メディアグランプリ

新宿副都心の夜景とライティング・ゼミ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松浦純子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「だいたいさぁ、お姉ちゃんは条件が多すぎるんだよね。何か妥協しないと部屋なんて見つからないって」
 
部屋探しに付き合ってくれている妹に諭される。
それはわかっている。わかっているけど、わかりたくない。
何十という部屋を見たけど、ピンとこないのだ。
 
そして紹介されたのが、とあるマンションの十二階の東向きの部屋。
希望の平米数より狭く、南向きではないので「ここもなしだな」と真剣に見ていなかったが、ベランダの遠く向こうに見える景色が気になった。
 
「へえ。都庁が見えるんですね」と私がいうと、
 
「そうなんです。今、昼間なのが残念ですが、夜は本当に綺麗ですよ。東京の夜景って色々ありますけど、僕個人的には、中野方面から望むこの新宿副都心の夜景が一番綺麗だと思うんです」と不動産屋さんは答えた。
 
同業者の妹は「夜景なんて三日で飽きるよ」と言ったし、その通りだと思ったが、「東京で一番綺麗」という夜景をどうしても見たくて、別の日にもう一度見せてもらった。
 
「わー。綺麗……」
そのあとの言葉が出ず、しばし窓の外に広がる夜景を見つめた。
 
間取りや広さ、向き、収納の大きさなどを考えて通常は部屋を選ぶが、どうせ今まで決められなかったのだ。今回は「夜景が綺麗だから」という興味本位で決めてみようと思った。住んでみて夜景が三日で飽きたら、話のネタにすればいいか、と。
 
私はその場で「この部屋に決めます」とサインをした。
 
眼下には中野坂上や西新宿あたりの低層住居が広がっており、その奥に見えるのが東京都庁に、新宿副都心の摩天楼、そして三角屋根が三棟段違いで連なるパークハイアット東京。向こうに見える数えきれないほどの明かりは、光の屈折で揺らぎ、キラキラと輝いていた。部屋の電気を消してカーテンを開け、お酒をちびちび飲みながら、夜景を見て過ごすのは至福の時だった。
 
夜明け前のわずかな時間に見える景色も良かった。空がうっすら赤くなって、織りなす紺色と赤のグラデーション、ビルの合間からお日様が上ってくる前、大都会のしばしの静寂。同じ景色なのにまるで違って見えるのが不思議だった。
 
妹に「夜景なんて三日で飽きるよ」と言われたその部屋だったが、引越しするまでの二年間、見飽きたと思うことは一日たりともなく、ずっと見ていたいと思う景色だった。
 
人工的に作り出された無機質な美しさゆえ、最初は単に綺麗で美しいと思っていた。しかし、毎日見ているうちにだんだんと感じ方が変わり、その景色に人情味を感じるようになってきたのだ。
 
都庁をはじめ、その周りにそびえ立つ新宿副都心の高層ビル、マンション、家々。
残業をして終電でクタクタになって帰ってきて、窓の外を眺めると、どんなに真夜中でも必ず、どこかの窓に明かりが灯っていて、そこには人の気配がある。
 
都民のために働いている都庁の誰か。
ホテルや病院で夜勤をしている誰か。
真夜中のビルでまだ残業している誰か。
勉強をしている受験生の誰か。
子供の世話や親の介護をしている誰か。
 
遅く帰ってきてもベランダに出て、新宿副都心の摩天楼に向かって、どこの誰かも知らない人達に「お互いお疲れ!」と心の中でエールを送った。
 
実際に人が見える訳ではないが、大都会に灯るあの小さな明かりの一つ一つに、それぞれの人生があって、時間が流れている。その一つ一つにドラマがあって、日々、泣いたり笑ったり、喧嘩していたり、小さな幸せを感じていたりするのだろう。私の知らない、それぞれの生活があるのだなあと思うとき、不思議な気持ちとともに、とてもせつなくなるのだった。
 
私にとっての天狼院書店のライティング・ゼミは新宿副都心の夜景そのものだと思った。
 
ラィティングゼミを受講中の友人が、天狼院書店ウェブサイトに掲載された自身の記事をFacebookで紹介していたのを見て、初めて天狼院書店のことも、ライティング・ゼミのことも知った。「なんとなく面白そう」と、あの夜景の見える部屋を選んだときと同じ、興味本位の、ほんの軽い気持ちで受講を決めたのだった。
 
夜景と同じく「もし途中で飽きちゃったら、その時はその時」と考えていたのだが、飽きるどころかすっかりのめり込んでしまった。途中、残業続きで書く時間がなかなか取れないうえに、書きたいことはあるのに、何故かキーボードを打つ手が進まないこともあった。そんな時は無理して書かずに、少し寝かせておいた。
夜明け前の新宿副都心の景色を見て、見ているものは同じなのに、こんなにも違って見えるのかと思ったように、何かの拍子で急にはっとさせられるような気づきがあり、そこからまた書きはじめたりもした。
 
そして、共に学んだ同期の仲間たちと、投稿されるたくさんの文章。
 
それはまるで、私がかつて部屋から見ていた、目の前に広がる夜景のようだと感じた。
お顔は写真を載せている一部の方のみで、声も聴いたことがない。窓に灯る明かりの一つ一つにそれぞれ違った人生があるように、年齢も仕事も住んでいる場所も違う。繋がっているのはこのライティング・ゼミの講座の受講生だということだけ。
 
一人ひとりが歩んできた人生のドラマの一幕を、毎週見せてもらっている感覚だった。誰もが、いいことばかりが続く人生などではなく、苦しみもがきつつ生きている。自分だけではないのだと、時に心の支えとなり、書くことへの原動力となっていた。
誰かの文章が誰かの心を動かすとき。
人生が変わる、の意味はそういうことなのかもしれない。
 
誰かにこの講座のことを聞かれたらきっとこう答えると思う。
 
「天狼院書店のライティング・ゼミ? 自分の文章が上達したかどうかはわからないけど、実際に受けてみて、書くことと同じか、それ以上に得られる気づきが多かったのは確かだよ」
 
 
 
 
***

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2021-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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