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僕の知り合いは温泉


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記事:後藤 修 (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
僕の知り合いは温泉だ。
 
温泉のお湯につかれば心も体もリラックスできる。そして、ふわふわと体が軽くなって
 
体の疲れと痛みが取れて、しばらく経つと、心身がリフレッシュされ、自分のエネルギーが
 
蘇ってくる。
 
僕は彼に会うとこのような感覚を得られるのだ。
 
例えば、旅行に行く予定を立てるために、話をすると、彼は地元大阪弁を交えながら、
 
「ここいいな。ここいくなら、この店に寄ろうや。これがおいしいで」
 
とか地元の大阪を周遊している時に、食堂によると「ここはな、これを食べると最高やで」
 
と話をしてくれる。
 
声の調子やリズムがまさに、僕の心を解きほぐしてくれる。彼と一緒にいると、脱力して
 
なんだか眠くなってしまう。そして、一種お酒を飲んだようにほろ酔い気分で時間を過ごせるのだ。
 
また、彼は僕と同じ体が硬直してしまう症状をもっている。だから、非常に
 
僕が体調について話すと心から聴き、共感してくれる。
 
そういう優しさを持っているから、僕の心をさらに緩ませてくれるのだ。
 
さて、温泉には‘打たせ湯’がある。僕は打たせ湯に当たると、頭が爽快になりなにかに気づくことがあるのだが、彼はこの‘打たせ湯’のように僕に気づきを与えてくれる時があった。
 
以前、僕と彼は部屋が隣り合う同じフロアで働いている時があった。
 
その時、僕は長い間くすぶっていた。いろいろな経緯があり、その部署では単純作業しか与えられず、毎日毎日悶々と過ごしていたのだ。
 
そうした中でも、僕はそれを耐えながら働き、いつか上司をはじめとする周りのスタッフに認めてもらうことを願い過ごしていた。
 
しかし、ある日、上司から所属するスタッフがこれからどの仕事をどのくらいかけて覚えていくかを示した行程表を渡された。それを見て、僕は驚いた。他のスタッフは他の仕事を覚えていく予定になっていたのに、僕だけがこれからも新しい仕事を覚えず、今の作業を継続していく
 
方針になっていた。
 
僕は今を忍びながら頑張っていたが、全然信頼されておらず当てにもされていない事実をつつけられてショックで何も言えなかった。そして、涙が出そうになった。
 
このまま、このやり場のない気持ちを持って家に帰ると、自分が壊れそうだと思った時に
 
彼を思い出した。
 
すぐに隣の部屋に行き、彼の前で「今日、ちょっと話せませんか?お願いします!」と言った。
 
彼は軽く「ええよ」と軽く言ってくれた。
 
仕事が終わった後に、喫茶店に行き、僕がなぜ話を聞いてほしいと頼んだか理由と事の経緯を話した。僕が一通り話を終えると、彼は言った。
 
「そりゃ辛かったな。けどな、その表はあくまで予定やろ?予定なんて将来変わること多いで。
 
うちの部署でも予定いうて、予定通り進むこと少ないからなあ」
 
(確かに、予定だよな!うんうん)僕は大きく頷いた。
 
そして、彼はもう一言。「あと、あんたがやりたくないことって、みんな嫌なことやと思うよ。
 
だから、嫌でもやり続けることで結構みんながあんたを好意的に見てくれることにつながるし、あんたの人間性が磨かれていいんとちゃう?不遇なことや不都合なことがあるときは、どうやって、このゲームと思って、これをどうクリアするか楽しむかをを考えたほうががええよ!」
 
(いやあ、本当だ!まさにその通り!)僕は心に新たな世界を開いてもらったようだった。この時は、いつも彼から感じる温和なエネルギーだけでなく、これからの行動エネルギーをもらったような感じがした。その結果、自分の心に生きる気持ちが戻ってくることを実感しながら家へ帰ることができた。
 
そのような気持ちに変化して、毎日の仕事を全うし続けた半年後に僕に辞令がでた!
 
その部署を離れることになったのだ!!
 
異動したことを上司から伝えられた後すぐに、いの一番に彼のところに行き、そのことを話した。
 
彼は「そうか!よかったなあ!新天地で頑張らないかんね!」
 
いつもの関西弁でにこやかに話を話してくれた。僕も「はい!頑張りますわ!」
 
彼をまねるようにたどたどしい関西弁で返した。
 
今日まで、彼との付き合いは続いている。今は、コロナの影響でお互いの健康を配慮して
 
1年間近く会えていない状態だ。しかし、今年の元旦にこんなメールが届いた。
 
「元気にしてますか?もう1年近く会ってないね。早よ、コロナが終わってご飯食べに行ったり、
 
旅行も行きたいね。今年も宜しくお願いします」
 
本当にその通りだ。今年に、彼に会って、温泉の湯につかるように、ほんわかと心が
 
和む時間をまた過ごしたい。その日が待ち遠しい。
 
 
 
 
***

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≪終わり≫


2021-02-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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