バックカントリーでの臨死体験
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:五勝出 修(ライティング・ゼミ日曜コース)
雪山で雪崩にあって死にそうな体験をしたとか、そんなスリリングな話でありません。
僕は3年前にスノーボード を始めたばかりですが、昨年バックカントリーに挑んでみました。
バックカントリーとはスキー場の管理エリアを出て、自己責任で遊ぶエリアの事です。
まずリフトはありません、それから美味しいコーヒーやカレーライスが出てくるレストランもありません。転けて怪我をしたら、ソリで運んでくれるパトロールの人もいません。
自己責任ですから。
つまり、それなりの装備が必要です。
まずビーコン、これは雪崩で埋れてしまった時に電波を発信して自分の位置を教える機械です。
これがないと、バックカントリーエリアに入ることができません。
次に登るための装備、リフトがないので歩いて登ります。なのでスノーシューとポール、スノーボードを背負うためのリュック。
それから、飲み物と簡単な食事(エナジードリンクやクッキーなどお好みで)、汗をかくので着替えも必要です。あとサングラスがないと雪目になって後が大変です。
まあこれでリュックの中は結構パンパンになってしまいます。なのでこれを背負って歩く体力と脚力も必要です。
そして最後に登山計画書、ゲートの前でビーコンチェックをしているパトロールの人に計画書を提出します。これから入山して、どんなルートを通って何時までに下山するという計画書です。
ここまで読んでいただいて予想はできると思いますが、素人一人では無理です。
登山経験のある人以外は、やめておいた方が賢明です。なので経験者の人と一緒に行くかガイドの人にお願いします。
僕は去年は友人4人と一緒にガイドの人にお願いしました。個人差はありますが、ちゃんとしたガイドの人だと一日お願いして5〜6万円です。一人だと高額ですが、仲間と割り勘すれば1万円くらいです。これをケチってしまうと、万が一遭難したりして救助隊が出ると数十万円がかかります。帰って来れれば良いですが、雪崩や滑落で命を落としてしまう場合もあります。
毎年1月から2月にニュースでそんな悲しいニュースが聞こえてきます。ガイドの人はその山をよく知っていて、その日の天候や雪の状態で最適のコースを選んで案内してくれるので最初はガイドの人を頼むのが賢明です。
さて、では昨年の初バックカントリーの話をしましょう。
季節は4月、ゴールデンウィークの最初の方でゲレンデは白馬の八方尾根。
仲間は皆経験者で、僕だけ初のバックカントリー。
そもそもスノボを初めて2シーズンめだったので、ゲレンデではまあまあ滑れるようになってはいたものの、バックカントリーはハードルが高い。
しかしそこは春の雪、素人の僕でも大丈夫ということで、のこのことついて言ったわけです。
スキー場の下の方はすでに雪はなく、ゴンドラでスキー場の上部ゲレンデまで上がります。
そのゴンドラ乗り場で登山計画書を提出。するとパトロールの人が「気をつけてくださいね、昨日その先のルートで滑落者が出て一人死亡しています」と。
その先で死亡……聞くと春の雪は埋もれるような事はないのだが、気温が低い時はアイスバーンになっていてスピードを出しすぎると止まれなくてそのまま尾根から飛び出してしまうらしい。
この話ですっかりびびってしまった僕だが、そこには行かない大丈夫との事。
この時のガイドはスイス人のシモン。
シモンはプロのスノーボーダーで、奥さんのジジと共に世界を転戦。(ジジもプロのスノーボーダー)数年前に白馬の雪に魅了され、日本への永住を決めた本当に笑顔が素敵なナイスガイだ。
白馬乗鞍スキー場の脇でKODAMAというロッジを経営しているので、機会あれば是非!
美味しいワインと、スイス料理が待ってます。
そのシモンの案内で、八方尾根最上部のリフトを降りてビーコンゲートを抜けて登り始めます。
スノーシューに履き替え、ゲートから約2時間の登り。
シモンを先頭に一列で行進です。30分も歩くとまず周りに人がいなくなります、そして自分たちの発する足音、息遣い、声以外の音がなくなります。
春とはいえ、八方尾根の雪景色は荘厳以外の何者でもなく。休憩のたびに遠く連なる北アルプスの山々を眺めると、足元がふらつくほどの迫力で景色が迫ってきます。
まるでここは人の立ち入るべき場所でないというほどの圧倒的な美しさです。リフトを降りてまだ1時間も経っていないのに。
僕は神様を信じていませんが、あそこには何か人智を超えたモノの気配があります。
おそらく限りなく「死に近い場所」だからかもしれません。
その後1時間登って、スノーボードに履き替え滑り降りていくわけですが、まあやはりというか2年めの初心者では歯が立ちませんでした。なんとか斜面をずり落ちるのがやっとで、皆の足手まといにならないようについて行く事に専念しました。少し登り返したり、トラバース(平行移動)したりしてリフト乗り場に帰って来たのは出発してから5時間後。
人工物と他の人々を目にした時、「ああ、現世に戻って来られた」と安堵の気持ちが溢れたのです。まるであの世に行って来たかのようなトリップ感でした。
バックカントリーはゲレンデでのスノーボード と全くの別物です。
どっちが素晴らしいとかではなく、別物なのです。おそらく「バックカントリーなんて、滑りに行くのになんで登らなければいけないんだ」と憤慨する人もいるでしょう。それも正解かと思いますが、少しでも興味があればゲートをくぐってみてください。現世で体験できる数少ない、そして帰還確率の高い臨死を約束します。
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