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雨降りの休日は、宝探し日和


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:服部花保里(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「Hear , so beautiful rain sound……」
 
雨がしとしと降りだすと、ふいに聞こえてくる気がする。声の主は、オーストラリア人の英会話の先生である。彼は、かれこれ20年前に京都に移住し、日本人の家族を持ちながら、大学や地域で英会話の先生をしていた。そのご縁で、私もいっとき彼に英語を習っていた。
 
先生には申し訳ないが、私の心構えの問題もあって、英会話はまったく上達している気がしなかった。しかし、彼の大きな笑顔と、どんなにでたらめな英語にも「pretty good!」といってくれるおおらかさに、毎週のように電車で40分、徒歩20分の道のりをレッスンに通った。
 
とても真面目な先生は、ろくに時制も正しく理解していない落第生に、根気よく過去形と現在形の使い分けや、単数名詞や複数名詞の違いなどを丁寧に説明してくれた。おかげさまで、正しい英語とは言い難いが、海外の観光客に道を聞かれても、なんとか説明しようと試みることはできるようになった。もっとも、その際に一番便利なのは、英会話ではなく他ならぬiPhoneだったりするのだが。そんな塩梅だったので、英語はさっぱり身につかなかったわけだが、彼の物事の捉え方や感受性の高さに感化され、いくつか忘れられないエピソードがある。そのひとつが冒頭の台詞である。
 
当時レッスンに通っているとき、本当によく雨に降られた。結構な道のりをあまり英語も上手にならないのに、電車に乗り継ぎ、雨を避けて足早に通うのは、なかなかに憂鬱なものだった。そんな私の浮かない顔をみてのことなのか、彼がふと黙ったかと思うと、「聴いてみて、なんてきれいな雨音なんだろう」とつぶやいた。そのとき、はっと窓の外をみた。
 
普段、雨の音なんて聞こえたことも、聴いたこともなかった。ああ、雨が降っている、出かけるのもおっくうだな、と空の薄暗さに比例するように気持ちも落ち込みがちだった。しかし、そう言われて、じっと耳を済ましたとき、今まで気づきもしなかった音が聞こえてきた。庭の大きな葉っぱに落ちてくるらしい雨粒が、葉っぱを弾いたり、窓に打ち付けたりする音が、それぞれ音楽のように鳴っている。
 
それに気づいた途端、どんより曇っていた空から落ちてくる雨が、はじめてひとつひとつビーズの粒のようにキラキラ光ってみえてきた。そして、クサクサしていた気持ちもそれと同時になんだか穏やかな凪のように落ち着いてきた。なんとも不思議な体験だった。
 
誰かのちょっとした言葉が、ふとした瞬間に今までの価値観をひっくり返してしまうような力をもっていることを身をもって体感した。こうしたたったひとつの記憶が、大きくその後の思考や選択に影響を与え続けることになる。
 
今年の3月から4月にかけての週末は必ずといっていいほど、雨予報だった。以前の私だったら、それだけで、なんだか残念な気持ちになり、あーあ、とため息をもらしているところだった。けれども、今はチャンスとばかりに、普段はじっくり取り組めないことに時間を使うことができる。
 
今回は、絶好のお花見の時期に出歩けないことも相まって、買うだけ買って、オブジェと化していた、読みたい本にようやく手をつけられた。会いたいと思ってなかなか連絡できなかった友人と久しぶりに再会し、お互いの近況を知り合うことができた。外に出歩く休日とは、また違った時間の流れのなかで、普段は選択しない道がみえたり、情報に出会ったりすることができる。
 
そう思うと、この「ライティング・ゼミ」と出会ったのも、雨の日の休日だった。普段は尻込みして、後回しにする選択を思い切ってできたのも、雨の日がくれた、思わぬ余白の時間だった。こうして、扉を開いた時には想像もしなかった世界が見え始めている。そして、この4ヶ月では到底見渡せない次なるステージが控えていることもわかってきた。4ヶ月で人生を変えようなんてちょっと甘かったかな、と思いながらも、その片鱗に触れて、もっとこの世界を深く味わいたい思えることが一番の喜びになっている。
 
そう思いながら、またもや今週も雨となった日曜日。オーストラリアに帰国中だった英会話の先生に久しぶりにメッセージを送ってみた。すると、変わらぬ陽気さで、マイホームでくつろぐ元気そうな姿を送ってくれた。お母さんの看病のための帰国だったので、ご時世と相まって心配だったが、みんな元気とのことで一安心した。また、状況が落ち着いたら日本かオーストラリアで会おう!と、新しい約束ができたことが嬉しかった。
 
雨降りの休日は、不思議と普段とは違う勇気が湧いてくる。こうして、まだ見ぬ宝をさがしながら、少しづつ世界が広がっていくことを、これからも楽しんでいきたい。
 
 
 
 
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2021-04-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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