魔女になりたい男のわたし
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:みつしまひかる(ライティング・ゼミ超通信コース)
マンガや小説を読んで、登場人物に憧れ、自分もそうなりたい、と思ったことは、誰でもあるだろう。
僕の少年時代にはドラゴンボールや幽遊白書が流行っており、友人たちと同じく、主人公にあこがれていた。
ただ、今聞かれたなら、魔女になりたい。
男だけれど。身体も心も。
女になりたいわけじゃない。魔女になりたいのだ。
何度も読み返してきた、梨木香歩の「西の魔女が死んだ」。
最初に読んでからもう14年も経ったけれど、変わらず「僕の人生の5冊」に入り続ける本だ。
この本の主人公は、中学生の女の子、まい。
そして彼女の母方のおばあちゃんが、タイトルにもある「西の魔女」だ。
まいは、今でいう「繊細さん」にあたるのだろう。
中学に入ってから1か月ほど経った頃、まいは学校に行けなくなった。
周りとうまくなじめず、学校が苦痛を与える場所でしかない、という。
ママは、「西の魔女」にしばらくまいを預けることにする。
おばあちゃんが住んでいるのは山の中で、いわゆる田舎だ。
おじいちゃんが死んで、彼女は一人で暮らしていた。
魔女と聞くと、意地悪で偏屈なキャラクターを想像するかもしれない。
でも、ここで出てくる「西の魔女」、まいのおばあちゃんはとっても優しく、賢明だ。彼女の母親がまいを預けに来た時には「まいと一緒に暮らせるのは喜びです。私はいつもまいのような子が生まれてきてくれたことを感謝していましたから」、とまいを全肯定して受け入れてくれる。
まいは、ママが単身赴任のパパに電話をかけて、「扱いにくい子」と言われていることにショックを受け、また、自分が中学で挫折しておばあちゃんのところに預けられることになったことに引け目を感じていた。
でもおばあちゃんの一言で心が軽くなるのだ。
とはいえ、すぐにその心に影がさす。
おばあちゃんの家のすぐ近くに住む男が、まいの前に現れ、怒鳴り声で「おまえはどこのもんじゃ」と言い、まいがおばあちゃんのところでしばらく一緒に住むと聞くと、「ええ身分じゃな」と吐き捨てるように言い放つのだ。
まいの心は揺れやすい。
そこで、おばあちゃんは、自分の祖母の不思議な力をまいに打ち明け、そのような力を養いたいと願うまいに、魔女修行のレッスンを行う。
その内容とは、「まず早寝早起き。食事をしっかりとり、よく運動し、規則正しい生活をする」こと。
そして魔女になるための必須条件とは、「自分で決める」ことに尽きるのだという。
なんか、思ってたのと違う。
まいも、読者の僕らもそう感じる。
この物語では、箒に乗って空を飛ぶ方法などは出てこない。
おばあちゃんと一緒に生活をし、ジャムづくり、洗い物、勉強などのいくつかの仕事をこなし、裏庭などでのくつろぎの時間を過ごし、時にはちょっとした講義を受ける、これが魔女修行のレッスンなのだ。
レッスンを進める中でも、まいの心は、先ほどの男の言動や、その他の出来事に揺れ動く。
彼女の感覚の中で、少し変わったことが起き始めていく。
そんな中で、彼女は自分の意志の力、つまりは生きる力を身に着けていく。
現在はストレスの時代だ。コロナ禍にあっては自粛ムードもありまた政治の不甲斐なさもありその面が非常に強化されている。
僕自身は、平均的な人よりもストレスに対する許容量が多いつもりでいたけれど、会社での理不尽がどんどんと積み重なってきてしまい、またコロナ禍もあって発散の場もないまま、いよいよ許容量を超えつつあることを自覚するようになった。
そこで思い出したのが本書だった。
心の持ちようがいかに大事であるか。
それを改めて思い出させてくれるのだ。
外からの刺激は常時やってきて、消すことができない。
であればその応答としての感情面をいかにコントロールするのか、それがこの魔女修行に盛り込まれているのだ。
小説ではあるけれど、生きる上での大事な心構えについて書かれており、それは僕らが生きる現実世界でも有効だ。繰り返しになるけれど、今はストレスが非常に強い時代だ。心を病んでしまうことなく、イヤな出来事がおこっても、平静を保って、大事なことにはいつだって心が集中できるように準備しておく。
そんな人、つまりは魔女に、僕はなりたい。
おばあちゃんのレッスンには、魂と身体の話がでてくる。
人あるいは動物は魂と身体からできていて、魂は身体に入ってその寿命が尽きるまで物事を体験し、体験によって成長する、そういう性質があるのだと。身体が死んでも、魂は旅を続け、また新しい身体を得るのだと。
この物語の最後には、魂の話に関連した、ささやかな、でもとても素晴らしい奇跡が生まれる。
この本を読めば、あなたもきっと、魔女になりたいと思うだろう。
***
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