夕凪
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ann(ライティング・ゼミ平日コース)
この文章は、フィクションです。
登場人物やエピソードは架空の話としてお楽しみください。
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気づいたら、腰上まで海に浸かっていた
ここまでどうやって来たのか憶えていない
ただ、昨日は一晩中、自分の部屋で何かに押しつぶされそうになりながら
泣きつくしたことは憶えている
きっと今、私の眼は目の前の夕日のように真っ赤になっている
3月の海は体の芯まで冷やす水温のはずなのに不思議と寒さも感じない
さっきまで吹き荒れていた風も止まり、無重力のような感覚だった
夕凪
それはまるで、今の私を表しているようだった
4月より大手企業に入社が決定している
両親は大喜びで祝ってくれた
「気持ちを打ち明けるには今夜しかない」
そう決心し、昨夜震える手を抑え、口を開いたが
ついに晩御飯の最後まで、その想いを声にすることは出来なった
私には秘かな夢があった
象使いになるという夢だった
きっかけは、保育園の時に秘かに憧れていた子であった
その子は、何かと問題を起こしては大人を困らせている問題児であった
きっと、家庭環境の影響もあるのだろう
しかし、私から見ると、その子は私に持っていないものを沢山持っていた
何事も自分の思うがままに表現が出来て、人を引き付ける不思議なオーラがあった
その姿は眩しく、勇ましく、愛おしく、同性ながらにきっと私は恋をしていた
その子がある日、思いついたかのように言った
「私、象使いになりたいの」
「え?象使い?」
「そう、象使い。あの大きな背中に乗って、一緒にどこまでも旅するの」
今思えば、それは気まぐれな発言だったかもしれない
しかし、その日から私の夢は象使いになった
その子とのお別れの日は、不思議と涙が出なかった
声をかけることもなく、遠くからその姿を見ていた
それからは、私は優等生として人生を歩んできた
一家の長女ということもあり、周りに褒められることを生き甲斐にしてきた
勿論、象使いになりたいという夢は誰にも口にしたことはない
理由やきっかけを知ったら、家族はどれだけ呆れ、落胆するか目に見えていたからだ
結果、22年間生きてきて、今の私に何があるのだろうか
もし、あの子が生きていたら、22歳になったあの子は、象使いになっていただろうか
空にうっすらと広がる淡い雲は、まるであの日の空に漂う彼女の煙のようだった
あの日も風がなく穏やかな日だった
目を落とすと、どこからか流れ着いた瓶が浮かんでいる
錆びれたラベルは何が書いてあるか分からない
私は今までずっと、自分の思いを瓶の中に詰め込んで蓋をするように生きてきた
ブイのようにプカプカと浮かぶ錆びれた瓶は、まるで今の私のようだった
どこに流れ着くのか分からないまま、思いの丈をぎゅぎゅうに詰め込んで浮かんでいる
蓋は錆びれて固くなり、私は開け方を忘れてしまった
空の向こう側から夜が押し寄せてくる
ブワっと一気に風が起こった
さっきまで無風だったのが嘘のように、体が陸へ押し戻された
それは不思議な風だった
まるで空からあの子が私の背中を押してくれたかのように
私は岸に戻ってきた
通りすがりの人達は、ずぶ濡れの私の姿を見て、奇妙な面持ちで過ぎ去っていく
その目線が快感だった
まるで、あの子になったみたいであった
服の裾に何か引っかかっている
手に取ると瓶の蓋が裾にぶら下がっている
おそらく、海外から流れ着いたであろう、見たこともないデザインのその蓋は、光が反射してキラキラと光っていた
それは、とても綺麗だった
私は今まで正しいとされてきた道を選択してきた
間違わないように、間違わないように選んできた
でも、人生に正解も不正解もない
自分が選んだその道が自分の正解なのだから
今だったら、この気持ちを伝えることが出来る
瓶にぎゅうぎゅうに詰め込んだ想いがブワっと溢れたかのように
私は、ずぶ濡れのまま家に向かって駆け出した
きっと、これが初めての反抗期
夕凪を経て、私の人生は大きく方向を変え動き出した
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