メディアグランプリ

私の3.11。


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記事:鈴木理恵(ライティング・ゼミ特講)
 
 
2021年3月11日、東日本大震災から10年だ。
メディアや仕事でその言葉を聞くたびに、当時の自分を思い出し、この10年を振り返る。
あの震災は多くの人に影響を与えた出来事だ。もちろん私にも。
 
2011年、この年は私の人生においてとても重要な年だ。小さい頃からの夢だった「イギリスに住みたい」という夢のために努力し、それが実現した年だからだ。震災があった約1ヶ月前の2月8日に私はイギリスへ飛び立った。
現地では小中高一貫の学校に先生のアシスタントとして働いた。イギリスは留学費用が高いため、自分で貯めたお金では難しく、大学の先輩から学校の先生のアシスタントの仕事を紹介してもらった。
3月11日、イギリスと日本は9時間という時差がある。日本の方が9時間早いのだ。私はそのとき教員のオフィスのテレビで日本の震災のニュースを見た。「あ、終わった」と思い血の気が引いた。なぜなら、私の地元静岡県は数十年間大地震が来ると言われ続け、実際に小規模の地震も多かったため、今回の地震も静岡で発生し、津波に襲われたものだと思った。イギリスではJapanとしか報道されていなかったためそう思ったのもしょうがなかった。先生とすれ違うたびに労いの言葉をかけてくれた。休みをもらっても自分ができることは何もなかったため、ざわついた気持ちを落ち着かせるため時々ニュースをチェックしながら仕事をしていた。
当時はまだスマートフォンがなく、海外に行く際はWiFiを使いパソコンを使うぐらいしかネットで情報収集ができず、旅行する際もガイドブックを片手に歩き、宿泊は予約確認書を事前に印刷し持参した。当時はそれが普通だったのだが、今思えばとてもアナログだ。
そんなネットがまだ発展しきれていない環境の中、私はどうにかして日本のタイムリーな情報が欲しく、ネットサーフィンをしていたところ、ニコニコ動画がどこかのニュース番組を生配信してくれていた。私はイギリスでニコ動にすがりついていた。しかもチャット機能があるため情報交換もできた。日本が今どんな状態なのか、現地の人は何を思い行動しているかを知ることができ、イギリスで1人、孤独を感じ何もできない自分の悔しい気持ちをニコ動で落ち着かせることができた。
しかし私はイギリスで何もしないわけにはいかなかった。自分自身が何か震災のためにできないかと模索していた。その時に使用したのがYahoo!知恵袋とmixiだった。それぞれの掲示板で、自分が今イギリスにいて何か日本のためにできることはないかという気持ちを持っていること、イギリスや周辺諸国で一緒に活動してくれる人を募った。すると数人が集まり、見ず知らずの人と日本のために活動することとなった。
正直当時どんなことを段取りつけて行って、何を思っていたのか記録を残していなかったため記憶が曖昧だ。しかし、私たちはイギリスの赤十字の協力を得て、リバプールの街で募金と寄せ書きを募る活動を行った。
曖昧な記憶の中で強く覚えていることがある。それは、イギリス人の他人に対する慈愛の気持ちと自然な行動力だ。募金を募っていた時、歩くのもままならないようなおばあさんや、日本でいうギャルのような女子高生集団、バンドマン……偏見かもしれないがパッと見募金をしなさそうな人たちが自然に募金をしてくれ、驚くことに多くの人がお財布をひっくり返し持っている全ての小銭を入れてくれたりもした。もし自分自身が同じようなシチュエーションに出会った時、正直周りの目が気になってちょっと考えてからでないと募金なんてできない。だが、この国の人は当たり前に、とても自然に募金をするのだ。余談だが、イギリスにはセカンドハンドショップが沢山ある。自分が使わなくなったものを寄付し他の必要としているが購入しその収入は募金となる。元々他人に対しての思いやりやボランティア精神があり、生活に根付いているのだ。
また、私たちは大きな白い布を用意し、そこに日本に向けてのメッセージを書いてもらった。募金と同じく老若男女が協力してくれた。
イギリスはなんて素敵な国民ばかりなのだろうか、私が好きなイギリスはさらに私に魅力を見せつけて離さない。もっともっと好きになった。
 
私の周りでも3.11で人生が変わった人がいた。
私の学年は、この年に就職活動を行っていた。私が帰国した時に話を聞いたら、多くの友人が東日本大震災を経験したことで、自分の人生のターニングポイントである就職活動で今一度進路を考え直していた。内定を辞退し青年海外協力隊に入った人、東北へ移住を決意した人もいた。私自身も翌年に就職活動した際、もし震災があっても早く復旧し人々の生活を支えることができるプロパンガス会社に魅力を感じ入社した。
また、当時アシスタントをしていたイギリスの学校では日本語のクラスがあり、日本関係の仕事を志す学生もいた。この年、日本への留学が決まっていた生徒もいた。しかし地震が発生し放射能の影響がイギリスで多く放送されるようになり彼女は長野への留学を断念した。とても熱心に日本語を勉強し楽しみにしており、日本語を習得した将来を考えていたが、医師の道へ進むと方向転換した。日本だけではなく、このような形で1人のイギリス人の人生を変えたことになんとも言えない気持ちを感じた。彼女はその後優秀な成績で医師の道を突き進みながら、日本のことを忘れずにいてくれ、大学生の時に交換留学生として日本の大学病院へ研修に来た。何年たっても、進路が変わっても、あの頃の気持ちを忘れず違う形で日本に来てくれたことがとても嬉しかった。
 
私の3.11。
この先も忘れない。
10年前の気持ちはこれからの自分にも大切な事を教えてくれる。
3.11が来るたび私はこの日々を思い出し、道しるべとしていきたい。
 
 
 
 
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2021-03-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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