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王道少年漫画「弓道」


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記事:金谷祐作(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
弓道と聞くと、どんなイメージだろうか。静かな空間、落ち着いた空気。礼に始まり礼に終わる。武道の一つとしてそんなイメージを持つ方が多いと思う。
 
自分もその一人だった。落ち着いた空間。すっと伸びた背筋。研ぎ澄まされた技が的をきれいに射貫く。そんなイメージを持ったまま、大学の弓道部に入った。
 
初めての練習に参加したとき、的に矢が刺さった快音と共に、叫び声が続く。
 
「よぉおおおおし!! ナイス大前ぇ! ナイス一本!!」
 
何事かと思った。的に矢が中たる(弓道ではこれであたると読む)と、同時に先輩方が声をあげる。外したときも「もうちょい!」の声があがる。大前というのは人名ではなく、弓道の試合において4人一組を組んだときの一番前に立つ人の事で、二的、落前、落と続く。
 
先ほどの叫び声は、「矢声」という。
 
主に的中時に出す声だが、ただ声を出すのではなく、出せるときは腹から出す。
 
弓道で「声を出す」という発想が一切無かったのもあって、ここで4年間もやっていけるのだろうかと不安になった。
 
そんな自分が大学を卒業した今も、自分の弓を買い、引く機会あらば喜んで飛んでいくらいになっている。4年間続けた学生弓道には、王道少年漫画の魅力がある。
 
この「矢声」がその理由だ。
 
弓道の試合は「的中数」で決まる。どこに中てたかは基本的に関係ない。
 
淡々と各チームの選手が矢を中てていき、黙々と記録された数字で勝敗を決めるのが弓道のイメージに一番近いかと思うが、学生弓道は、それはもうやかましい。
 
「しゃあ!! ナイス○○!」
「よっしゃー!」
さきほどの「よし!! ナイス○○!」に加えて、これらは的中時の矢声だが、これは大学によって特色が出る。
さらに、大学によっては射る直前の動作までずっと声をかけ続けるところもある。
 
大きな試合でない限り、基本的に弓道は2校で対決する。
男子の場合、4人一組の「立(たち)」と呼ばれるものを2組(女子は一組)作り、A校1、B校1、A校2、B校2というように交代で弓を引いていく。一回につき一人4射。それを各5回ずつ繰り返すので、合計で160射の総的中数で決まる。
 
その160射分全て矢声がつく。
外したときは何も言わない大学もあるが、基本的に矢声を全く言わない大学は無いので、相手の立が引いている間は、相手の矢声をずっと聴いていることになる。
 
ここに、少年漫画のようなドラマがある。
次の番を待つ間は、調整などの理由から道場外に出ていることが多い。道場外でも的中音と矢声は聞こえる。相手の的中時の矢声が多く聞こえると、後続にはプレッシャーになる。相手校が自分たちより中てていると、待ち時間がとても長く感じた。
 
道場内では弓を引かない選手が仲間への励ましと鼓舞を込めて声を張り上げる。特に接戦など白熱した試合では、矢声が場の空気を盛り上げる。点差をつけられて負けている中、逆転の兆しが見えた時などは自然と矢声も大きくなる。
 
大会によっては2校が同時に引くこともあり、射る直前まで「さぁーーーー1本じっくり1本さあ1本!!!」などの声をかけ続ける大学とあたると、的中時しか声を出さない自分たちはその段階で空気を相手に持って行かれてしまう。
だから自分たちの仲間が中てたときは、その声をかき消すように「ナイス大前!!」の声をあげる。矢声で押し巻けて、相手に流れを作られてはいけないのだ。
 
矢声は、弓を引いていない選手から、引いている選手への励ましだ。
これがあることで、個人競技の色合いが強い弓道において、一人ではなく、全員で戦っているという一体感が生まれる。上回生最後のリーグ戦などはアツい青春の色合いが濃くなるのだ。
 
弓道は確かに静かな武道だ。学生弓道ではそこに「矢声」が加わることで、王道少年漫画のようなアツい展開として試合が盛り上がる。
 
矢を放つ直前までのひっそりとした緊張感。
それを破るように響く的中音と矢声。
 
袴が着られて見た目が格好いい。中たったときの爽快感がすごいなどいろいろあるが、学生弓道の大きな魅力は、矢声の熱量にある。
 
己を磨きつつ、仲間と共に戦うというのは、まさに王道少年漫画的といえるのではないだろうか。試合そのものに動きが少ないからか、王道少年漫画的な弓道漫画が少ないのは寂しいことだが、試合に参加しているといつでも脳内で少年漫画が組み立てられる。
 
矢声は社会人弓道にはあまり無いようだ。学生弓道のような試合が少ないからだと思うが、だからといってこの「矢声」を十分に体感できるのは学生だけかというとそうではない。
 
実際に言う機会を得るのは難しいが、大きな大会のものは動画がネットに上がっているし、実際に会場に入ることも出来る。
 
今は会場に足を運ぶ事は出来ないとしても、一度動画で矢声を聴いてみて欲しい。
 
他のスポーツに負けず劣らずの熱意が、そこに感じられるはずだ。
 
 
 
 
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2021-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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