おじさんの「短歌」が教えてくれたこと
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記事:木下 真哉(ライティング・ゼミ日曜コース)
「あれ、おじさんから郵便物が届いている」
ある平日の夕方、仕事から帰ってきた私が自宅の郵便ポストを開けたときのことである。
そのおじさんとはかれこれ3年ほど会っていない。
おじさんは5年以上前から病気で入退院を繰り返し、退院しても自宅から出ることができず自宅で安静にしないといけない状況だった。私は仕事が忙しく、おじさんに会いにいく機会を作ることもできずにいたのである。最後に会ったのは確か3年前のお盆の時で、父と2人でお見舞いに行った時だった。
おじさんからの郵便物を手にしたとき、とてつもなく大きな不安が私の体を駆け巡った。
「もしかして……。いや、そんなはずはない」
私は恐る恐る郵便物の封を開けた。
そこには、1冊の「短歌」集が入っていたのである。
「人生縮図」
おじさんが長年書き溜めていた「短歌」の中から厳選されたものが集められているものだった。一部の「短歌」には、おじさんが趣味で描いていた絵が添えられていた。絵を描いていたことは知っていたのだが、「短歌」まで詠んでいたのは予想外だった。亡くなった私の祖母が短歌を詠んでいたので、きっと、その影響で始めたのだろうなと思った。
この時はおじさんの才能のすごさに感服しながら、この「短歌」集を眺めるだけにとどまったのである。
それから、1ヶ月後のある夜。
実家の父からおじさんが亡くなったとの電話があった。
その電話が来る2週間前にも実家の父からおじさんが危ないという連絡は受けていたのだが、何日か経過して実家の父に電話したら「持ち直したぞ」と聞き、安心していた矢先のことだった。
おじさんが亡くなった2日後、私はおじさんの通夜と葬儀に参列した。通夜の後、久しぶりに会った従姉は私におじさんが亡くなるまでに起きたことや私が知らなかったおじさんのことを話してくれた。
おじさんが生まれた家庭は生活的に大変だったこと。
実の親からはたくさんの愛情を受けられなかったこと。
「短歌」を教えてくれた亡き私の祖母からたくさんの愛情を注いでもらえたおかげでよい人生を過ごすことができたと生前に言っていたこと。
最後まで「生きたい」と強く願い、病気と闘い続けてきたこと。
子供の頃から知っているおじさんは明るく、優しく、いつも前向きに物事を考える人だった。就職氷河期でなかなか内定がもらえず、やっとの思いでつかみ取った内定先への就職が決まった時も社会人として働くうえで大切な心構えをおしえてくれたおじさん。そんなおじさんも私が想像する以上につらいことがあり、でも、つらいことがあっても愛情にあふれた家族をつくって幸せな人生を歩んできたということを知ると涙が止まらなくなってきたのである。
おじさんの葬儀が終わり、自宅に戻った私はおじさんが送ってくれた「人生縮図」を開いた。通夜の後に従姉が私に教えてくれたことを噛みしめながら、1句1句丁寧に読み進めた。
すると、一番初めに眺めたときには気づけなかったものを見つけることができたのである。
楽しいこと、うれしいこと、かなしいこと、つらいこと。自分が過ごす1日がどんな風になろうとも、それを自分の人生の1部としてきちんと受け止めているのである。
私たちは大人になり、ひとりの社会人として生きていく中で職場での人間関係や毎月安定した収入を稼げるのかといった悩みを抱えるようになる。こうした悩みは私たちの日常を侵食し、私たちが1人の人間として生きているということを忘れさせてしまう。
悩むことが悪いことだとは私は思わない。悩み苦しむことでつかみ取れる幸せというのは確かにある。
しかし、悩みすぎることによって、私たちは「家族や友人が自分のそばにいること」という人間だからこそできる当たり前だと思っていることを忘れていないだろうか。家族や友人はいつも自分のそばにいるわけではない。家族や友人に対して傷つけるような言動をすると、必ずどこかで自分から離れていく。傷つける言動をしなくても人は必ず死んで、自分から離れていく。
無意識に当たり前だと思っているからこそ忘れがちになってしまうこと。その当たり前だと思って忘れがちになってしまうことは必ずいつかはなくなる。
なくなった後に後悔しないようにするためには、忘れがちになっている大切なことを振り返る余裕が必要だと私は思う。
おじさんの「短歌」達に描かれていた「1日をありのままに受け止めて生きることの大切さ」に気づくことができれば、きっとできるのではないだろうか。
おじさんが残してくれた「短歌」達が教えてくれたこと。これを忘れずに毎日を生きていこうと思う。
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