ミニトマトを美味しく食べる方法
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:串間ひとみ(ライティング・ゼミ超通信コース)
「このミニトマト湯むきされている。すごくない? 1,000円をきるランチでここまでするなんて!」
安くて美味しいと評判のレストランで、サラダに入っているミニトマトについて興奮気味に語る私の目の前で、友人はやや困惑した笑顔を浮かべている。
「またやってしまった」
内心そう思い、何事もなかったように食事を続けることにした。
私は、料理を教える仕事を長くしていたため、外食をするとき、目の前の皿に至るまでの調理過程や、中に入っている調味料を自動的に想像してしまう。職業病みたいなもので、その時に出てきた料理を楽しみたい人にとっては、突然「作り方が……」とか言われても、私ほどの興味がないことは、これまでしてきた外食の中で、理解してきた。なので、この手の話をするのは、料理を仕事にしている卒業生と食事をするときだけと決めているのだが、価格に対していい意味で裏切られた味と手間に驚いて、思わず口から出てしまった。
「湯むきって何?」
私のあまりの熱さに興味を持ったのか、友人が尋ねた。
湯むきとは、食材を熱湯にさっとくぐらせ、すぐに冷水にとって皮をむくという料理における下処理法の1つだ。主にトマトに使われ、皮をむくことで口当たりをよくする効果がある。私はミニトマトのコンポートをよく作るのだが、皮のあるなしでは、味の浸透が圧倒的に違う。そうは言っても「トマトの皮をむいて食べたことなんかない!」という方がほとんどではないだろうか。
「トマトをお湯につけて、皮をむくこと。ひと手間かかるんだけど、口当たりがよくなるし、ドレッシングの味がしっかり入るんだよ。まあ自分のためにはなかなかそこまでしないけどね」
「そうなんだ」
感心したように返事をすると、友人はフォークの先のミニトマトをまじまじと見つめた。友人は実家住まいのため、あまり料理をしたことがない。それでもたまに暴走気味な私の料理ついての話は、わりと興味を持って聞いてくれるのだ。
「トマトの皮のあるなしなんて気にしたことなかったし、今日言われるまで気づかなかった」
そう友人は続けたが、実は私もそうだった。
十数年前、私は料理を教える授業を担当するため、夜間の調理学校に通い始めた。今でこそ、子どもの頃から料理やっていましたみたいな顔をしているが、大学に入って一人暮らしをするまで、家庭科の授業(皿洗い担当)を含め、ほぼ料理をやったことがなかった。
そんな私が、調理学校で「トマトの湯むき」を習い、初めて湯むきして食べた時のトマトの食感は、皮があった時のそれからは想像のできない衝撃だった。トマトは好きでよく食べていたが、そのままか、塩か、マヨネーズかみたいな選択があるだけで、まさかその一歩手前に皮をむくという選択があったとは!
そしてその時、私の中にあった1つの疑問に答えが出た瞬間でもあった。私は「トマトは何もつけない派」だった。その理由は、マヨネーズや塩をかけたところで、「トマトとマヨネーズ」、「トマトと塩」でしかなかったからだ。何となく融合されてないというか。それが湯むきという存在を知った途端、あれは皮のせいだったのだと分かる。今でも湯むきしないならそのまま食べるし、ドレッシングをかけるなら、湯むきをするようにしている。
昔苦手だった料理を学んだことによって、私は世の中の見え方が変わった。
そういうモノがあると知ることで、今まで見えなかったものが、突然見えるようになることを知った。
「湯むき」を知ることで、トマトには皮があることを認識した。認識する前にも皮はあった。でもそれが、ドレッシングの浸透を妨げているなど考えたこともなかった。知らなかっただけで、もっと美味しく食べる方法があったのだ。もちろん皮の存在を認識したからと言って、いつでも湯むきしようとは思わない。本当に美味しいトマトは、何もつけずにそのまま食べたい。つまり知ることでは、自分にとってよりよい選択ができるということだ。
さらに、見えなかったもので、見えるようになったものもある。料理人の手間だ。「湯むき」を知らなければ、美味しいサラダの中のミニトマトでしかなかっただろうが、今は、ひと手間かかっていることでより美味しくなったミニトマトである。そこに料理人のお客様に対する気遣いをより感じられるようになった。そのことで、その一皿の価値が、私いとって一気に跳ね上がり、より大事に食べようという気持ちにさせられるのだ。
正直、皮があろうがなかろうが気づかない人もいる。実際一緒に食事をしてこの話をしたとき、先の友人と同じ反応をした人がほとんどだった。もちろん知らなくてもいいのだと思う。料理人にとってお客様が自分の料理に満足していただけたのであれば、目標は達成されているのだろうから。
もちろん興味の方向性もあるので、全員が私と同じように感じるとは思わないが、知っていること、経験したことが増えることで、日常の何気ない場面が急にドラマチックになるのだ。だって湯むきしたミニトマトを見つけただけで、ちょっと幸せな気分になれるなんてお得でしょ。
知ることで、世界は広がる。コロナ禍の中、なかなか外に出ることもできないけれど、そんな今だからこそ、たくさんいろんなことを学んで、自由に外に出られるようになった時、たくさんの感動に出会いたいなと思う。そして直接会うことが難しい今だからこそ、見えない人の思いや頑張りを想像できる力、大事なことをちゃんと選択できる力を養いたいと思う。
知ることで、人生はもっともっと面白くなる!そう言い聞かせながら、ゴールデンウィーク終わりのダラダラしそうになる自分を戒めて、机に向かう。5月、本当の旬には、少し早いけど、ミニトマトがたくさん出回る季節になった。
***
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