メディアグランプリ

ラジオから聞こえたのは、もう一人の僕の声だった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井口皓介(チーム天狼院)
 
 
「それでは、逆電を繋ぎたいと思う! もしもーし!」
 
彼の声を聞いたとき、僕は息を飲んだ。
いつも聞いていたあの人の声が、今は僕に向けられているのだから……!
 
 
高校生の頃から、僕はラジオ番組をよく聞いていた。
友達の影響で邦楽にハマったからでもあるし、好きな芸能人の冠番組がちょうど始まったタイミングだったからでもある。
でも最大の理由は、学校以外の居場所が欲しかったからだ。
高校生の僕の居場所は、学校と家、そして習い事だけだった。もちろん、楽しい思い出は数えきれないし、関わってくれた人々にも恵まれていたと思う。
しかし、付き合いが深すぎて、息がつまる瞬間があるのだ。
学校の成績、恋愛、部活動……。僕が話す前に相手は知っていた、なんてこともザラだった。
多少の秘密は持っておきたいお年頃。そんな狭いコミュニティに嫌気がさしてしまったのだ。
 
「自分のことを知っている人が誰もいない環境が欲しい」
 
そんなことを考えているとき、一つのラジオ番組を見つけた。それが「SCHOOL OF LOCK!」だった。
「未来の鍵を握るラジオの中の学校」をコンセプトに掲げるこの番組は、2人のメインパーソナリティーがそれぞれ「校長」と「教頭」を名乗る。そして、リスナーは「生徒」として番組に参加する。
この番組のリスナーは10代の中高生が多く、話題も部活動や恋愛、時にはリスナー同士の相談など、本物の学校さながらの内容が展開される。
 
 
「生徒」が番組から電話をかけられ、番組に出演する「逆電」というシステムがあった。
日本全国に流れる番組に何者でもない自分が出演できる、そんなチャンスがあるだけで、僕にとっては夢のようだった。
 
 
番組を聞き始めて半年ほど経った頃だったと思う。
「生徒」がリクエストした曲のみを放送する企画があった。放送する曲をリクエストした「生徒」には逆電がかかってきて、「校長」や「教頭」と話すことができた。
 
「何千人という人が応募しているのだ。放送されるわけがない。でもやってみるか……」
 
諦めと希望(ほとんどは諦めだった)が入り混じりながらも、僕は曲をリクエストし、投稿した。
 
 
午後10時。番組が始まった。
いつも通りラジオをつけて、ノートと参考書を開く。今日はどんな曲が流れるのかな。呑気なことを考えながら、問題を解き始めた。
番組が始まって20分ほど経った頃だろうか、スマホが電話の着信を告げた。画面を見ると心当たりのない電話番号だった。
その頃はすでにLINEが普及していたため、友達との電話はほとんどLINEだった。電話番号を知っている友達は全員、名前で登録している。
「こんな時間に誰だ……?」
もう一度電話番号を確認する。市外局番は03になっている。僕の住んでいた地域ではないため、ますます身に覚えがない。
ネットで検索すると、この電話は東京からかけられていた。
 
「もしかして逆電か……?」
 
恐る恐る電話をとった。
 
 
やはり電話は番組のスタッフの方からだった。
1時間くらい後に僕がリクエストした曲を放送したい。その時に逆電をつないで、曲にまつわるエピソードを話してほしい。
それがスタッフの方からのお願いだった。
僕はもちろん「やらせてください!」と言った。
 
「本当にリクエストした曲が流れる……!」
 
それからの1時間は、ずっと落ち着かなかった。
当てもなく家の中を行ったり来たり……。勉強なんてとてもじゃないができなかった。
 
 
ラジオを聴きながら出番を待っていると、再びスマホが鳴った。
 
「この電話を切らずに待っていてください。そのままのトークが放送されます。ゆっくり、落ち着いてしゃべってね」
 
スタッフの方の声で「今から僕の声が電波に乗るんだ……!」という緊張感が増したけど、どこかでリラックスできた。それはいつも声を聞いている「校長」と「教頭」
 
そして、電話とラジオから冒頭の声が流れた。
「校長」と「教頭」に聞かれるがままに、リクエストした曲とその曲にまつわるエピソードを話す。そして、曲が流れる。
その間、わずか5分。
しかし、何物にも代えがたい5分だった。
リクエストした曲が流れたとき、いろいろな思い出が駆け巡った。
 
僕がリクエストしたのは、チャットモンチーの『きみがその気なら』という楽曲だった。
この曲を聞いたとき、気づいた。人間は多くの側面を持っているということに。
 
気心知れた友達の前でふざける僕も、受験勉強で悩みが絶えない僕も、部活動で真面目に練習する僕も、クラスの女の子に思いを寄せた僕も、全て僕なのだ。
完璧な人間なんて誰一人いない。全ての人に無理をして同じ顔をする必要なんて無いのだ。
ただ自分のやりたいことを信じて進めばいい。たとえ誰が何と言おうとも。
不器用な人間だからしょうがない。みんなにいい顔をしてうまく立ち回れない。それでもがむしゃらに進んでいくしかないのだ。
 
涙が静かに流れた。
自分自身で決めた道だから、誰の責任にもできない。
失敗することもあるだろう。それでもあの時ラジオで話したもう一人の僕はその度に僕に問いかけてくれるだろう。
 
「お前の決めた道はここで行き止まりか?」と。
 
答えは否だ。
途中で立ち止まっても、息が切れても歩き続ける。どこまでも、どこまでも。
 
さあ、未来の鍵を探す旅に出かける時間だ。
 
 
 
 
***

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2021-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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