井の中の蛙、毎年大海に泳ぎに行く
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記事:長島啓太(ライティング・ゼミ平日コース)
私が20歳の頃は蛙だった。日本という恵まれた環境で平和に暮らしてきたが、海外にも興味があった。スポーツが好きなので、日本人選手が海外でプレーしている姿を見て、現地で試合を見てみたいと思っていた。テレビで旅行系の番組を見ては、海外旅行に憧れていた。そんな中、大学二年の春休みにチャンスを掴んだ。行先はドイツのベルリン。約1か月間の短期留学に申し込んだ。ドイツ語はもちろん、英語でさえさっぱりわからず、20人ほどの同じ大学の学生と一緒に行くとはいえ、知り合いはいない。それでも関係ない。私は日本とはまた違う海外での生活に胸をときめかせ、日本という井の中からドイツという大海へ飛び出した。
全くの別世界だった。人が街で暮らしている点では日本と一緒だが、私の目が捉えている世界はこれまでと全く違う。ソーセージの美味しさ、街にあるパン屋から漂う香ばしい匂い、夕食に主食が少ない食卓。日が経つにつれて、スーパーにあるSUSHIでさえ、懐かしさを感じさせるほどにドイツの空気は私の頭の中に新しい風を吹き込んできた。私は基本的に初対面の人と話すのが得意ではなく、どちらかというと人見知りだ。しかし、大海を泳いでいる間はそんな私の人格さえも変えてくれる。わからないことがあれば積極的に話しかける。そして、話しかける事が楽しい。その理由は明確で、現地の方が優しくしてくれるからだ。優しくしてもらえる理由は恐らく、パッと見た時に観光客であるとわかるからだろう。観光客であれば、ドイツ語はもちろん、英語でさえ話せないこともある。そんなアジア人観光客が慣れていないドイツ語を使い、会話の最後には丁寧なあいさつ言葉で返す。言葉は悪いが、優しく接してもらえる条件は整っているように感じた。
ただ、言葉がわからないのは当然ながら不便だ。自由時間に街を一人で歩くことがあったが、当然何度も道に迷った。日本にいる場合、解決策は簡単だ。街を歩く人に道を尋ねればいい。しかし、ふと日本での記憶がよみがえる。日本で道に迷った時、果たして歩く人に話しかけるだろうか。偏見も混じるが、日本で歩いている時に話しかけられるのは、ナンパか街頭アンケートが多い。そして、基本的に良い印象はない。だが、ここは日本ではなくドイツだった。大海の中では井の中の蛙でさえ、流れに身を任せてもがく。結果、私が道を尋ねたドイツ人は100パーセントその場で立ち止まり、私のドイツ語に似た言葉を理解しようとしながら、道を教えてくれた。逆の立場だったらどうだろうか。日本でふと歩いている時に外国人の方に話しかけられた場合、どのような対応をしていただろうか。恐らく当時の私であれば、まず頭の中に追い浮かぶのは「外国語がわからない……」という感情だろう。そして、英語に似た言葉で謝り、その場を立ち去ってしまったのではないだろうか。この時、自分自身を本当に反省した。自分が今、初めて異国の地に立ち、言葉が通じないことがこんなにも不便で、心細いと感じること。そして、不安になりながら話しかけた時に、耳を傾けてくれる人が多く、心底嬉しく感じる事。この短期留学が、自分の価値観や今後の生活を大きく変えた。大海を目の当たりにして驚き、必死にもがき、満足いく経験をしたつもりで帰国することを考えていたある日、私が帰る予定の井にひびが入った。2011年3月11日のことだった。
知らせを聞いたのは、ドイツ時間で午前中に始まる英語の授業に入る前だ。「日本ヤバイらしいよ」「震度7だって」「そうなんだ。すごいね……」すぐに事の重大さに気づけなかった。しかし、情報を集めれば集めるほど緊張感が増していく。そう、忘れることのできない東日本大震災だ。私の実家や当時一人暮らしをしていたアパートは首都圏だったこともあり、幸い大きな被害は受けていない。海外にいると日本の現地の様子がわからなかった。だからこそ、余計に不安になる。電話で家族と連絡が取れた際には全然問題ないと聞いていたが、情報がないだけに本当に大丈夫だろうかと、不安も積み重なっていく。街を歩いていてもたくさんの人に話しかけられた。完全には言葉を理解できないが、おおよその内容は「日本人? 地震大丈夫なのかい?」こんな感じだ。最初は軽蔑されているのかと思った。だが違った。むしろ逆だ。たくさんの人が心配してくれた。不謹慎かもしれないが、当時は日本が大変だった状況でありながらも、現地の方に話しかけられ、心配されるたびに嬉しくなる自分もいた。どれだけ自分は狭い視野で狭い世界を生きていたのだろう。改めて大海の広さを知った瞬間だった。
ドイツへの短期留学は私にとって初めての海外だったが、その後は毎年一回のペースで海外旅行に出かけた。大学在学中に限れば、三回大海に出てまわった。初めての海外が大学三年の春休みにもかかわらずだ。日本に帰ってからは「道を歩いていて困っている人がいたら助けよう」「周りの人には優しくしよう」と強く意識するようになった。そして、いつかは訪日外国人支援に携わりたいと考えている。当時の私のように、日本を訪れている外国人の方を助けたい。コロナ禍において、これまでと状況は一変してしまったが、また海外に足を運びたいとも考える。慣れない言葉を武器にして、現地の方に助けてもらいつつ、大海をもがきながら泳ぐ旅だ。当時から時は経っているが、その時もまた大海の大きさを感じる旅となるに違いない。
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