大切な人を大切にするために読みたい本
*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:中川文香(リーディング・ライティング講座)
活字を追うにはちょっと疲れたな、という日には、マンガなんてどうだろう?
ミートソースパスタを二人仲良く頬張っている、かわいらしいイラストの表紙のこの本を手にしたのは2年ほど前のこと。
少し前に『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』を読んで、西原理恵子先生に興味を持ってこの本を探したのだった。
『ダーリンは73歳』
この “ダーリンは70歳” シリーズ、今では6冊目の『ダーリンは75歳』まで発刊されている。
西原理恵子先生とその恋人、高須クリニックの高須克弥先生の日常を描いたマンガだ。
ページをめくってみると赤い顔で怒ったり、具合が悪くなって紫色の顔で苦しんでいる高須先生、そして3話に1話くらいの割合で挟まれるお下品な内容、かわいらしい表紙の見た目から購入した人はちょっと裏切られた気分になるかもしれない(西原先生、失礼します)。
事実、私も「ちょっと、想像してたのと違うかも……」と思った。
けれど、それとまた別の良い意味でも裏切られた。
読み進めていくうちに、私はいつの間にか泣いていた。
この本の中には、誰かを一生懸命愛すること、そして愛する人と一緒に過ごすことの喜びが溢れていた。
高須先生はご自身でも公表されている通り、現在がんの闘病中である。
病気だからと言っていつも元気なくベッドに横たわっているのではなく、高須先生は仕事もこなし、西原先生とのデートも忘れない。
病気だからと言っていつも穏やかだったりするわけでは無くて、機嫌が悪い時だって当然ある。
この本は、 “病人を看護する” という生々しさはそのまま残し、残すけれどそれをイラストにして面白おかしいところをかいつまんでありのまま、見せてくれているのだ。
病気という障壁ももちろんあるけれど、年齢という壁も二人の間には存在する。
西原先生と高須先生の年の差は20歳。
タイトルにも年齢が書かれているが、高須先生の現在(2021年)の年齢は76歳。
今30代の私にはまだ想像できないけれど、その年齢になるとやっぱり年を意識してしまうのだろう。
「あとどのくらい、この人と一緒にいられるのかな?」と。
高須先生に、 “自分の他に女の人がいるのではないか?” という疑惑が持ち上がるシーンで、西原先生が思ったことが、じわりと胸にしみてくる。
「ちょっとながく生きてて家族とか知りあいとかぱかぱか死ぬとねー
思うのよ
この世のどこかで大切な人が楽しく生きてるなら
もうそれで幸せなんだ」
結局、 “他に恋人がいるのかも” 、というのは勘違いだったのだけれど、それでも、お互いを大切に思って本当に幸せを願うと、こんな考え方になるのかもしれない、と切なくなってしまった。
自分はどうだろうな、と考える。
人はいつか、みんな死ぬ。
そのことは頭では分かっているけれど、本当に心でそのことを感じて生きているだろうか? と。
私はまだ30代で、今のところ特に持病も無く、日本人の平均寿命と言われる年齢まではあと50年ほどある。
さらに、最近は「人生100年時代」なんて言われて、医療も発達してきて、もっと長く生きるかもしれない。
けれど、反対にふとした事故や病気で、あっという間に死んでしまうかもしれない。
私がいつ死ぬのかなんて誰も分からないし、私の大切な人たちがいつ死ぬのかなんていうことも誰にも分からない。
ただ、一日一日確実に年を取って生きているということだけがはっきりしていて、自分の死期を知っている人なんていない。
それなのに私は、今日のような明日がきっとまた来る、ということを何の根拠もなく信じて毎日暮らしている。
この本を読むと、昨日のような今日を過ごせたことは本当に素敵なことなんだな、と思う。
西原先生や高須先生という恋するふたりが、ふとしたことで病気や年齢を目の前に感じて二人の関係について不安になったり、二人で過ごすなんでもない時間に幸せを感じたりする。
そんなふたりの日常の気持ちの変化をみて、誰かを愛すること、その愛する人と一緒に時を過ごすことって素晴らしいことなんだ、と教えてくれる。
かわいらしい表紙のイラストに惹かれて手にしたところ、二度も三度も良い意味で裏切られた。
手にしたときはそんな感想を持つなんて考えもしていなかったけれど、 “人を愛するってこういうことなのかも” というのが、最後まで読んでなんとなく分かったような気がした。
「このシリーズずっと続いて欲しいな」と思うけれど、もしかしたら、いつかは終わるということが分かっているからこそ、こんな限りなく優しい気持ちを分けてもらえるのかもしれない。
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