな時は、重心を壁に近づけます。重心は大体おへそのあたりにあるので、膝を曲げておへそを壁に近づけます。すると、どうでしょう。必要な握力は体重の1割以下になります。それくらいの握力ならほとんどの方が持っているのではないでしょうか。
重心の位置が違うだけで腕にかかる負担はずいぶん変わります。上手い人の登りは、重心をうまく移動させていて、「あの人の周りだけ重力がないのかな」って思うくらい力を使わずに登っていきます。
さらに、もっと力をセーブするには、足にしっかりと体重をのせます。足の力は手の5倍なので、足で体重を支えれば、腕の負担はもっともっと軽くなります。
級が上がれば上がるほど、手でつかめる石(ホールド)は小さく、持ちにくくなり、足でしっかり踏ん張れないと、腕だけでは身体を支えられなくなります。足をどの位置に乗せるのか、ほんの数ミリずれるだけで、思ったところまで手が届かなかったり、体重が乗り切らずに落ちたりしてしまいます。ベストな位置に足を置くには、目で確認しつつ、足裏の感覚でも微調整していきます。
こんなわけで、懸垂が一回もできない私でも中級の4~5級の壁を登ることができます。
運動不足を楽しんで解消しようと思って始めたボルダリングですが、日常生活で何気に役立つおまけの効果もありました。
最初に気づいたのは、「あれっ、こんなに軽かったかな?」
年末に10キロ入りのミカン箱を持ち上げたとき、いつもとは違って箱が軽々と持ち上がりました。一度に2箱運んでも、全然重くありませんでした。
知らず知らずのうちに、重心がいいポジションに収まっていたようです。これについては、ボルダリング仲間も同じような体験があったそうです。
もう一つは、完全に主観ですが、ケガが少なくなったと思います。
「そういえば、最近、手や足や肩をどこかにぶつけることが少なくなったかもしれない」
学生の頃は、いつも太ももを机の角にぶつけて青あざができていたし、大人になってからは、開いたドアを通るときによく肩が当たっていました。そんな、自分のサイズがわかっていないできごとは最近、ほとんどなくなり、身体の隅々まで意識が行き届いている感覚があります。
最近は、「フットウォーマーに入っている足の裏にフカフカのマットが当たって気持ちいいな」とか、「エアコンの効いた部屋でも少しひんやりした空気がスネのあたりを流れているな」と思うことが多くなりました。
今まで意識してなかっただけで、意識すれば足からも意外にたくさんの情報が得られることに気づきました。目と手に集中していた意識を身体全体に広げると、前よりも思った通りに動ける感じがします。その感覚をつかんだおかげで、数センチの距離感のずれが補正され、手や足や肩をぶつけることがなくなったのかもしれません。
トップクライマーの楢崎智亜選手が、「ボルダリングは成長を感じ取りやすいスポーツ」だと言っていました。
記憶力を初めいろいろな能力が年齢と共に衰えていく中で、いくつになっても「成長を感じ取れる」喜びを感じられるのも魅力です。
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