「ない」ことを楽しむ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:杉山佳那恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
「何もないなら、何もないなりに、楽しんじゃおうよ」
この言葉は、「凪のお暇」というテレビドラマで主人公の凪が、同じアパートの隣の部屋に住んでいる小学生の女の子、うららにかけた言葉。
まわりの友だちはいろんなものを持っていて、自分にはそれがない。
「なんでうちにはないの?」
「友だちと比べちゃう」
そう話すうららに、凪は優しく語り掛けたのだ。
「他人に思いっきり嫉妬したあと、目の前のことで工夫してみることも楽しいよ」
「何もないなら、何もないなりに、楽しんじゃおうよ」
ふとした瞬間にこのセリフを思い出すと、不思議と元気や知恵が湧いてくる。
それは例えば、パンを作るときにも。
私は、パン作りをすることが好きだ。
レシピをインターネットで検索してみると、大抵でてくるのは「HB」の文字。
これは、ホームベーカリーの略称だ。
ホームベーカリーとはそもそも、パンの生地作りから焼き上げまでを自動で行ってくれる調理器具のこと。
材料を入れてスイッチひとつで食パンを作ることもできれば、こねることや、発酵の機能を使うことで、例えばロールパンやあんパンといったパンの生地もできる。
ホームベーカリーは家でのパン作りにとても有能である。
ところが、私の家にはホームベーカリーがない。
一度は買うことも考えてみたものの、価格はおおよそ5000円台から30000円台と様々。
値段が高くなればなるほど、調理できる種類の幅も選べる機能も増えていく。
最近では、ジャム、ケーキ生地、お餅、うどんといった、もはやパンではないものも作れる製品が増えている。
ホームベーカリーの良さについて書き連ねていると、今にもお財布の紐が緩みそうになるし、ないよりはある方がいいに違いない。
とはいえ、、私は今一人暮らしをしている。
パンを食べるのは、基本的に朝ごはんくらいだ。
今買うことが、身の丈に合っているかと考えると、それほど合っていないのだ。
そんなわけで、パンを作ろうと思い立ったとき、レシピを検索するときに付け加えるワードは、「HBなし」である。
これを加えることによって、意外にもホームベーカリーを使わずとも、簡単で美味しいパンレシピに出会うことができるのだ。
最近出会った、とっておきのレシピ。
今月(2021年5月)に出会って、すでに5回作っているレシピが、全粒粉を100%使ってパウンド型で作れるパン。
材料も全粒粉の他には、塩、砂糖、ドライイースト、ぬるま湯といたってシンプルだ。
何よりも、とっておきだと思えるのが作りやすさと、幸福感。
まずは、作りやすさから。
このレシピでは、「捏ねる」という工程が必要ないのだ。
必要なのは、「混ぜること」と楽しみに「待つ」ということ。
必要な材料をボールの中に放り込んだら、ゴムベラを使って混ぜる。
そしてラップをかけ、1、2時間ほど待つ。
その間は自由に他のことができる。
何も気にしなくていい。
しかし、それにもかかわらず、ついつい私はボールの中を覗きにいってしまう。
中を見ると、生地がぷつぷつと泡を出し、ゆっくりと生地が大きくなっていることに気づく。
そして私は思う。
「ああ、パンも生きているみたい!」と。
想像しやすいのは、ホットケーキを片面焼いているとき。
それを、もう少しスロー再生したような感じである。
以上が第一工程。
第二工程。
膨らんで今にもボールから流れてしまいそうな生地を、再びゴムベラで混ぜる。
いわゆるガス抜きである。
この時、私は少し申し訳ない気持ちになる。
時間をかけ、せっかく膨らんだ生地を、ほんの数秒で元の大きさに戻さなければならないからである。
そしてまた、1、2時間待機。
ボールに生地が「パンパン」になったら、パウンド型へ移動させる。
そこでもう一回、生地が膨らむのを待ち、いよいよ予熱したオーブンの中へ。
焼き上がりまで、およそ30分。
オーブンの中入れたパン生地は、膨らむまでにそう時間はかからない。
だから、私はそれをまじまじと見つめる。
材料を混ぜ、生地を作り、それがひとつのパンになる過程を自分の目で見届けられることは、便利な機械がないからこそ得られる幸福である。
加熱完了の音が鳴り、オーブンの扉を開けると、パンの香りが漂ってくる。
焼きあがったパンに耳を澄ましてみると、パチパチと小さな音が聞こえてくる。
「やっぱり、パンは生きているな」と私は思ってしまう。
少し手間をかけることで、小さな感動も味わうことができるのだ。
便利なホームベーカリーを使えば、パンのレパートリーを増やせたり、時間を短縮できたりと、「ある」ことによって得られる幸せもきっとあると思う。
でも、今のところは、それが「ない」パンづくりをとことん楽しむ予定だ。
***
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