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記事:みき(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「健康診断の結果、先生から精密検査を進められたので、提携のクリニックに行って下さい」
 
約10年前の会社員だった頃、会社の保健室みたいなところから呼び出されて、紹介状を渡された。私の場合、マンモグラフィーの結果からの再検査だったので、その時点で乳ガンの疑いだとわかった。映画やドラマでは何度も見てきたシーンが、自分の生活に起きて一瞬引いたけれど、私の父が肺がんを患っていたため、ガンに対する知識という免疫があった。当時、私の頭にあったのは、ガンには“ガンもどき”があって、何もかも西洋医学、特に抗がん剤をしなくてはいけない訳ではない、ということ。実際、父は、余命半年で手術もできないくらいの肺がんだったけれど、治療は放射線治療のみ、漢方薬品を飲んだり、イオンがでる機械を当てたりして、結果的に20年くらい長生きしてくれた。だから私も、精密検査をする前に、代替治療からすればいい、くらいに思っていた。
 
しかし、私には、当時3歳の息子がいた。一番かわいい時期で、出張は全て日帰りにしていた頃。忙しい時は、東京から、火曜に広島、水曜日は大阪、そして、木曜は広島と、3日連続で朝一番で出て、寝る前に間に合うように帰宅していた。仕事は忙し過ぎるくらいだったけれど、旦那や友達に恵まれ、楽しい毎日を送っていた。楽観的に検査をしない選択もあったけれど、精密検査をして、問題なければもっといい、ということで、再検査をすることにした。
 
そのクリニックは、虎の門病院の乳腺外科から独立した医師のクリニック。エコーで検査しただけで、「悪い顔しているねぇ」と疑いの場所をゴリゴリと往復する。「ここに血が流れてるでしょ、これは活動しているってことだよね、生検した方がいいね」と、細胞を取って顕微鏡で見る検査を進められた。少しずつ、少しずつ、真綿で首を絞められるように、乳ガン確定に近づいていく。それにしても、もう少しましな言い方はないのかな、とそちらに意識を向けつつ、あまり悩まずに、生検検査へ。
 
まだ古い建物だった虎の門病院は、イメージ上の病院の中の病院みたいに暗くて、天井も低くて、地下に迷い込んだような気がする空間だった。すごく待たされた後、麻酔もせずに、患部近くを切って、細胞を採取。一週間後に出た結果は、想像通り「クロ」。乳ガン確定。触っても気づかないくらいのしこりだったけれど、滲み出すタイプだったのでステージ2。結果までの1週間、乳がんについて調べたことと、父の肺ガンの時の知識を加えて、次に取った行動は、“ガンもどき”と提唱している医師への予約だった。大きな病院はセカンドオピニオン外来というものがしっかりしていたので、その窓口を使って、目的の先生への診断書を作ってもらい、直談判で病院を訪ねた。
 
“ガンもどき”と提唱している医師は、「むしろ、こんなに小さいしこりなら手術でとってしまって、気になるなら放射線治療しておけば?」と拍子抜けなことを勧めてきた。彼の提唱しているのは「もう治療しても仕方のないものを、あれやこれや治療する必要はない」という意味でもあったのだ。むやみやたらに抗がん剤を勧めず、手術が上手な先生を紹介してもらって、1回目のがん治療の手術、すぐに仕事復帰。毎日朝一番で25回の放射線治療を受けながら仕事をしていた。
 
その後すぐに友人と起業した会社で忙しく働いていた頃、定期検査で2回目の小さなしこりが見つかる。3年前に手術をした場所の少し下で、前回の取れ残りが大きくなったのかも、と。その時は、“ガンもどき”の先生にも相談せず、日帰りで、局部麻酔の手術を受けた。ガンなのに、おできが出来ました、はい、取りましょう、みたいに無感情になっていた。
 
その後、手先のアトピー性皮膚炎が悪化した時に、ある先生を勧められた。その先生は、大きくは内科の先生で、人を全体として、波動まで診る方。皮膚炎だけでなく、ガンが2回出来たことに理由があるのか聞いてみると「しこりを、切って取ったから終わり、という考え方を見直してみるといいですよ」というアドバイスがとても印象的だった。その先生の診察は不思議なものだったけれど、私へのアドバイスは、ガンだけでなく、世の中すべてのことについて言っているように聞こえた。
 
しかし、2回目の手術から3年後、新たなしこりを見つけた。繭くらいの大きさで、急にこんなものがあるなんてオカシイと思うくらい、それは突然に現れた。相変わらず忙しい毎日の中で、大分への出張の前日、シャワーを浴びている時に見つけたのだけれど、その時は仲間には言わずに、予定通り出張へ。自分の身体より、仕事への責任を強く感じていたのだと思う。
 
この3回目のしこりは、手術してもまた出来るのは嫌だなと、3年間放置した。ずーっと気を張って働いて来たけれど、そこから抜けてみようと思ったのは、コロナ禍と言われ始めた2020年3月の自粛が始まる直前。そして、2020年の12月に手術、翌1月に16回の放射線治療を終えた。
 
「取ったから終わりではない」と教えてくれた先生のアドバイスは、今も私の中に残っている。手術は、3度目の正直。私は、もう病気になることを止めた。そのために、慣れきってしまった自分を無くすほどの働き方を止めた。そして何より、自分が心地よい、と思うことを最優先している。結果的に、仕事も、人間関係も今までで一番順調に。気づくまでに3回もかかったけれど、ガンを通して、人生のヒントを手に入れられた、かな。
 
 
 
 
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2021-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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